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国籍法14条違反判明を受けて――蓮舫氏の二重国籍騒動に思う(2)

2016-10-19 08:28:41 | 事件・犯罪・裁判・司法
 前回の記事をアップしてから3週間ほど経った。
 私は、前回に引き続いて、この国籍法第16条違反の件について、さらに記事を2本準備していたのだが、パソコンが突然壊れ、ハードディスクにもアクセスできなくなり、原稿を失ってしまった。
 修理に出したが結局直らず、新品を購入した。

 そうこうしている間に、この蓮舫氏の二重国籍疑惑はさらに進展し、国籍法第16条の外国国籍離脱の努力義務違反ではなく、そもそも第14条の日本国籍選択の宣言がなされていないのではないかと指摘されるようになった。
 蓮舫氏はこの点についてしばらく明らかにしなかったが、10月15日の記者会見でようやく、このたび日本国籍選択の宣言をしたと説明するに至った。

 このように事態が変わったので、予定していた国籍法第16条の件ではなく、蓮舫氏の第14条違反について、今思うことを少し書いておく。

 BLOGOSに転載された民進党広報局の記者会見記事の該当部分は次のとおり(太字は引用者による。以下同じ)。

 問 昨日、金田法務大臣が台湾当局が発行した国籍喪失認可証は戸籍法106条にもとづいて受理していないと言っているが現状について。

 答 国籍法14条に基づいて国籍を離脱しなければいけないと、私の場合は父が17歳の時にすべての作業を終えたと思いこんでいたのでその作業は終わったと思っていた。一部指摘をされて確認をしたところ、台湾の籍が残っていたので、国籍法14条に基づいて、戸籍法106条に基づいた届け出をした。籍を抜けたので、それを届けることによって、2つの国籍の問題を解消させようと思った。ところが弁護団の報告をまとめて聞いたが、台湾の籍を抜けた証明書は不受理とされた。受け付けてくれなかった。父が台湾出身でそれ自体が複雑なんだが。法律に則って考えると籍が抜ける制度がある国の証明書は受け付けてもらえると思っていたので、不受理だということでどうすればいいかと相談したところ、強く後段の部分の選択の宣言をするようにと行政指導されたので、戸籍法104条(の2)に則って、選択宣言をした。


 参考に、国籍法と戸籍法の関連条文を挙げておく。
 国籍法第14条。

(国籍の選択)
第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。
2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。


 戸籍法第104条の2と第106条。

第百四条の二 国籍法第十四条第二項 の規定による日本の国籍の選択の宣言は、その宣言をしようとする者が、その旨を届け出ることによつて、これをしなければならない。
2 届書には、その者が有する外国の国籍を記載しなければならない。

第百六条 外国の国籍を有する日本人がその外国の国籍を喪失したときは、その者は、その喪失の事実を知つた日から一箇月以内(その者がその事実を知つた日に国外に在るときは、その日から三箇月以内)に、その旨を届け出なければならない。
2 届書には、外国の国籍の喪失の原因及び年月日を記載し、その喪失を証すべき書面を添付しなければならない。


 蓮舫氏の二重国籍疑惑が指摘され始めた頃、池田信夫氏は、蓮舫氏は日本国籍の選択をしたが、その後台湾籍を放棄していないのは二重国籍で、「結果的には違法状態」であり、「二重国籍を長く続けていると日本国籍を失うこともある」と書いた。
 そこで私は、この問題について最初に書いた記事で、日本国籍選択後の外国国籍放棄は努力義務にすぎないし、その外国の公職に就かなければ日本国籍を失うこともないと書いた。

 しかしその後、この二重国籍疑惑を指摘する人々は、第16条の外国国籍離脱の努力義務ではなく、第14条の国籍選択の宣言の有無を問題視するようになったらしい。
 どういう経緯で彼らの論調が変化したのか、私は、彼らの発言をtwitterのタイムラインで流れてきたものを見る程度にしか知らないので、よくわからないのだが。

 そして、この問題は、10月4日に自民党の小野田紀美参院議員が、わが国と米国の二重国籍の状態にあり、米国籍の放棄手続きを進めていると明らかにしたことを経て、とうとう国会の場で自民党議員が蓮舫氏を追及するに至った。
 産経新聞のサイトの10月13日付の記事はこう報じている。

 13日の参院予算委では、自民党の三原じゅん子氏が、外国籍の離脱手続きは国籍法上の努力義務規定だが、国籍選択は「義務手続き」と指摘した。その上で「蓮舫氏はいつの時点で日本国籍を選択したか明らかにしていない。閣僚や首相補佐官になる前に宣言を行ったのか明らかにしないのなら大問題だ」と述べ、証拠となる戸籍謄本の公開を求めた。


