地蔵菩薩三国霊験記 2/14巻の1/16
地蔵菩薩霊験記巻二目録
- 一、國挙入道生活(いきかへる)事
- 二、浄蔵貴所地蔵の化身なる事。
- 三、江州千の松原地蔵の事。
- 四、山門明達法師地蔵の感應を蒙る事。
- 五、同く蔵縁房蘇生の事。
- 六、上総の國守靈感を蒙る事。
- 七、奥州小松寺の蔵明房の事。
- 八、海藏上人建立の地蔵の事。
- 九、賀茂盛高活(よみがへる)事。
- 十、或持經者示現を得る事。
- 十一、藏算房貧を轉ずる事。
- 十二、周防の惟高六地蔵を安置する因縁。
- 十三、藏滿蘇生の事。
- 十四、古寺を修理し靈感を得る事。
- 十五、日金山の地蔵の事。
- 十六、杖頭地蔵の事。
地蔵菩薩霊験記巻二 三井寺上座 實睿
一、 國挙入道生活(いきかへる)事(今昔物語巻十七但馬前司□□国挙依地蔵助得活語 第廿一にあり)
但馬の前司國挙入道、前の年俄かに病を受け絶入けり。即ち閻王宮に召され廳庭に跪く。速に呵責を蒙り天に哭し、地に悲む。されども助くべき人もなし。斯に若僧一人手に一巻の書を取り八方奔走して罪障のほど犯科の分野を乞受け給ふ。國挙並涕涙して地に伏して白しけるは、願くは大悲方便の御手を伸して吾がこの苦患を救ひ玉へと再三歎き奉る。若僧彼の入道に向て弾指して曰、人の世の英雄唯是の如くより尚早く、冥路の業報は万年の劫日月罪根を植へて夜々業因を作る、自業自得の呵責なれば助くるに所なく、救ふに方なし。亦皈依三宝の念なし。我如何ともすべきなし。我は汝に無縁地蔵なりとて打背きて立玉へば入道あまりの哀れさに仰ぎ願くは大士無縁の慈悲を以て今度旧里に皈し給へ。三宝を皈敬し罪障を懺悔の功徳を積み薩埵の方便の事、冥途の怖畏すべき様を他にも訓化めあらんに於いて何の偽りか侍らんと申しければ、御僧入道を具して冥官の所に行き玉ひ罪を請受け玉ひて門外まで引導し玉ひ必ず忘失の念をなすことなく修行を為すべしとて放ち玉ふと思へば夢覚る如くに蘇りき。急ぎ大佛師定朝を請じて等身の地蔵菩薩の像を金色に彩色造立して供養を成し十輪経等を書寫し奉り六波羅蜜寺に就て開眼を行ひけるとぞ。講師は大原の浄源法師にて侍るとなん。凢そ一會の道俗も併し乍ら地蔵菩薩の願海に入り、見聞随喜の輩は同じく般若の岸に到らん者なり。其の像今に六波羅にあり。傳へて曰、法師定朝は清水寺の別當康成上足也と云々(どちらも清水寺の管主)。