Q:外国籍の離脱は努力義務でしかないという指摘もあるようだけど?
A:ああそれはね、日本国籍選択の宣言をした後の話なんだよ。
《国籍法第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。 》
日本国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言をしたとしても、外国に国籍が残っていることには変わりないし、それは国籍単一の原則をとる日本にとって望ましくない。外国国籍を離脱しようとすればできるのなら、単に宣言だけで済ませることなく、なお離脱に努めなければならないということだね。
でも、離脱を認めるかどうかはその外国が決めることだから、さすがに「外国の国籍を離脱しなければならない」とはされていないんだね。
蓮舫さんは選択の宣言をしていなかったんだから、この条文は関係ないんだ。
Q:「努めなければならない」だから、努めていなければ法律違反になるんじゃないの?
A:努めているかいないかを決める客観的な基準はないから、どういう状態をもって努めていないと判断していいのか難しいし、努めていないとしても、それだけでその人の日本国籍がどうにかなるわけでもないから、それを検討することには意味がないね。
それに、普通は努力義務に違反していても「違法」とは言わないそうだよ。
ただ、第16条第2項には次のような定めがあって、
《2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。》
この場合に限っては、日本国籍選択の宣言をしていても、外国国籍の離脱をしていなければ、日本国籍を失うことがある。 よっぽどの場合だろうけどね。
Q:この蓮舫さんの二重国籍問題は、いつごろから騒がれ出したの?
A:池田信夫氏が主宰する「言論プラットフォーム アゴラ」というサイトで、昨年8月に八幡和郎氏の記事が指摘したのがきっかけらしい。八幡さんや池田氏はこの問題について記事を書き続け、そのうち産経新聞が取り上げたりして広まって、将来首相になるかもしれない野党第1党の党首が二重国籍であっていいのかと、問題になったようだね。
Q:蓮舫さんが国籍の選択をしていないことはいつわかったの?
A:最初、八幡氏や池田氏は、蓮舫氏は日本国籍を選択したけれど台湾国籍を離脱していない、これは二重国籍だ、違法だ、国籍剥奪だと騒いでいた。これについて僕は昨年9月7日に、日本国籍選択後の外国国籍離脱は努力義務にすぎないし、その外国の公職に就かなければ日本国籍を失うこともないとブログで書いたことがある。
でもそのうち彼らは、国籍法についてある程度は理解したらしくて、そもそも第14条の国籍の選択がなされていないのではないかと批判しだした。これは当然の指摘だね。でも16条についていいかげんなことを述べていたのを彼らが撤回して謝罪したとは聞かないけどね。
僕は彼らや蓮舫さんの言動をそんなに詳しくフォローしているわけではないんだけど、蓮舫さんが国籍の選択をしていなかったことを認めたのは、僕が把握している限りでは、蓮舫さんが党代表に当選して、さらに1か月たった10月15日の記者会見でのことだった。
この会見で蓮舫さんは、指摘を受けて確認したら、台湾国籍が残っていたことがわかったので、国籍離脱の手続きをとって、国籍喪失認可証を戸籍法第106条に基づいて提出したが、受理してもらえなかった、そして日本国籍選択の宣言をするよう強く行政指導されたので、宣言をしたと説明していたよ。
Q:どうして受理してもらえなかったのかな?
A:日本は台湾政府を外国政府として認めていないから、そこが発行した証明書も、国同士の関係としては受理することができないんだろうね。
そういえば、僕はさっき言ったブログの記事で、
《そもそも、中華民国の国籍離脱手続を取れといったって、わが国はその中華民国を国家として承認していないのである。そんなものに何の効力があるのだろうか。》
と書いていたけど、やはりそうだった。八幡氏や池田氏が当初、日本国籍を選択しただけでは不十分だ、台湾国籍の離脱が必要で、それをしていないなら二重国籍だと騒いでいたのは何だったのかと思うね。
Q:じゃあ、台湾国籍は日本においては無効ということになって、蓮舫さんは二重国籍にはならないんじゃないの?
