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日々の思いをたまに綴るブログ。

千葉法相の英断を評価する

2010-07-29 01:20:45 | 事件・犯罪・裁判・司法
 昨日の朝日新聞夕刊は1面トップで千葉法相が死刑執行を命じたと報じた。

千葉法相 2人死刑執行
 政権交代後初 自ら立ち会う

 千葉景子法相は28日午前に記者会見を開き、死刑囚2人の死刑を同日に執行したと発表した。死刑の執行は昨年7月に3人に対して行われて以来、1年ぶり。確定した死刑囚はこれで107人となった。政権が交代し、千葉法相が昨年9月に就任してから初めての執行となる。かつての死刑廃止議員連盟のメンバーで、今月の参院選で落選した千葉法相が執行に踏み切ったことは、論議を呼びそうだ。


 出た! 「論議を呼びそうだ」。
 
 千葉法相は会見で、自ら執行に立ち会ったことを明かし、「死刑に関する根本からの議論が必要だと改めて思った」と語った。法相として執行に立ち会ったのは「おそらく初めて」という。そのうえで、法務省内に勉強会を設置し、死刑制度の存廃を含めたあり方を検討する▽国民的な議論の材料を提供するため、メディアによる東京拘置所内にある刑場の取材の機会を設ける――ことを明らかにした。

 執行されたのは、2000年6月、宇都宮市の宝石店で女性従業員6人を焼死させ、1億4千万円相当の貴金属を奪ったとして、強盗殺人などの罪が確定した篠沢一男死刑囚(59)▽03年8月、埼玉県熊谷市で飲食店従業員などの男女4人を殺傷したとして、殺人などの罪が確定した尾形英紀死刑囚(33)――の2人。ともに東京拘置所で執行された。

 篠沢死刑囚は02年に宇都宮地裁で、尾形死刑囚は07年にさいたま地裁でそれぞれ死刑判決を言い渡された。いずれも07年に死刑が確定し、執行までの期間は、篠沢死刑囚が約3年4カ月、尾形死刑囚が約3年だった。

 近年では、鳩山邦夫元法相が約1年の在任期間中に約2カ月に1度、計13人の死刑を執行した。千葉法相の前任の森英介前法相も3回にわたって9人に執行した。

 死刑執行まで1年以上の空白期間ができたケースも過去にはある。就任会見で「サインしない」と発言し、直後に撤回した杉浦正健元法相の在任期間(約11カ月)を含む06年12月までの約1年3カ月、執行されなかった。


 以前にも述べたが、死刑執行の法務大臣命令について、刑事訴訟法第475条第2項は

判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。


と定めている。したがって、この項の但し書きに当たらない死刑囚については、法務大臣は判決確定から6か月以内に死刑執行を命じ「なければならない」はずである。
 だから、法務大臣個人が死刑に賛成でないからといって、死刑執行を停滞させるがごとき行為は、この条文に反しているのである(もっとも、この6か月以内という期限については、法的拘束力のない訓示規定にすぎず、これに反しても違法ではないとする地裁判例があるそうだが)。

 ところが、55年体制下の第2次海部改造内閣で法務大臣を務めた左藤恵は、自己の信条を理由に死刑執行を拒否し、しかもそれを公然と表明した。続く宮沢内閣の田原隆法相の下でも死刑の執行はなく、宮沢改造内閣で警察官僚出身の後藤田正晴が法相に就くに至って、ようやく死刑の執行が再開された。
 以後、短命大臣を除いて、死刑は細々と執行され続けてきたが、第3次小泉内閣の杉浦正健法相が、またしても信条にのっとり執行しなかった。そのためか後任の長勢甚遠と、その後を継いだ鳩山邦夫は、近年にない2桁台の執行に及ぶこととなり、鳩山は朝日新聞夕刊のコラム「素粒子」に「死に神」と揶揄されるに至った。
 死刑執行が法務大臣の裁量によるものであるかのような前例を作った左藤の罪は極めて重い。

 政治家が個人の信条として死刑廃止論に立つことはあっていいし、それを政治課題としてもかまわない。
 しかし、わが国の死刑制度が上記のようなものである以上、法相の地位に就いたのなら、粛々と死刑を執行すべきだし、それができないというなら初めからその地位に就くべきではないというのが私の持論である。
 千葉景子が死刑廃止に積極的であるとは聞いていたので、左藤や杉浦のような事態が三たび繰り返されるのではないかと心配していた。
 だから、今回の執行は英断であると評価したい。

 アサヒ・コムには千葉法相の記者会見の模様がもう少し詳しく載っていた

死刑執行に立ち会い、千葉法相「根本からの議論が必要」

 「執行が適切に行われたことを自らの目で確認し、あらためて根本からの議論が必要と感じました」。死刑執行に立ち会った千葉景子法相は、神妙な面持ちでそう語った。

 就任以来、執行に慎重な姿勢を示し「国民的な議論」と「刑場などの情報公開」が必要との考えを繰り返してきた。執行前日の27日の記者会見でも「在任中に具体的な動きを起こす考えはあるか」と問われ「なかなか知恵がないですけれども、いろいろと念頭に置きつつ努力を継続している」と、かわしていた。

 その翌日の執行。「国民的議論をする前になぜ執行したのか」と記者会見で問われると、「国民的な議論を深めるに至ることができなかったことは確か」と認めた。そのうえで、「今後真正面から議論させていただき、それを受け止めて議論が展開していくことを願っている」と話した。

 死刑は、再審請求されている場合などを除き、判決確定から6カ月以内に執行するよう刑事訴訟法に定められている。千葉法相は、選挙前から確定した裁判記録を読むなどして「様々な要件や状況を検討してきた」という。今月の選挙で落選したことの影響を問われると「まったくそれはございません」と否定した。

 今後の内閣改造の時点で、政界から引退することを示唆しているが、省内には勉強会を設けることも決めた。その成果については「簡単に結論が出るとは思えないが、ご意見を聞きながら議論の内容を発信していきたい」。

 死刑廃止の持論をなぜ曲げたのか、という問いには「考え方を異にするということではなく、職責に定められていることをさせていただいた」と厳しい表情のまま語った。


 わざわざ執行に立ち会ったこと、「今後真正面から議論させていただき」と述べていることなどから、千葉はまだ死刑廃止論者であるように見える。
 にもかかわらず執行に踏み切ったその姿勢を重ねて評価したい。