 確かに、第14条違反なら、私が前回の記事で書いた第16条のように努力義務ではなく単なる義務であるから、その不履行は「違法」と言える。

 しかし、これは三原議員の言うように「大問題」なのだろうか。
 私にはそれほどの問題とは思えない。

 重国籍者が国籍を選択をせずに放置すればどうなるか。
 法務大臣は、選択をしない者に対して、選択するよう催告することができる
 国籍法第15条にこうある。

第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。
2 〔略〕
3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつてその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この限りでない。


 しかし、この催告は、2009年5月12日の衆議院法務委員会における法務省入国管理局長の答弁によると、それまでに行われたことはないのだという。
 おそらく、現在でもそうではないだろうか。

 そして、蓮舫氏が法務大臣の催告を受けたとも聞かない。

 日本国籍がなければ日本の国会議員にはなれないのだから、仮に蓮舫氏が法務大臣の催告を受ければ、当然1か月以内に日本国籍の選択をするだろう。
 催告を受けていないのなら、二重国籍がそのままになるだけで、それによって日本国籍を失うことはないし、国会議員を失職することももちろんない。

 重大な案件だと指摘する国会議員をほかにも見たが、重大でも何でもない。

 公職選挙法の経歴詐称や旅券法の虚偽記載を指摘する声があるようだが、これらの法律違反は、故意がなければ成立しない。蓮舫氏が、自身が二重国籍であるとの認識がありながら、それを隠していたと、何をもって言えるのだろうか。
 認識があった証拠としてタレントやキャスターの時代の発言が挙げられているようだが、前回も述べたように、あんなものに証拠としての価値があるとは思えない。少なくとも裁判の場では、よく知らずに話してしまったと弁明されればそれまでだろう。

 これも前回述べたが、蓮舫氏は単に、わが国の国籍制度について十分に理解していなかっただけではないかと思える。

 そして、蓮舫氏が日本国籍を取得したときに、係官から、国籍の選択が義務づけられていることの説明はあったのだろうか。
 仮にあったとしても、蓮舫氏はそれを理解できたのだろうか。
 理解できたとしても、それをその後20年以上にわたって記憶していたのだろうか。
 そんな疑問も浮かぶ。

 また、国や市区町村は、この二重国籍の解消に努めてきたのだろうか。
 戸籍法にはこんな条文もある。

第百四条の三 市町村長は、戸籍事務の処理に際し、国籍法第十四条第一項 の規定により国籍の選択をすべき者が同項 に定める期限内にその選択をしていないと思料するときは、その者の氏名、本籍その他法務省令で定める事項を管轄法務局又は地方法務局の長に通知しなければならない


 蓮舫氏は日本国籍取得後、日本国民と結婚しているから、その際「戸籍事務の処理」が行われているはずである。
 そのときに、市区町村の事務担当者は、国籍選択がなされていないことに気づいて、それを法務局に通知する手続きをとったのだろうか。

 通知があったとしても、法務省が催告をしていないことは先に述べたとおりだが、催告にまで至らなくとも、今回蓮舫氏が記者会見で述べたように、「行政指導」することはできたはずである。
 それを知りながら敢えて放置していたということはないのだろうか。

 二重国籍など、わが国において、その程度のものでしかなかったのではないだろうか。

 私は、この問題について最初に書いた記事のタイトルを「蓮舫議員の二重国籍疑惑はネットデマでは?」とした。

 結果的には蓮舫氏は二重国籍状態であったわけで、その点についてはデマではなかったことになる。

 しかし、日本国籍選択後に台湾籍を離脱する義務があり、離脱しなければ「違法」だという池田氏と八幡和郎氏の主張はデマだった。
 その点について、彼らは何か反省を示したのだろうか。

 そして、その後問題にした第14条違反についても、まだデマを述べているようだ。
 例えば、池田氏は10月3日付のアゴラの記事で、こう述べている。

このように日本の国籍法はややこしく、彼女のような間違いが多い。戸籍謄本で国籍選択を「宣言」しても、アメリカ大使館に行って国籍放棄の手続きを完了しないと正式の「日本国民」になれないという国籍法の規定にも問題があるが、これは代行業者に頼めばできることで、小野田氏の過失責任まぬがれない。


 「正式の「日本国民」になれない」などという国籍法の規定はない。日本国籍選択の宣言の後の外国国籍の法規は努力義務にすぎず、それを果たさずとも「正式の「日本国民」」であることに何ら変わりはない。

つまり蓮舫氏は意図的な二重国籍であり、それを隠していた疑いが強い。彼女が戸籍謄本を公開すれば、疑いは晴れる。自民党の1年生議員が出せたものを、民進党の代表が出せないことはあるまい。ここで何も出さないと、国籍選択の宣言をしないで(日本国民にならないで)選挙に立候補したと解釈せざるをえない。これは国籍法14条違反なので、原口元総務相のいうように、当選無効になる可能性がある。


