6月7日付け『朝日新聞』の社説が、「情報保全隊―自衛隊は国民を監視するのか」と題して、情報保全隊による調査活動を批判している(社説の
ウェブ魚拓)。
朝日の社説は通常、1回につき2本掲載される。しかしこの日はこの1本のみが、普段の2本分のスペースで掲載された。それだけ朝日としてはこの問題を重視しているということなのだろう。
共産党の志位委員長が国会内での記者会見でこの内部文書を公表したのは6日。その記事は6日の夕刊には載っておらず、7日の朝刊に載っていたので、おそらく6日の午後に公表したのだろう。それで7日の社説に通常の2本分のスペースで掲載されるとは、ふだんの報道と社説のタイムラグを考えると、やや手回しが良すぎるような気もする。
ちなみに、毎日、読売、産経はこの問題を社説では扱っていない。この点でも朝日の反応は異様である。
《自衛隊は国民を守るためにあるのか、それとも国民を監視するためにあるのか。そんな疑問すら抱きたくなるような文書の存在が明らかになった。》
もう、この冒頭の一節で既に読む意欲をなくしてしまいそうになる。
国民を守ることと国民を監視することは相反するものだろうか。国民を守るために国民を監視するということもあり得るだろう。国民を監視するということは何も国民全体を敵視するということではない。
《自衛隊のイラク派遣は国論を二分する大きな出来事だった。自衛隊が世論の動向に敏感なのは当然のことで、情報収集そのものを否定する理由はない。
しかし、文書に記されているのは、個々の活動や集会の参加人数から、時刻、スピーチの内容まで克明だ。団体や集会ごとに政党色で分類し、「反自衛隊活動」という項目もある。
これは単なる情報収集とはいえない。自衛隊のイラク派遣を批判する人を頭から危険な存在とみなし、活動を監視しているかのようである。》
いや、これも単なる情報収集ではないだろうか。
「自衛隊が世論の動向に敏感なのは当然のことで、情報収集そのものを否定する理由はない。」
朝日もこの点については認めている。私もそう思う。
ならば、反自衛隊、あるいはイラク派遣反対を唱える人々がどの程度の人数で、どういったメンバーで、どのような主張や活動をしているかを把握するのもまた必要なことではないだろうか。
《情報保全隊の任務は「自衛隊の機密情報の保護と漏洩(ろうえい)の防止」と説明されてきた。ところが、その組織が国民を幅広く調査の対象にしていたのだ。明らかに任務の逸脱である。》
今回共産党が公表した内部文書は、陸上自衛隊の東北方面情報保全隊と、同じく陸上自衛隊の情報保全隊本部が作成したとされるもの。
陸自の情報保全隊については、平成15年3月24日付け陸上自衛隊訓令第7号「
陸上自衛隊情報保全隊に関する訓令」が根拠法令であるらしい。
その第3条に次のようにある。
《(情報保全隊の任務)
第3条 情報保全隊は、陸上幕僚監部、陸上幕僚長の監督を受ける部隊及び機関並びに別に定めるところにより支援する施設等機関等の情報保全業務のために必要な資料及び情報の収集整理及び配布を行うことを任務とする。》
その「情報保全業務」とは何か。
第2条にこうある。
《(用語の意義)
第2条 この訓令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 情報保全業務 秘密保全、隊員保全、組織・行動等の保全及び施設・装備品等の保全並びにこれらに関連する業務をいう。》
したがって、朝日社説の言う「情報保全隊の任務は「自衛隊の機密情報の保護と漏洩(ろうえい)の防止」」は、正確ではない。
「隊員保全、組織・行動等の保全及び施設・装備品等の保全並びにこれらに関連する業務」もまた情報保全業務なのだから。
そのために、反自衛隊活動、あるいはイラク派遣反対運動などの情報を収集することもまた必要なことなのだろうと私は思う。
少なくとも、これが任務の逸脱や違法行為であるとは思えない。
自衛隊を監視対象とするはずの組織が国民を監視対象としていた、違法であり違憲であるとの共産党の主張は強引にすぎるものであり、朝日以外の大手紙が重視していないのもうなずける。