 これに対し、自公両党からは落選大臣に死刑執行の資格などないといった声があがっているという。

政府・与党、死刑執行「適正な判断」=野党、落選法相を批判

 民主党政権下で初めて死刑執行されたことについて、政府や与野党からは28日、賛否両論が相次いだ。政府・与党は「千葉景子法相が法の定めるところに従って適正に判断された」(仙谷由人官房長官)と強調。これに対し、野党側は千葉氏が参院選で落選したことを問題視し、「国民にノーと言われた人が死刑執行のはんこを押した」(川崎二郎自民党国対委員長)と批判した。

 仙谷氏は記者会見で、今回の死刑執行について「政権内部でいま執行すべきだとか、すべきでないとか議論したことはない。あくまでも任された千葉氏の判断だ」と説明した。

 千葉氏が命じたことの是非に関しては「法治主義の下で自らの職務を全うした。それ以上でもそれ以下でもない」と述べた。枝野幸男民主党幹事長も「粛々と法に基づいて法執行を行ったと受け止めている」と記者団に語った。

 これに対し、川崎氏は記者会見で「レッドカードを受けた人がやるべきことではない」と批判。山口那津男公明党代表も「(千葉氏は)法相の職にふさわしいかどうかという点で民意を得られなかった。国民の理解が得られない」と指摘した上で、「菅直人首相の任命責任が改めて問われる」と記者団に語った。 

[時事通信社]


 しかし、左藤や杉浦の職務怠慢を問うこともなく放置してきた自民党(杉浦については公明党も)にそんなことを言う資格があるのか。
 国務大臣の任命権は内閣総理大臣にある。選挙は国会議員を選ぶ機会ではあっても大臣としてふさわしいかどうかを判断する場ではない。「レッドカード」「法相の職にふさわしいかどうかという点で民意を得られなかった」との非難は当たらない。

 言っておくが私は千葉法相が積極的とされる人権擁護法案にも夫婦別姓法案にも反対である。千葉のかねてからの政治的スタンスも支持しない。
 しかし、今回の死刑執行は上に述べたような理由で評価するし、落選したから大臣の資格もないといった主張は実に低次元の言いがかりにすぎないと考える。

(関連記事
 死刑廃止論者の言い分
 死刑執行を自動的に? 鳩山法相

民主党政権は安保政策の見直しに踏み込め

2010-07-28 07:12:21 | 現代日本政治
 昨日の朝日新聞朝刊は1面トップで、首相の諮問機関が安保政策の見直しを提言する見通しだと報じた。

非核三原則見直し提言
 新安保懇報告案 武器輸出も言及

 菅直人首相の私的諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長=佐藤茂雄・京阪電鉄最高経営責任者)が首相に提出する報告書案の全容が26日、明らかになった。日米同盟の深化のため、日本の役割強化を強調。非核三原則の見直しにも踏み込んだ。必要最小限の防衛力を持つとする「基盤的防衛力」構想を否定し、離島付近への重点配備を強調した。

 報告書は8月上旬にも首相に提出され、今年末に民主党政権として初めて策定する新しい「防衛計画の大綱」のたたき台となる。自公政権時代の主要な論点をおおむね引き継いだ上に、長く「国是」とされてきた非核三原則に疑問を投げかけた内容が議論を呼ぶことは必至で、菅政権がどこまで大綱に取り入れるかが焦点になる。

 報告書案は、米国による日本への「核の傘」について、「地域全体の安定を維持するためにも重要」「究極的な目標である核廃絶の理念と必ずしも矛盾しない」と評価。非核三原則について「一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明ではない」と指摘し、事実上、三原則のうちの「持ち込ませず」を見直すよう求めている。

 日本周辺の安全保障環境について、中国の海洋進出や北朝鮮の核・弾道ミサイル開発などに触れ、「米国の力の優越は絶対なものではない」と位置づけた。そのうえで「日本を含めた地域諸国が、地域の安定を維持する意思と能力を持つかが、これまで以上に重要」とした。

 こうした認識を背景に、報告書案は、米国に向かうミサイルを日本が撃ち落とすといった形での集団的自衛権行使に言及した。

 武器禁輸政策で国内防衛産業が「国際的な技術革新の流れから取り残される」とも指摘。先端技術に接触できることや開発経費削減などのため、米国以外の国々との間でも装備品の共同開発・生産をできるようにするため、武器輸出三原則を見直すよう求めた。

 冷戦時代に採用された「基盤的防衛力」という考え方について、「もはや有効ではない」と明言。この考え方に基づく自衛隊の全国への均衡配備を見直し、中国海軍が頻繁に行き来する南西諸島周辺を念頭に置いた部隊の配備や日米共同運用の強化などの必要性に言及。潜水艦の増強も「合理的な選択」とした。ミサイル防衛に関して「打撃力による抑止をさらに向上させるための機能の検討が必要」として、「敵基地攻撃能力」の必要性にも言及した。


 さらに4面には報告書案の要旨と詳細な解説記事が掲載されている。

 4面に掲載されている「新安保懇メンバー」は次のとおり。

【委員】岩間陽子・政策研究大学院大教授▽佐藤茂雄・京阪電鉄最高経営責任者=座長▽白石隆・日本貿易振興機構アジア経済研究所長=座長代理▽染谷芳秀・慶大教授▽中西寛・京大大学院教授▽広瀬崇子・専修大教授▽松田康博・東大准教授▽山本正・日本国際交流センター理事長
【専門委員】伊藤康哉・三井住友海上火災顧問(元防衛事務次官)▽加藤良三・日本プロ野球コミッショナー(前駐米大使)▽齋藤隆・日立製作所特別顧問(前防衛省統合幕僚長)


 私はこの中で聞いたことのある名前は岩間陽子、中西寛、加藤良三ぐらいしかないが、彼らの論調からすると、こうした内容の報告書となっても決しておかしくはないと思う。
 むしろ、現代の常識的見解と言えるのではないだろうか。

 私はこの新安保懇について全く知らなかったのだが、首相官邸のホームページによると、鳩山前政権下の本年2月に第1回会合が開かれている。

 以前にも述べたが、鳩山由紀夫は改憲論者である。
 また、辞意表明の際の「米国に依存し続ける安全保障をこれから50年、100年続けて良いとは思わない」という発言からも、諮問機関の報告書がこうした内容となっても全く不思議ではない。
 単に「友愛」「リベラル」で切って捨てていい人物ではないのである。