 国籍選択の宣言をしなくても、日本国籍を取得している以上、日本国民であることに変わりはない。上で述べたとおり、法務大臣の催告を無視しない限り日本国籍を失うことはないし、それだけでは当選無効にもならない。

 だから、「ネットデマでは?」の記事を訂正する必要はない(14条違反だったという点については追記する)と考えているし、その記事の結びで述べた、

《八幡氏や池田氏らはこの蓮舫議員の対応を自分たちのネット言論の勝利だと考えるのかもしれないが、私には、先のビジネスジャーナルの虚報にも似た、ネットメディアの信頼性を失わせる実に愚劣な騒動だったと思える。》

との認識にも変わりはない。

 そういえば、上の蓮舫氏の記者会見での質問にあるとおり、14日に金田勝年法務大臣が、一般論として、台湾の国籍喪失届はわが国では受理していないと述べたという。
 14日付の時事通信の記事より。

金田勝年法相は14日の記者会見で、民進党の蓮舫代表が「二重国籍」解消のために行ったとしている手続きに関し、「一般論として、台湾当局が発行した外国国籍喪失届(国籍喪失許可証)は受理していない」と指摘した。

 蓮舫氏は13日の会見で「戸籍法106条にのっとって適正に手続きしている」と説明している。106条では、二重国籍を持つ人が相手国の発行した国籍喪失許可証を提出すれば二重国籍を解消することができるが、日本政府は台湾を正式な政府として認めておらず、許可証を受理していない

 許可証が受理できない場合は、同104条に基づき、日本国籍だけを所有する意思を宣誓する「国籍選択宣言」を日本政府に提出する必要がある。法務省は台湾籍を離脱する場合、同宣言の提出を求めている

 国籍選択の宣言をすれば、手続きした日付が戸籍に明記されるが、蓮舫氏は戸籍謄本の公開に応じていない。蓮舫氏の事務所は「本人がいないので分からない」としている。


 私は、この問題について最初に書いた記事で、池田氏や八幡氏が蓮舫氏に要求していた台湾の国籍離脱証明書について、

《そもそも、中華民国の国籍離脱手続を取れといったって、わが国はその中華民国を国家として承認していないのである。そんなものに何の効力があるのだろうか。》

と書いた。
 そのとおりだったではないか。

 あのとき、いや台湾の国籍離脱証明書はわが国において有効だとしたり顔で主張していた人々がいたが、彼らはこの結果にどう反応するのだろうか。

 何とも思わずに、次の話題に飛びつくだけだろう。

 あと、私を蓮舫氏の擁護論者の一人に挙げている人がいたが、以前にも書いたように私は蓮舫氏の支持者でも民進党の支持者でもないし、蓮舫氏を擁護するために一連の記事を書いているのではない。
 
 私がこの問題について記事を書き始めたのは、義務のないことを義務があるとし、日本国籍を失わないのに失うとする池田氏や八幡氏の主張はデマであり、デマがまかりとおるのはよろしくないと考えたからだ。
 あと、出自によって人を非難するという手法が気に入らないということもある。

 この件で蓮舫氏がどうなろうと知ったことではないし、問題化以降の彼女や民進党の対応を見ていると、全く擁護する気になどなれない。

 私のような国籍法の素人でも、条文を読めば、国籍選択がなされているのか否かがいずれ問題になるだろうことはわかる。
 なのに、法的に何が問題になっているのか、どうすれば解決できるのかを的確に判断し、それに向けて事態を動かそうとしない。ただただ、その場しのぎの対応しかできていなかったように思う。
 蓮舫氏個人にそれを求めるのは酷としても、彼女の事務所なり民進党なりにそれができるスタッフがいない。
 池田氏、八幡氏らに指摘されるがままに台湾に国籍離脱を届け出て、離脱証明書を取り寄せて、それを提出して不受理とされるなんて、これが一度は政権を担当した政党(正確にはその後身だが)のやることだろうか。
 私は現在の国籍制度についてさほど問題はないと考えているが、民主党は2009年のマニフェストで、重国籍の容認に向け国籍選択制度を見直すとうたっていたというのだから、この問題を逆手にとって、制度見直しを提言するといったことぐらいできなかったのか。

 「今の段階で政権交代って、まだ言えない」とは蓮舫氏が先の党代表選で述べたことだが、本当にこんなことでは再び政権を任せられそうにない。
 もともと前身の民主党の時代からそう上等な政党ではなかったと思うが、下野後、さらにレベルが落ちているのではないか。
 今回の騒動に何かしら意義があったとすれば、彼らのそうした無能さを明らかにしたことだろう。