トラッシュボックス

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ユン・チアン、ジョン・ハリディ『マオ―誰も知らなかった毛沢東』上巻(講談社、2005)

2006-12-04 23:48:08 | その他の本・雑誌の感想
 昨年の終わりごろ発売され、話題になった本。
 そのうち読んでみたいと思いつつ機会がなく、先日古本屋に並んでいるのを見てようやく購入。
 まだ上巻しか読んでいないが、とりあえず感想を。
 一言で言うと、従来の毛沢東観の見直しを迫る本。
 私は建国前の中国共産党や毛沢東については詳しくなく、ごく一般的な知識しかなかった。それは、高校の世界史レベルの、

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 中国共産党はマルクス主義に感化された都市部知識人を中心に結成された。毛沢東はその草創期から参加していたが、当初は主流派ではなかった。上海クーデターで第1次国共合作が解消された後、毛沢東は農村に基盤を置いて勢力を拡大しやがて都市を包囲するという独創的な戦略を打ち出した。そして瑞金に中華ソビエト共和国臨時政府を樹立するが、国民党の包囲を受け、長征を開始した。長征の末、延安に至った毛沢東らは、ここを根拠地として勢力を温存し、その過程で党における毛沢東の主導権がようやく確立された。やがて張学良が起こした西安事件により第2次国共合作に成功し、共産党は国民党と共同して日本軍と戦った。日本軍の敗退後、共産党は民衆の支持のもと、腐敗した国民党政権を台湾に放逐し、人民共和国を樹立した。建国後、大躍進、文化大革命など数多くの誤りはあったが、党の組織者、抗日戦及び対国民党戦の指導者としての力量は優れていた。民衆も建国当初は国民党より共産党を支持していた。
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といった感じのものだ。
 しかし、その多くに、共産党側の宣伝に乗せられた幻想が含まれているという。
 特に、毛沢東が実践活動によりカリスマ的リーダーとなったのではなく、党内闘争で他の幹部を排除してリーダーとなったというくだりが非常に印象的だった。つまり、レーニン型ではなくスターリン型だったということだ。朱徳や林彪、彭徳懐は軍人として活躍したが、毛沢東自身は軍人ではなかった。党内闘争に勝利するために敢えて味方を犠牲にすることも多かったという。
 本書の毛沢東観は驚きだったが、しかし初めてのものではない。
 連載が終了した『週刊文春』の名コラム「お言葉ですが・・・」の高島俊男に『中国の大盗賊・完全版』(講談社現代新書、2004)という著書がある。ここでいう盗賊とは、単なる泥棒のことではない。集団で行動して都市を奪い、ついには天下を取るような大集団のリーダーを指す。陳勝、劉邦、朱元章、李自成、洪秀全、そして最後の章は毛沢東に当たられている。毛沢東もまたこれら大盗賊の系譜に連なるものだというのである(毛沢東に関する記述が、元の本(1989年刊)ではかなり減らされたため、それを復元したから「完全版」なのだそうだ)。この本の毛沢東像は、『マオ』のものと基本的に同一である。私はこの書を読んでもまだ毛沢東を「盗賊」ととらえることには懐疑的だったが、『マオ』を読んで納得した。

 ただ、この『マオ』の内容に全面的に賛同しているわけではない。もともと毛沢東糾弾を目的とした本だから、当然筆致は公平ではない。また、依拠した資料やそのとらえ方にも偏りがあるのではないかとの疑念は拭えない。それに、こうした本にありがちなように、全てを毛沢東が計画し、そのとおりに物事が進んでいくような印象を受けるが、歴史というのはそういうものではあるまい。
 しかし、概して言えば、政治家としての毛沢東は本書で描かれたような人物だったのだろうと思うし、そのような本書が日本で出版されたことは、先に述べたような従来の毛沢東観を打破するものとして喜ばしいことだと思う。(下巻の感想