 伝えられる報告書案の内容はしごくもっともなもので、私は全面的に賛同する。
(非核3原則の見直しにつては3年半前にも触れたことがある)

 しかし、朝日新聞は同じ4面で次のような冷水を浴びせる記事をも掲載している。

反発必至 低い見直し可能性

 新安保・防衛懇が唐突とも言える「非核三原則」の見直しの提言に踏み切った。ただ、この提言を受け入れて菅政権が直ちに非核三原則の見直しに踏み切る可能性は小さいのが実情だ。
 提言の背景には、岡田克也外相らによる核密約の調査で、核兵器を積んだ米艦船の日本への寄港が容認されていた事実が明らかにされたことがある。非核三原則の一つが「骨抜き」になっていた実態に現実の政策を合わせるべきだとの議論が専門家の間に高まり、報告書案に盛り込む気運を高めたと見られる。
 懇談会は、鳩山前政権下で発足。民主党政権は鳩山・菅政権を通じ「防衛政策の大綱」(防衛大綱)の年内策定を公約してきた。だが、鳩山由紀夫前首相は、密約調査の結果を踏まえた上で非核三原則を堅持する考えを表明。岡田外相も同じ考えを示している。世界で唯一の被爆国の「国是」を変えることへの世論の強い反発も必至だ。


 さらに、同日夕刊のコラム「素粒子」ではこんなことも。

 広島の平和記念式典に米英仏が初出席する。原爆投下国の参加は、憎しみと正当化論を乗り越えるか。オバマ大統領のプラハ演説に始まった核なき世界への追い風よ、もっと強く吹け。
    ■
 かたや、逆風も吹く。首相の私的諮問機関が「核持ち込ませず」原則の見直しを提言。非核の願いは、どこ吹く風のよう。
 核を落とした国の「核の傘」に頼る被爆国。私たちが65年間、抱え続けているジレンマ。


 朝日がそんなに「ジレンマ」を解消したいのなら、日米安保条約の解消を説けばよい。「アンポ、フンサイ!」と。
 しかし、朝日は近年の社説で、憲法9条と日米安保はわが国の安保体制の両軸であり堅持すべきだと主張していたのではなかったか。

 戦争を起こさないために軍備を保有するというのは別に「ジレンマ」ではない。
 同様に、核戦争を起こさせないために核兵器を保有するというのも「ジレンマ」ではない。

 私が民主党への政権交代で期待するのは、これまでの政府・自民党により築かれてきた諸課題の経緯、しがらみを超えた次元で政策判断ができるということだ。
 先の参院選前の菅首相の消費税発言にしても、そういう点で私は評価している。
 また、以前、皇室典範の改正を期待するとも書いた(その後、全くそんな動きは聞かないが……)。 
 逆に言えば、そうしたドラスティックな改革に踏み込まないなら、政権交代など私にとっては無意味だ。

 ねじれ国会でもあることだし、菅内閣には、新安保懇の報告を参考に、自民党と協力してでも、安保政策の見直しに踏み切ってもらいたい。
 

金賢姫は「テロリスト」か

2010-07-27 07:09:11 | 現代日本政治
 今回の金賢姫の訪日に際し、ネットの掲示板やブログで、大した情報を得られないにもかかわらずテロリストに多額の税金を費やして……といった批判がいくつか見られた。

 これらを読んで不審に思った。
 金賢姫は、「テロリスト」なのだろうか。
 
 タイミング良く、私の記事にもこんなコメントが寄せられた。

テロリストをVIP待遇するのは、日本の菅政権、北朝鮮の金正日政権及びキューバのカストロ政権。
拉致被害者が帰ってくるのならともかく、民主党政府が小型ジェット機をチャーターしてまで呼ぶ相手なのだろうか。


云々。

 大韓航空機爆破事件というテロの実行犯なのだから、テロリストと呼ばれるのは当然のことなのかもしれない。
 しかし、私は金賢姫を「テロリスト」と呼ぶ気にはなれない。

 例えば、永田鉄山軍務局長を斬殺した相沢三郎中佐はテロリストだろう。
 山口二矢ももちろんテロリストだろう。
 難波大助や津田三蔵もテロリストだろう。
 五・一五事件や二・ニ六事件の首謀者である青年将校もテロリストだろう。
 9.11テロの実行犯やそれを指示した者もテロリストだろう。
 安重根や尹奉吉もテロリストだろう。
 アレクサンドル2世の暗殺犯やサラエボ事件の実行犯もテロリストだろう。

 しかし、金賢姫は「テロリスト」だろうか?

 他の言語についてはいざ知らず、日本語においては、「テロリスト」とは、単にテロの実行者を指すのではなく、ほかにも選択の余地があったにもかかわらず、敢えてテロという手段に訴えた者を指す言葉ではないだろうか。
 例えば、二・ニ六事件の首謀者たちはともかく、彼らの指揮に従った一般将兵を――その中には重臣や警護の警官を射殺した者もいるだろうが――テロリストとは呼ぶまい。

 大韓航空機事件当時、北朝鮮において、金父子の命令は絶対である。
 金賢姫は、北朝鮮で生まれ育ち、それを当然としてきた人間である。
 金賢姫は、何も好きこのんでテロ犯という立場を選択したわけではない。北朝鮮国民という立場上、そうせざるを得なかったのだし、抗うことは許さなかった。
 そうした人間を、誰が「テロリスト」として指弾することができるのだろうか。
 憎むべきは金父子とその体制であり、彼女個人ではないだろう。

 大韓航空機事件の直後、わが国において、彼女に対し「テロリスト」との非難が声高に語られることはなかった。
 それから20年余、ネット上でそうした非難を見ることは極めて容易である。

 考えたくないことだが、この20年余で、ネットというツールが与えられたことによって、わが国民の道徳レベルはむしろ低下しているのかもしれない。
 というより、そうした低レベルの情報発信が容易になったということか。

