地蔵菩薩三国霊験記 2/14巻の7/16
七、小松寺蔵明の事
奥州小松寺に蔵念坊と白す沙弥あり。是は良門の苗裔なり。抑々此の良門(平将門の孫)と申すは金泥の大般若経を書寫し供養したりし人なり。業の招所一子のなきことを哀れみ諸の佛神に祈求し申しける。一時妻女の夢に小僧来たりて宿を假玉ふ、吾は是地蔵菩薩なり且くとの玉ふほどにあまりの喜しさに懐を開きて待つと思へば夢覚て頓て孕給ふ。月の廿四日に當りて出胎し玉へば父母ともに感あることを思て蔵念とぞ号しける。されば動容周旋、礼に中(あたり)て凢人とは見へざりき。母の懐中に臥し玉へども何となく暁は行方も知らず失せ玉ふ。明ければ元の如くぞ臥給ける。父母も不思議の事かな、是疑無く生身の地蔵薩埵の應迹なりと信を取てぞ居けるが、生長の後、出家し玉ふ始終の御事こそ聞かまほしけれ。予未だ聞くこと能はず、唯託胎の一毛を記し侍る。後代の人続編を待つ而已(のみ)。