A:中華人民共和国は台湾は領土の一部と主張しているし、台湾自身も国家だと主張している以上、外国国籍であること自体を無効と扱うわけにもいかなくて、一応外国国籍もあるとした上で、日本国籍選択の宣言をするよう行政指導したんじゃないかな。
Q:なんだか釈然としないね。
A:僕もだよ。法務省はきちんと説明すべきだと思うし、この問題をとりあげたジャーナリストや国会議員は、その点をもっと追及すべきだと思うね。
A:けど、それで選択の宣言をしたのなら、第14条の義務違反は解消されたんだね。
A:そう。そして蓮舫さんは、これまでの発言に変遷があったことを認め、国籍についての自らの認識不足も認めて、謝罪していた。
Q:じゃあ、この問題はもう終わったってこと?
A:僕はそう思ってた。でも、今年6月の東京都知事選で民進党が大敗して、党内で蓮舫さんの責任を問う声が上がる中で、この問題が再燃したらしい。敗因の一つにされたんだろう。
さっき言った自民党の小野田紀美議員が、自ら戸籍や国籍喪失証明書を公開していたことも影響したようだね。
それで、蓮舫さんも戸籍などの書類を公開して、改めて説明することにしたらしい。
Q:戸籍の公開で何がわかったの?
A:国籍選択宣言の日は戸籍に載るから、それが以前の蓮舫さんの説明どおりだったことが裏付けられただけだね。
あまり意味のあることではなかったし、かえって、妙な先例を作ることになってしまった。
そもそも小野田議員も別に戸籍まで公開する必要などなかったんだから、蓮舫さんのような非難を浴びることを避けたかったのか、それとも蓮舫さんに対する当てつけがしたかったのかは知らないけど、目先のことだけにとらわれて、浅慮な行動をとったものだと思うよ。
Q:蓮舫さんの公職選挙法違反を指摘する声もあるそうだけど。
A:そうだね。八幡氏や池田氏や産経新聞だけでなく、今年7月20日付の読売新聞社説までがこう書いていたのには驚いたよ。
《国会議員として、法律を順守する認識が甘過ぎたと言うほかない。
民進党の蓮舫代表が記者会見で、日本国籍と台湾籍の「二重国籍」問題について説明した。
昨年9月に台湾籍を離脱し、10月に日本国籍の選択を宣言したことを証明する台湾当局の証書や日本の戸籍謄本などを公表した。
1985年に日本国籍を取得した蓮舫氏が、昨年まで台湾籍を保有し、国籍法違反の状態にあったことが裏付けられた。2004年の参院選公報に「台湾籍から帰化」と虚偽を記載したのは、時効とはいえ、公職選挙法に抵触する。》
Q:「参院選公報に「台湾籍から帰化」と虚偽を記載した」というのは、何のことだろう?
附則第5条による日本国籍取得だから、国籍法第4条の帰化じゃないってことなのかな?
A:その意味では確かに帰化じゃないんだけど、この社説のように、蓮舫さんは公職選挙法違反だと主張している人が言っているのは、そうじゃないんだ。
昨年まで台湾国籍を保有していたのに、台湾国籍を離脱していたかのように記載していたのが虚偽だと言っているんだ。
Q:ふーん。でも、「帰化」って国籍を離脱したっていう意味なのかな?
A:いいや、国籍法第4条の帰化は、外国人が法務大臣の許可を受けて日本国籍を取得することを言う。「帰化」という言葉について辞書を引いても、例えばコトバンクのデジタル大辞泉では「他国の国籍を得て、その国民となること。」とある。外国籍を離脱して日本の単一国籍になったなんて意味はないんだから、これを「虚偽」と見るのは誤ってるよ。
それに、蓮舫さんは、今回の騒動で指摘を受けるまで、台湾国籍が残っていたとは知らなかったと言っている。それを信用するかどうかは受け手の自由だけど、「虚偽を記載した」と言うならそれが虚偽であることを知っていたことが前提となる。この社説がその点を無視して、「時効とはいえ、公職選挙法に抵触する」と、さも時効でなければ犯罪が成立していたかのように語るのも誤っている。
Q:そういえば、蓮舫さんを公職選挙法違反で告発した人もいたんだっけ?