金賢姫への「厚遇」に対する批判について

2010-07-26 06:17:53 | 現代日本政治
 今回の金賢姫の訪日には批判が多かったようだ。

 22日配信の時事通信の記事より。

「政権のパフォーマンス」=金元工作員来日、自公が批判

 自民党の谷垣禎一総裁は22日午後の記者会見で、金賢姫元北朝鮮工作員の来日について「(拉致問題解決に向けた)新しい進展がないという話もある。全くパフォーマンスのためにしたもので、極めて疑問が多い」と語り、民主党政権の対応を強く批判した。
 谷垣氏は、金元工作員が鳩山由紀夫前首相の別荘に滞在したことについても「(元工作員が関与した)大韓航空機事件で115人が亡くなった。こういうテロ事件の実行犯を日本に迎えるときにVIP待遇というか、国賓待遇といったら言い過ぎかもしれないが、国際的に、日本がテロをどう考えているのか理解を得られないのではないか」と疑問を呈した。
 公明党の山口那津男代表も会見で「何が目的で、どういう効果を狙っているのか定かではない」と指摘。「税金を使う以上は国民に対し説明する必要があるが、(政府の説明は)不十分だ」と語った。
 一方、菅直人首相は22日夜、野党が厚遇ぶりを批判していることについて、首相官邸で記者団に「安全確保の面からの措置だと聞いている。理解いただけるのではないか」と述べた。


 23日付けの朝日新聞はこう報じた。

 日本政府が用意した小型ジェット機で夜明けの羽田空港に降り立ち、前首相の軽井沢の別荘に滞在、ヘリで東京都心上空などを遊覧飛行――。大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元死刑囚の来日は異例ずくめだ。巨額の費用と人員を投じながら、拉致問題解決につながる新情報は出ていない。それでも、被害者家族は金元死刑囚の言葉に胸を揺さぶられ、希望をつないだ。金元死刑囚は23日、韓国に帰国する。

 「ジェット機を爆破した北朝鮮の元スパイが日本で歓待される」「信じがたいスパイ・ストーリー」。英紙インディペンデントは東京電で、こう驚きを表した。金元死刑囚の日本での処遇を、韓国の大手紙朝鮮日報は「国賓級の歓迎」と伝えた。

 来日を主導した中井洽拉致問題担当相は「パフォーマンスなら(参院)選挙前にやっている」と反論する。一方で、政府関係者は「サッカーのワールドカップが終わり、来日のニュースが注目されやすいこの時期を選んだと聞いた」と打ち明ける。

 金元死刑囚の来日時期は、韓国政府との交渉で一時、5月と決まりかけたが、3月に韓国哨戒艦沈没事件が発生したため、延期されていた。

 韓国の情報関係者は、哨戒艦沈没事件との関係について「事件は北の仕業だ、とする韓国の立場を日本政府が早くから全面的に支持してくれたことで、訪日実現を後押しする機運が高まった」と話す。

 日本政府はすでに金元死刑囚から聴取しており、今回の来日で拉致問題の進展につながる新たな証言が得られる可能性は低いとの見方が強かった。だが拉致問題は、自公連立政権下の2008年8月の日朝実務者協議以降、交渉が止まっている。ある政府関係者は「来日は、拉致被害者家族会の政府への不満が高まるのを避けるため、家族会の要望を実現させ、世論へのアピールもねらったものなのではないか」と話している。金元死刑囚には日本政府から「謝礼」が支払われるという。

 大韓航空機爆破事件の実行犯として死刑判決が確定した金賢姫元死刑囚は、特赦されているものの、本来は入国拒否の対象だ。事件当時に日本の偽造旅券を所持していた偽造公文書行使の疑いもある。だが今回、千葉景子法相は出入国管理法の「上陸を拒否しない特例」を適用して入国を認めた。特例は昨年の同法改正でできた条項で、昨年9月の千葉法相就任後では初めての適用だ。

 政府関係者によると、金元死刑囚が乗ったチャーター機の費用は1千万円という。

 羽田空港から軽井沢まで、金元死刑囚を乗せた車列は高速道路を疾走した。警察幹部は「米国の閣僚級、準国賓級の警備態勢」と話す。警視庁や長野県警など100人規模を動員。警備車両に約10人が乗り、通過する信号を青に切り替えるなど、数百万円かけて厳戒態勢を敷いた。

 滞在先に鳩山由紀夫前首相の別荘が選ばれたのは、金元死刑囚の「静かな場所で手料理を振る舞いたい」という意向が反映された。鳩山氏によると、参院選期間中に中井氏から「君の別荘を貸してくれないか」と頼まれ、「国益になるなら」と了承したという。別荘には、すしやバーベキュー、フランス料理などが宅配された。

 22日には東京都調布市のヘリポートから約1時間の「遊覧飛行」をした。「富士山を見たい」と金元死刑囚が希望したという。都内でヘリコプターを運航する会社によると、8~10人乗れる同型機を1時間チャーターすると相場は80万円ほど。

 来日の経費は、拉致問題に関する政府予算などから出されたとみられる。拉致問題関係の予算は今年度、前年度の約2倍となる12億円が計上された。政府内には「官房機密費からも充当されたのではないか」との見方もある。

 22日、「遊覧飛行」の是非や経費の総額について報道陣に問われた中井氏は「何で答えなくちゃいけないんですか」といらだちを見せた。


 アサヒ・コムによると、中井は23日に次のように弁明したという。

 中井洽拉致問題担当相は同日の閣議後会見で、今回の来日について「家族会の皆さんに希望をお持ち頂き、頑張るという気持ちを強めていただいた」と評価した。「拉致事案の徹底解明に向かって、あらゆる努力を韓国と一緒にやる。日本は情報を必死で集めようとしている、こういうメッセージを世界中に送れた」と成果を強調した。日本政府から金元死刑囚に謝礼を渡したか問われると「全然ありません」と否定。金元死刑囚と家族の土産に、ゲーム機や筆箱、ボールペンを贈ったと述べた。

 22日に金元死刑囚が軽井沢町から都内のホテルに向かう途中、ヘリコプターで東京上空などを「遊覧飛行」したことについては「この機会にちょっと上空を見せてあげる。こんなことを非難していたら、情報を持っている人は日本に来ない」と持論を展開。「韓国はすさまじい反対だったが、私の責任で飛ばしてくれと言った。非難は僕に浴びせてください」と述べた。

 一方、政府認定の被害者以外に、北朝鮮に拉致された疑いがあるとして特定失踪(しっそう)者の調査をしている特定失踪者問題調査会の荒木和博代表は「避暑地に行ったりヘリに乗ったりする時間があるなら、特定失踪者の家族と会ってほしかった」と批判した。


