福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

矛盾論④

2009-11-10 | 永山國昭博士の福聚講通信
矛盾論④-1

進化論の進化は極めて限定的かつ厳密な内容を意味している。それは矛盾論③で述べた進化機構要件で明示される。従っていわゆる物事の変化を進化とは言わない。英語で進化はevolutionである。この語に近いのがrevolution(大変革、回転、革命)であるがevolutionには段階的変革が含意されている。もう1つまぎらわしい言葉に進歩がある。英語ではprogress、advanceやimprovementがあてられる。

進化、変化、進歩を決定的に分かつエッセンスは何か。それは進化機構要件のNo.1に掲げた自己複製である。わけても「自己」である。「自己」をどう定義するか。これは哲学、社会学、文学、神学などの人文系諸学術にも通底する難問であった。仏教もつまるところ「自己=自我」をあらゆる脳の力(悟性、理性、感覚、たぶん神性そして無意識)を用いて極めんとする営為といえるだろう。この「自己」を学術的に徹底し定義したのが現代進化論の到達点である。進化論的には、「自己」とは完全無欠に複製される「情報」である。「情報」というとそれが孤立して存在する印象を持つかもしれないが、形、重さ、匂いなどの実態ではなく「自己複製」される何かである。従って「自己」は物理的実態ではない。しかし「自己」はほとんどの場合自己複製機械そのものと同一視される。たとえば「私」の肉体と。いずれにせよ「情報」は自己複製能力の実在と深く結びついている。このことを雪の結晶の成長過程と比べて論じよう。

雪の結晶成長は似たものを作る過程だが自己複製ではない。こうした物理現象はむしろ自己組織化などと呼ばれるが、ここでの自己の使い方は自己複製の自己とは異なっており、自発的に進むことすなわち自動化を意味している。なにか複雑な物事が自発的に進むとき、私達にはそれをおし進める何かの自動作用があると考える。物理学者はそれを物理法則で説明するが、一般的には何か固有の自己がいて目標を定め事を進めているように感じられる。こうして自己の流用が行われた。千変万化する雪の結晶も2、3の結晶成長法則をもとに作られており、可能な全ての雪の形をコンピュータ中に再現できる。しかし雪に自己を定義できない以上、雪に物理的変化はあっても「雪の進化」はない(続)
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