A:去年10月に、「愛国女性のつどい花時計」という市民団体の代表らが、蓮舫さんを国籍法違反と公職選挙法違反で東京地検に告発すると産経新聞が報じているね。国籍法の国籍選択の義務違反には罰則がないのに、どういう告発状を書いたんだろうね。
この告発は、結局不起訴となって、告発した人たちは検察審査会に申し立てをしたそうだよ。審査員は法曹ではなく一般人だから、その判断次第では起訴される可能性もなくはないけど、仮にそうなっても国籍法違反には罰則がないし、公職選挙法違反は時効なんだから、有罪になることはないだろうね。要するに、この問題を長引かせたいだけなんだろう。
Q:公職選挙法のほかにも法令違反の指摘があったようだけど。
A:池田信夫氏は旅券法違反も主張していたようだね。日本の旅券と台湾の旅券を使い分けていたとか言っているらしいけど、単なる憶測で、もう真面目に検討するに値しないレベルの話だよ。
先日、twitterでたまたまタイムラインに流れてきた、中村仁という人のアゴラの記事を読んだんだけど、
《ネットメディアに伝統メディア完敗
民進党の蓮舫代表が戸籍謄本の一部などを開示して、日本国籍の選択宣言を済ませていると、記者会見で説明しました。二重国籍の是非、戸籍謄本の開示、公職選挙法違反の問題点などに対する朝日新聞の編集姿勢をみて、随分と偏った報道をすると思いました。
蓮舫氏に二重国籍問題は、言論プラットフォームの「アゴラ」が一年ほど前から集中的に取り上げ、新聞、テレビなどの伝統メディアは当初はほどんと無視しました。もちろん、蓮舫氏自身も黙殺しようとしたと思われます。昨年9月以降、台湾国籍の放棄(9月)、日本国籍の選択宣言(10月)、そして今回の戸籍謄本の一部公開など、ずるずると土俵際に追いつめられ、敗北を認めたという展開になります。
「アゴラ」を主宰する池田信夫氏、次々に新事実を発掘して寄稿を続けた八幡和郎氏(元通産官僚)らの全面的な勝利でしょう。外部からの情報提供もかなりあったと推測されます。伝統的メディアは「一部のネット・サイトが騒いでいる程度だろう」と、軽くみていたと思われます。それがついに、蓮舫氏が資料6点を開示した翌19日の紙面では、朝日新聞は1面、3面、4面、34面にわたる大展開の報道です。蓮舫問題では伝統メディアも完敗したのです。〔引用者註:誤植っぽい箇所はいずれも原文のまま〕》
と自画自賛を述べているのはまあいいとして、
《一般市民ならともかく、野党第一党の党首は当然、選挙に勝ち、首相の座を目指す存在でしょう。その人物が長く台湾国籍を持ち、日本国籍を取得していなかったというのが今回の問題の本質です。しかも、いかにも日本国籍を取得しているような発言を繰り返し、説明が二転三転してきたのです。》
なんて語っているんだよ。
これまで説明してきたとおり、蓮舫さんが日本国籍を取得しているのは、明白な事実だ。にもかかわらず「長く台湾国籍を持ち、日本国籍を取得していなかったというのが今回の問題の本質」などと平気で語る。そしてそれがアゴラに掲載される。
全ての記事がそうだとは言えないけれど、こと蓮舫氏の二重国籍問題については、アゴラの記事はまともに検討するレベルに達していないと判断していいと思うよ。
Q:どこかの国では、二重国籍がばれて国会議員が辞職したというニュースもあったけど。
A:オーストラリアで今月、そのために2人の議員が辞職したそうだね。どちらも二重国籍の認識はなかったと弁明しているそうだけど、オーストラリアの憲法は、複数の国籍をもちながら連邦レベルの公職に就くことを禁じているそうだ。
ほかの国のそんなニュースも聞いた覚えがある。
でも、日本では、憲法でも、その他の法律でも、重国籍者が国会議員に就くことを禁止してはいないからね。
もちろん、一般の公務員に就くことも禁止してはいない。
外交官だけは、外務公務員法第7条で「国籍を有しない者又は外国の国籍を有する者は、外務公務員となることができない」と定めているから、重国籍者はなれないんだけど、これは、日本の国益を守るためという意味合いもあるのかもしれないけど、むしろ、外国で勤務する場合に、重国籍だと立場がややこしくなるおそれがあることが大きいんじゃないかな。
国益という点なら、自衛官や海上保安官や警察官も重要な役割を果たしているはずだけど、彼らは重国籍を禁止されていないからね。
外務省以外の省庁の官僚も、もちろん国会議員も、国益をめぐって外国と交渉することはあるしね。
首相や外相は外交官に指揮する立場だから、当然外交官と同様、重国籍であってはならないなんて主張する人もいるけど、明文化されていない以上、屁理屈だと言うしかないね。
Q:でも、法的責任はともかく、国会議員が二重国籍だったというのは、政治的責任は免れないんじゃないの?