 警護が国賓級であっても、政府の対応が国賓級であったわけではないだろう。首相が出迎えたわけでも、天皇と会見したわけでもない。
 前首相の別荘に宿泊させるという異例の措置も、果たして国賓級だったと言えるのか。そんな国賓がこれまでにいただろうか。もっぱら警護上の理由ではないのか。

 多くの人が、金賢姫は北朝鮮によっていつ殺されてもおかしくない人間だということを忘れているのではないか。
 かつて北朝鮮は、朴正煕大統領暗殺のために特殊部隊を韓国に派遣し(失敗に終わった)、ラングーンで全斗煥大統領の暗殺をも図った(大統領は免れたが外相らが死亡)。金正日の2番目の妻とされる成琳の甥で韓国に亡命した李韓永は、1997年に北朝鮮の工作員により銃撃され死亡した。
 北朝鮮とはそういう国である。
 金賢姫を安易に「元死刑囚」「テロリスト」と非難する人は、彼女が赦免後韓国で安逸な生活を続けていたとでも思っているのだろうか。

 もし、訪日中に金賢姫が殺害されるようなことがあれば、それこそ大失態であり、世界の笑いものになるだろう。
 そこまで至らずとも、何らかの危害を加えられたとしても、同様の事態となるだろう。
 北朝鮮だけでなく、大韓航空機事件の遺族もまた金賢姫に対しては悪感情を抱いているようだし、その他様々な思惑で動く者どもがいることだろう。

 今回の訪日に際して、新たな情報は得られなかった、政権のパフォーマンスに過ぎない、費用対効果はどうなのかといった批判があると聞く。
 たしかに、パフォーマンスに過ぎないかもしれない。しかし、パフォーマンスもまた重要ではないか。
 民主党政権においても拉致問題解決は重要課題であり、少なくともこの問題を棚上げにして日朝国交正常化に及ぶことはないというメッセージにはなっているだろう。
 私はそこのところを評価したい。

 この金賢姫訪日について、意外なことに、石原慎太郎都知事が政府の対応を擁護しているという。
 ネット上で見つけた24日のスポーツ報知の記事から。

慎太郎知事、政府を擁護「ちやほやしたわけじゃない」

 東京都の石原慎太郎知事(77)は23日の定例会見で、金賢姫元北朝鮮工作員の移動の際に政府がヘリコプターを使用したことについて「日本で暗殺されたら大変なことになる。一容疑者をちやほやしたわけじゃない」と擁護した。野党からは「国賓級の扱い」と批判が出ていた。

 また石原氏は、政府が消費税率引き上げを行う場合、民主・自民による大連立の必要性を強調。「日本の高福祉、低負担はそろそろ限界。国民は税を通じた負担の認識、自覚がなくなった」と述べた。石原氏は消費税率引き上げに積極的な「たちあがれ日本」を応援している。


 私は石原の言動については疑問が多く、このブログでも何度か批判してきた(例えばこれ)が、今回の一件で少し見直した。

 Googleニュースで検索した限りでは、この石原発言を報じたのはスポーツ報知1紙だけだった。そんなにニュースバリューに欠ける発言だろうか。

金賢姫「元死刑囚」という呼称

2010-07-25 09:17:29 | マスコミ
 昨日の記事の引用部分にもあったように、朝日新聞は金賢姫を「金賢姫元死刑囚」と呼んでいる。
 これは今回だけでなく、以前にも見た記憶がある。
 私は前からこの「元死刑囚」という肩書きに違和感を覚えて仕方がない。

 こういうのはマスコミ各社が足並みをそろえているのかと思っていたが、今日調べてみると、「元死刑囚」としているのは全国紙では朝日のほか毎日新聞ぐらいのもので、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞、共同通信、時事通信は「元工作員」としていた。
 テレビについては、ネット上でのニュース(の文章)を見る限りでは、NHKは「元死刑囚」としていたが、日本テレビ、テレビ朝日、TBSは「元工作員」としていた。
 「元死刑囚」は少数派のようである。やはり、違和感を覚える声に配慮したのだろう。
 工作員という正式な職業があるわけではないので、「元工作員」という表現にも疑問はあるが、「元死刑囚」の語感よりはましだろうか。

 死刑囚が冤罪であるとして再審を求めているというニュースなら、「○○死刑囚」と報じるのもわかる。
 あるいは、その再審の結果、無罪となったというニュースなら、「○○元死刑囚」と呼ばれてもおかしくないだろう。
 しかし、死刑判決を受けたものの特赦により執行を免除され、その後約20年を経ている者を今なお「元死刑囚」と呼ぶことが妥当なのだろうか?

 朝日や毎日、NHKは、金賢姫は本来死刑に処されるべきだったのに政治判断により特赦されたのは不当だ、一生「元死刑囚」と扱われることによりその罪を少しでも償うべきだとでも考えているのだろうか?
 もちろん、そうではないのだろう。
 ただ、「元死刑囚」に代わる適当な呼称がない以上、そう呼ばざるを得ないと考えているのだろう。

 しかし、かつて覚せい剤取締法違反で執行猶予判決を受けた槇原敬之を、現在「槇原敬之元被告人」と呼ぶメディアはない。
 稲垣吾郎を現在「元容疑者」と呼ぶメディアもない。
 鈴木宗男・衆院外務委員長を「鈴木宗男被告人」と呼ぶメディアもない。

 それは、彼らには現在れっきとした肩書きがあり、それで呼ばれるのが当然だからだ。
 だが、金賢姫には、何の肩書きもない。一私人に過ぎない。
 だからこそ、メディアは「元死刑囚」あるいは「元工作員」といった呼称を用いるのだろう。
 仮に金賢姫が韓国で国会議員や政府の職に就いていれば、今回その職名で呼ばれていたことだろう。

 しかし、これはおかしくないか?

