「古今著聞集 神祇第一」「二十七、盲人、熊野社に祈請して開眼の事」
「熊野に盲の者、柴灯(油が入手しがたいので柴をたいて燈明代わりにしたもの)をたきて、眼の明かならん事を祈るありけり。
この勤め三年になりにけれども、しるしなかりければ、権現を恨み参らせて、うち臥したる夢に『汝が恨むるところ、そのいはれなきにあらねども、先世の報いを知るべき也。汝は日高川の魚にてありしなり。彼の河の橋を道者渡るとて、『南無大悲三所権現』と、上下の諸人、唱へ奉る聲を聞きて、その縁によりて、魚鱗の身をあらためて、適受けがたき人身を得たり。この柴灯の光に当る縁をもて、また来世に明眼を得て、次第に昇進すべきなり。このことをわきまへずして、みだりに我を恨むる、愚かなり』と、恥ぢしめ給ふと見て覚めにけり。
その後、懺悔して、一期を限りてこの役を勤めけるほどに、眼も開きにけり。」