A:蓮舫さんは、台湾籍が残っていることに気づいていなかったと主張してるわけだけど、仮にそれを信じるにしても、これまでそれに気づかなかったのなら、やはり国籍というものを軽く考えていたんだろうし、野党第1党の党首を目指す立場でそれはどうなのかという批判の声が上がったのは、当然のことだと思うよ。
Q:じゃあ、蓮舫さんに一定の責任があるとは考えているんだね?
A:そうだよ。大騒ぎするほどの話じゃないとは思っているけど、当初指摘されていた第16条の努力義務違反ならともかく、第14条の国籍の選択をしていなかったというのはやはり問題だよね。蓮舫さんはその認識がなかったと説明しているけど、仮にそうだとしても、国籍というものについて多少なりとも真面目に考えたり、法令遵守の意識があったりしたら、気づくべきだったのではないかと思うよ。遅くとも、この二重国籍の問題がマスコミで指摘され始めた時点で、もっと真摯に対応すべきだったろうね。
Q:君は、蓮舫さんに責められるべき点はないと考えているのかと思っていたけど。
A:そうじゃあない。僕はこの問題で。池田氏や八幡氏や小野田議員らを批判する記事をブログに書いたけど、それは、彼らが、努力義務にすぎないことを義務だと言ったり、日本国籍を失わないのに失うと言ったり、重国籍者を潜在的スパイであるかのように言ったりしたからで、それらはデマであり、デマがまかりとおるのは良くないと考えているからだよ。
あと、出自によって人を非難するという手法が気に入らないということもある。
去年の10月にもブログに書いたから詳しくは繰り返さないけど、僕は民進党を支持しているわけではないし、別に蓮舫さんを擁護するためにこういった記事を書いているわけでもない。この問題についての蓮舫さんや民進党の対応には大いに失望したよ。
ただ、さっきも言ったけど、蓮舫さんはこの問題では既に落ち度を認めて謝罪しているからね。それをさらにかさにかかって非難するのはどうかと思うよ。
Q:その蓮舫さんだけど、今日、党の代表を退くと表明したそうだよ。
A:うん。この記事をほぼ書き上げたところだったから、妙なタイミングに驚いたよ。野田幹事長は辞意を表明していたけど、蓮舫さんは代表を続けるみたいだったのにね。
読売新聞のサイトの今日付の記事には、
《党関係者によると、蓮舫氏は複数の党幹部に幹事長を打診したが、断られたという。都議選の惨敗後、蓮舫氏の求心力は低下しており、これ以上、党運営を続けるのは困難と判断したとみられる。》
とあるから、それなら辞任もやむを得ないのかな。
でも、去年の9月に代表選をやったばかりでまだ1年もたってないし、都議選は確かに重要な選挙だろうけど地方選挙にすぎないし、大敗したのだって、僕は大阪府民だから東京のことはよく知らないけど、現職の都議の離党が相次いでいた事情もあるようだし、それって蓮舫さんだけの責任なのかな。
まあ、民主党時代からのことだけど、まとまりの悪い政党だよね。
僕は、政権交代可能な勢力の存在は必要だと思っているから、彼らにはしっかりしてもらいたいと思っているけど、もはや民進党という枠組みにこだわる必要はないのかもしれないね。