 かつて、わが国の犯罪報道において、容疑者は呼び捨てだった。
 それが、たしか1980年代だったと思うが、推定無罪の原則に反するのではないかという声が高まり(当時、死刑事件の再審での無罪が連発した)、「○○容疑者」との呼称が定着した。
 当然、起訴されても「○○被告」となり、さらには実刑判決が確定して受刑しても「○○受刑者」と呼ばれることとなった。

 こうした流れから言えば、特赦を受けた者をいつまでも「○○元死刑囚」と呼び続けることは不適切ではないだろうか。
 適切な肩書きがないと言うなら、「○○氏」あるいは「○○さん」では何故いけないのだろう。
 何が何でも肩書き(らしきもの)を付けなければならないといった硬直した官僚主義にマスコミ各社は陥っていないか。
 特に、「元死刑囚」という表現に固執する朝日、毎日、NHKの人権感覚はどうなっているのだろうか。
 

金賢姫の来日を論じる天声人語を読んで

2010-07-24 10:56:26 | マスコミ
 一昨日の天声人語全文。

 「雁(かり)の使(つかい)」という言葉は万葉の昔から歌に詠まれている。秋の空に飛来する雁は古来、懐かしい人の消息をもたらす使いだとされてきた。だから手紙のことを「雁書(がんしょ)」とか「雁の文」とも呼び習わす▼由来は中国の故事にさかのぼる。漢の武将の蘇武は使者として匈奴(きょうど)に赴き囚(とら)われた。匈奴側は蘇武は死んだと言い張ったが、漢の側は「天子の射止めた雁の脚に蘇武の手紙がゆわえられていた」と譲らず、ついに身柄を取り戻した。話はどこか、北朝鮮による拉致事件に重なり合う▼その国の工作員だった金賢姫元死刑囚が来日した。超法規的な入国とものものしい警備は「雁の使」という雅語からは遠い。だがベールの向こうからもたらされる、どんな消息も情報も、被害者の家族だけでなく日本にとって貴重である▼世論が冷めたとは思わない。だが核にミサイル、哨戒艦沈没と続く北の無法ぶりに、ときに拉致問題の影は薄くもなる。この2年は政府間の動きも止まったままだ。今回の来日を、夏の避暑地のいっときの話題で終わらせてはなるまい▼金元死刑囚は昨夜、横田めぐみさんの両親と会った。父親の滋さんは「世論を喚起するきっかけになれば」と話していた。邪悪な国家犯罪を忘れないことが、家族を支え、政府を動かし、ひいては北への圧力にもなる▼「雁書」の蘇武は19年の幽閉ののちに帰国した。その歳月をとうに超えて、めぐみさんは今年で33年、金元死刑囚に日本語を教えた田口八重子さんは32年になる。消息より被害者の身柄を、一日も早く迎えたい。


 「雁の使」「雁書」といった言葉は初めて知った。勉強になるなあ。
 こういう教養臭が、朝日らしさだろうか。他紙のコラムではこうしたものは見ないように思う。

 ところで、金賢姫は「超法規的」に入国したのだろうか。
 朝日の報道でそうした記述を読んだ覚えがなかったので、不審に思った。

 昨日の朝刊の記事にはこうあった。

 大韓航空機爆破事件の実行犯として死刑判決が確定した金賢姫元死刑囚は、特赦されているものの、本来は入国拒否の対象だ。事件当時に日本の偽造旅券を所持していた偽造公文書行使の疑いもある。だが今回、千葉景子法相は出入国管理法の「上陸を拒否しない特例」を適用して入国を認めた。特例は昨年の同法改正でできた条項で、昨年9月の千葉法相就任後では初めての適用だ。


 出入国管理法を見てみると、これかな?

(上陸の拒否)
第五条  次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
〔中略〕
四  日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。

(上陸の拒否の特例)
第五条の二  法務大臣は、外国人について、前条第一項第四号、第五号、第七号、第九号又は第九号の二に該当する特定の事由がある場合であつても、当該外国人に第二十六条第一項の規定により再入国の許可を与えた場合その他の法務省令で定める場合において、相当と認めるときは、法務省令で定めるところにより、当該事由のみによつては上陸を拒否しないこととすることができる。


 法の規定により法務大臣が上陸を拒否しないことができるのであれば、「超法規的」でも何でもないんじゃないか。立派に「法規的」だろう。


今回の来日を、夏の避暑地のいっときの話題で終わらせてはなるまい。


 たしかにそうだ。
 だが、マスコミの人間に、そんなふうに人ごとのように発言してもらいたくない。
 「いっときの話題で終わ」るかどうかは、報道に左右される部分が大いにあるからだ。
 例えば、天声人語は、近年どれだけ拉致問題を取り上げてきたというのか。


邪悪な国家犯罪を忘れないことが、家族を支え、政府を動かし、ひいては北への圧力にもなる


 どうしてここに「国家犯罪」などという言葉が出てくるのか、理解に苦しむ。
 「国家犯罪」とは、国家性悪説に立って国家を糾弾する立場の者の用語ではないだろうか。
 さらりとこうした用語が出てくることに、朝日の反国家体質を見る思いがする。

 と思っていたら、産経新聞の「主張」でも、

 大韓機事件はソウル五輪妨害を狙った北朝鮮の爆破テロで、乗客・乗員115人が犠牲になった。元工作員の来日は、拉致がそうした北のテロと結びついた国家犯罪であることを、改めて世界に知らしめることになろう。


と「国家犯罪」と述べていた。
 左右違えど、マスコミ皆同じ?

(関連記事
出入国管理法の「上陸の拒否の特例」について

与謝野馨の不可解

2010-07-23 23:16:09 | 現代日本政治
 14日の朝日新聞夕刊に、次のような記事が載っていた。

与謝野氏 大連立のススメ
「しっぽに振り回されるな」

 たちあがれ日本の与謝野馨共同代表は14日のテレビ朝日の番組で、「民主党と自民党が政策調整をして連立を組むことが一番いい」と語った。参院選の結果、与謝野氏のかねての主張通り与党の過半数割れが実現。ただ、「ねじれ国会」で政策が停滞しかねない状況に、政策通を自任する与謝野氏の本音が漏れた。

 与謝野氏は4月に自民党を離れ、「反民主、非自民」を掲げてたちあがれ日本の結党に加わった。だが、この日は「しっぽが犬を振り回してはいけない」と強調。民主党が参院で小党と連携しても、政策遂行には不安定な政権運営が続くだけだと指摘した。


 社民党、国民新党の「振り回し」っぷりを考えると、全く同意見だ。

 だが、ならば、何故あなたは自民党を去ったのか。

 与謝野の離党と平沼赳夫と組んでの「たちあがれ日本」の結成には驚いた。
 直後に発売された『文藝春秋』5月号の「「たちあがれ日本」結党宣言」(園田博之との共著)も読んだが、それでも、何故このタイミングで、平沼などと組んでの新党結成なのか私には理解できなかった。
 同党は先の参院選では片山虎之助の当選で辛うじて面目を施したが、この程度の結果に終わることなど与謝野ほどの知性であれば予測できたことではないのか。

 「「たちあがれ日本」結党宣言」にはこう書いてある。

 今夏の参院選で新党「たちあがれ日本」は比例区を中心に大都市への選挙区などに候補者を擁立する準備をしている。民主党への失望が国民のなかに蔓延しているのにもかかわらず、自民党はその受け皿となり得ていない。「たちあがれ日本」は民主党にも自民党にも不満を持つ有権者の期待を受け止め、参院選で民主党はじめ与党を過半数割れに追い込み、与野党の衆参ねじれ現象に持ち込むのがまず第1の狙いだ。その上で、政策プロフェッショナルを結集する政界再編の起点となっていきたい。


 「たちあがれ日本」がどれほど寄与したかわからないが、狙いどおり?ねじれ状態にはなった。
 しかし、続く「政策プロフェッショナルを結集する政界再編の起点とな」り得るだろうか。

 私も政界再編待望論者なので、与謝野の主張はよくわかる。
 しかし、それはむしろ、彼が自民党の中に居てこそ実現できたのではないだろうか。

 「しっぽが犬を振り回してはいけない」のであれば、仮に民自大連立政権に「たちあがれ日本」が加わったとしても、独自性を発揮することは困難になる。

 参院選前に、鳩山邦夫、与謝野馨、舛添要一らが次々と自民党を離党したことについて、誰かがこんな意味のことを言っていた。
 彼らは皆、最近の政権で閣僚を務め、日の当たるところにいた者ばかりだ。それが政権交代で地位を失い、党の中枢からも外されている。その状況に我慢できずに離党するのだと。

 そんなことにすぎないのだろうか。

 以前『堂々たる政治』(新潮新書)も読んだことがある。
 彼の主張はよくわかるが、彼の最近の行動はどうもよくわからない。
 不思議な人物だ。

小沢戦略は間違っていない

2010-07-22 22:14:55 | 現代日本政治
 13日の朝日新聞夕刊1面の記事から。太字は引用者による。

枝野氏の責任 言及
 閣僚、首相続投は支持

 参院選後初の閣議が13日午前、開かれ、その後の記者会見では、閣僚らが民主党の参院選の敗北について言及した。選挙の陣頭指揮を執った枝野幸男幹事長らの責任に触れる発言が相次ぐ一方、菅直人首相の続投については支持する声が大勢を占めた。

 菅首相は閣議で「(消費税をめぐって)唐突感を与えてしまった発言もあり、重い選挙をさせてしまった。これを新たなスタートとしてがんばりたいので、閣僚も国民の負託に応えられるよう精進してほしい」と述べた。

 閣議後の会見では、参院選で再選された北沢俊美防衛相が、小沢一郎前幹事長が進めた2人区の2人擁立戦略のせいで、勝敗を左右した1人区に戦力を集中できず、苦戦したと指摘。「(枝野)新幹事長が戦略を転換できなかったことが大きな間違いだ。反省の余地はある。これだけ負けると、党の方でなにがしかのけじめがないとぴりっとしない。けじめは必要だ」と述べ、枝野氏の続投に異論を差し挟んだ。小沢鋭仁環境相も「形式論としてだれかが責任をとらないといけない」と語った。

 一方、首相については、小沢環境相が「首相も一定の責任を感じていると思うが、しっかり支えていきたい」と続投を支持。首相側近の荒井聰国家戦略相も「1年のうちに何人も首相が替わるのは、国際的にも国内的にも適当でない」と強調。前原誠司国土交通相も「消費税の発言だけに敗因を求めていたら、本当の選挙の総括はできない」と首相をかばった。


 民主党の関係者や同党の支持者には、北沢と同様の感想を持つ者も多いのだろう。だからこそ、ガス抜きの意味もあって、北沢もこう発言したのだろう。

 しかし、民主党が本気でこう考えているのなら、この党の行く末が心配だ。
 選挙のプロでも何でもない素人の考えでしかないが、2人区に2人擁立するという今回の小沢戦略はそれ自体決して間違っていないと思う。

 2人区で2人擁立することにより共倒れが相次いだというなら、批判もわかる。しかし、全国で12ある2人区では、皆自民党と議席を分け合っているではないか。
 1人区の多くで敗北したのは、民主党政権の迷走ぶりに対する批判や、前回自民党候補を落選させたことへの反動だろう。
 また、1人区はもともと自民党の現職が多いということもあるだろう。

 民主党は、そうした敗因を分析し、しっかりと受け止めるべきではないのか。
 2人区に2人擁立したから1人区に戦力を集中できなかったとは、要は候補者を乱立させすぎたということだろうが、ある程度の候補者を立てずにどうやって単独過半数を獲得するというのだろう。

 今回、1人区29のうち自民党が21を制したが、それでも改選された選挙区73議席のうち自民党は39を占めるに過ぎない。民主党の28よりは多いが過半数には満たない。
 比例区では民主党が第1党だったので、その差はさらに縮まっている。
 1人区が重要であることはたしかだが、それだけでは過半数を獲得することはできないのである。
 かつては自民党も、全ての2人区ではないが、2人区に2人擁立するということはやっていた。それが特に問題視されたことがあるとは聞かない。

 衆院中選挙区時代の末期、第1野党である社会党は、多くの選挙区に1人しか候補者を立てていなかった。
 そのため、仮に全候補者が当選したとしても、過半数を獲得することはできなかった。
 野党第1党がこの体たらくでは、野党主導による政権交代など望むべくもなかった。それは国民にとって不幸だったと私は思っている。
 結局、55年体制下で初の政権交代は、社会党の大勝によってではなく、自民党の分裂と、新勢力である日本新党の参入によって成し遂げられた。

 民主党の2人擁立批判を聞くと、まるで旧社会党のような万年野党を目指しているかのようである。
 自ら政権を奪取するんだという気概に欠けている。どこか、風まかせ、支持率まかせなのである。
 こんなことでは国民の不安感は払拭されまい。

越権行為も「市民感覚」?

2010-07-21 23:55:55 | 事件・犯罪・裁判・司法
 今日の朝日新聞夕刊社会面の片隅に、こんな記事が載っていた。

「横峯議員、犯罪関与」不起訴事件 検察審指摘

 東京第四検察審査会は21日、恐喝事件に関して不起訴となった男性を「起訴相当」とする議決を公表。その中で、横峯良郎・民主党参院議員が「深く犯罪に関与している」と指摘した。

 7日付の議決書によると、審査対象の男性は、プロレスラーら数人と共謀して昨年6月に東京都渋谷区の飲食店経営者に対し、約30万円を脅し取ったとする恐喝の容疑で逮捕された。

 議決書は「逮捕された関係者は6人だが、もう一人、被疑者と言える人物の存在が認められる」と、横峯議員を挙げた。議員はこの事件を企画し、共犯者を手配し、指揮・監督するなど「参謀のような活動をしており、深く犯罪に関与した」と指摘した。

 横峯議員の事務所は「本人が海外に行っており、コメントできない」としている。


 アサヒ・コムの記事を読むと、議決書はさらに、「なぜか議員は事情聴取さえ受けていない。議員が介入しなければ、おそらく事件は発生しなかった」と述べているという。

 横峯議員が真に犯罪に深く関与していたのなら、それは由々しきことだろう。議員辞職を余儀なくされるかもしれない。

 だがそれは、検察審査会が判断すべきことなのか?
 そして、それを議決書というかたちで公表していいのか?

 検察審査会の職務とは何だろうか。
 検察審査会法には次のようにある。

第二条  検察審査会は、左の事項を掌る。
一  検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項
二  検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項


 そして、実際にはもっぱら「一」の方、つまり検察官による不起訴処分の当否を審査するのが仕事である。

 今回、不起訴処分となったのは、「審査対象の男性」である。横峯ではない。
「もう一人、被疑者と言える人物の存在が認められる」
などと横峯を名指しで被疑者扱いしていいのかという疑問がまず一点。誰を被疑者と判断するかは警察や検察といった捜査機関の仕事であり、検察審査会の仕事ではない。

 例えば、裁判で、被告人は有罪である(あるいは無罪である)とは言えても、ほかに有罪となるべき人物がいるなどと言えるはずもない。その裁判で起訴されていない人物の刑事責任について、裁判官は判断する権限を持たない。
 検察審査会は裁判ではないが、検察官の権力が正しく行使されているかを国民の立場からチェックする機関であり、その立ち位置は裁判所と同様中立公正であるはずである。

 次に、
「議員はこの事件を企画し、共犯者を手配し、指揮・監督するなど「参謀のような活動をしており、深く犯罪に関与した」」
「議員が介入しなければ、おそらく事件は発生しなかった」
とあるが、それはいずれもこの「審査対象の男性」が起こしたとされる恐喝の事件記録から読み取れることでしかない。
 おそらくそこからは横峯の関与が窺えるのだろう。だがそれはあくまで「審査対象の男性」の処分を決めるために集められた資料だ。横峯の処分を決めるためのものではない。
 仮に横峯が被疑者となっていれば、また別の資料が存在するかもしれない。

「なぜか議員は事情聴取さえ受けていない」
と言うが、事情聴取すら受けていない、つまり何ら抗弁する機会を設けられていない者を、捜査機関ならともかく、中立的な機関であるはずの検察審査会が、一方的に被疑者扱いしていいのだろうか。

 ネットで他の報道機関の記事も見てみたが、似たり寄ったりで、この検察審査会の議決に問題があるという視点は見られなかった。
 しかし、私はこの議決には上記のような問題があると思えるし、今後もこうした議決が相次ぐようなら、検察審査会制度自体への不信が高まるのではないかと危惧している。

参院選雑感(続)

2010-07-20 23:08:09 | 現代日本政治
(5)国民新党、議席獲得ならず

 連立与党だし、郵政民営化見直しの動きもあるのだから、現職の長谷川憲正ぐらいは当選するだろうと思っていたが、1議席すら獲得できなかった。
 長谷川の個人名では約40万票とかなりの得票だが、政党名での得票は約48万票で、1議席を獲得した新党改革の105万票、同じく「たちあがれ日本」の76万票に比べ著しく劣っている。
 
 国民新党は、昨年の衆院選でも議席を減らしている。党代表の綿貫民輔、幹事長の亀井久興が落選した。
 それに続く今回の選挙結果は、国民新党という政党はやはりほとんど支持を得ていないこと、いわゆる郵政票の力にはさほど期待できないこと、郵政民営化はもはや争点ではないことを意味していると言っていいだろう。

 選挙前の国会では先送りされた郵政法案だが、民主党にはこの選挙結果を受けて、廃案にするか、大幅に見直すことを望みたい。


(6)ベテラン女性議員の落選

 千葉景子法相が神奈川選挙区で落選した。
 現職閣僚が落選するとは異例のことである。

 神奈川選挙区は3人区。得票は、
  ○小泉明男(自現) 982,220
  ○中西健治(み新) 788,729
  ○金子洋一(民現) 745,143
   千葉景子(民現) 696,739
   畑野君枝(共元) 304,059

と次点となっている。
 2人擁立の弊害がモロに出たと言えそうだが、みんなの党新人の得票には驚かされる。

 ちなみに6年前は、

  ○小泉明男(自新)1,217,100
  ○浅尾慶一郎(民現)856,504
  ○千葉景子(民現) 843,759
   畑野君枝(共元) 397,660

 浅尾慶一郎は昨年の衆院選でみんなの党から当選したから、その票田を今回中西が受け継いだというところか。

 ところで、ほとんど注目されていないが、千葉景子と同じく当選4回だった広中和歌子も落選している。
 この人の場合は、千葉選挙区から比例区に回されたらしい。千葉選挙区では新人の男性がトップ当選している。

 また、当選3回だった円より子(比例区)も落選した。彼女は民主党の左派性の象徴のような人物だと思っていたが。

 もはや彼女らの時代ではないということだろうか。
 前回触れたタレント議員の件といい、有権者は本当によく見ていると思う。


(7)維新政党・新風不出馬

 そういえば、今回は維新政党・新風が立候補しなかった。

 同党のホームページに声明が載っていたが、理由は結局「資金不足といふことに尽き」るとのこと。

 一昔前、この党を支持するという発言はネット上でよく見かけたものだが、彼らは、口は出しても金は出さない(もちろんリアルな活動にも参加しない)口舌の徒だったということか。

 とはいえ、「新風」的な言論はむしろ一般に拡散しつつあるようにも見える。
 そういう点で、彼らもまた歴史的な役割を終えたのだろうか。