英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第56期王位戦 第1局 (2015年7月7日~7月8日) 【その2】

2015-07-10 21:30:06 | 将棋
【その1】の続きです。


 △9七歩(第3図)から15手進み、広瀬八段が▲6三角と打った第4図。


 この▲6三角は、▲5二歩や▲8五歩を含みにした手。歩の温存と相手の手を見て指し方を変えようとした手である。
 しかし、本局では緩手となってしまった

 以下、△9四香に▲8五歩と突いたが、△8五同歩とは取ってくれず、△9八歩成が利いてしまうのだ

 ▲6三角(第4図)のところで▲8五歩と打っておけば△8五同歩の一手だったのだが、▲6三角△9四香の手の交換をしたため、△9八歩成が間に合ってしまったのだ。
 ▲8六飛と縦にかわしたいが、飛車の圧力を避けつつ角当たりに引く△7二銀が絶好となる。そこで、▲2八飛と逃げたのだが、先手玉の脅威となる「9八のと金」と、後手の玉頭を圧していた飛車の撤退の「▲2八飛」の手の交換の出入りが大き過ぎて、一気に形勢が傾いてしまった。

 感想戦の焦点も、当然、第4図(▲6三角)周辺となった。
 中継ブログの「本局のハイライト」中継棋譜の94手目「△8三同銀」の解説に詳細に書かれているが、
 ▲6三角のところで▲8五歩と打てば△同歩とせざるを得なく、そうしておいて▲6三角と打つべきだったらしい。


 以下△8四香に▲7五銀打と打つ手が有力で、これに対しては後手も△9四香と斬り合うしかなさそうだ。(△8四香では△9四香も考えられるが、▲8四歩△同銀▲8五銀△9八歩成▲8四銀△8八と▲8三歩△7一玉▲8一角成△6二玉▲6三銀△5四玉▲3四桂で先手の勝ち)



 以下▲8五銀(変化図5)△9八歩成▲8四銀直△8八と(変化図6)と“我が道を行く”攻め合い。


 さらに▲8三銀と突き進むのだが、ここでの「成り」「不成」が大きな分かれ目。
 この違いは、▲8三銀成以下△7一玉▲8一角成△6二玉▲6三銀△5三玉▲3四桂△7二桂▲同成銀△8九飛▲6八玉△7九飛成▲5七玉の時、現れる。

 7二の銀が成銀の為、銀を取りながら開き王手になる△6三玉(変化図7)が成立する。
 これが、▲8三銀不成だと、以下△7一玉▲8一角成△6二玉▲6三銀△5三玉▲3四桂△7二桂▲同銀不成△8九飛▲6八玉△7九飛成▲5七玉(変化図8)の時、△6三玉とできない

 というわけで、「▲6三角の前に▲8五歩を利かせていれば先手の勝ち」が感想戦の結論だったようだ。
 しかし、▲8五歩△同歩▲6三角△8四香▲7五銀打△9四香▲8五銀(変化図5)の時

 平凡に△8五同香と取る手がありそう。以下▲8五同飛に△7二銀打でどうなのか……難解だと思うが、どうなのだろう?
 さらに、変化図5の▲8五銀に代えて▲8四銀も有力そうだ
 おそらく、この辺りの変化も感想戦で調べられたと思うが、未知の局面を水面下を含めて戦い続け、流石の両者の頭脳も疲労していたのかもしれない。
 羽生ファンとしては、▲6三角の緩手により、ゆったりとした気分で最終盤を観戦できたのだが、≪先に▲8五歩を利かせれば、手に汗握る終盤戦が観られたのに≫という残念さもある。実戦でこの変化になっていたら、もっと詳細にあれこれ検討され、私の疑問も解明されたのではないだろうか?


 とは言え、先にも書いたが、比較的安心して最終盤を観戦できたのは、うれしい。
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第56期王位戦 第1局 (2015年7月7日~7月8日) 【その1】

2015-07-10 00:38:20 | 将棋
 難しい将棋だった。


 封じ手は大方の予想通り△7一玉であった。
 封じ手は分かりやすかったが、将棋は分かりにくく、「先手・広瀬八段の盤面制圧」と「後手・羽生王位の歩得」がどちらが優っているか、判断が分かれた。
 局後の対局者の感想によると、広瀬八段は≪ギリギリ均衡が保たれている≫、羽生王位は≪うまくいっていない≫(54手目の△4四銀を指して)というものであった。羽生王位は△4四銀では△3四飛と戻して千日手含みに指すべきだったとも述べている。


 2日目午後に入り、広瀬八段が動いた。△9六同歩なら▲9三歩△同香▲8五桂と攻められる。何より、後手の主張のひとつである9筋の突き越しが否定されてしまうのはシャクである。
 そこで、△8六角!…こう出てしまうと、ほぼ後戻りできない。


 ▲8七金とされ、以下△7七角成▲同金△9八歩成と「角」対「桂香」の二枚換えとなった。“二枚換えなら歩ともせよ”という格言があるが、角に対して桂香では≪ちょっと安いかな≫という気がする。
 実際、羽生王位は「少し悪いんじゃないか」、また、広瀬八段は「そんなに悪くないかな」という感想を述べている。

 それに、二枚換えの直後、後手は△8三歩と自陣のキズを修復しなければならないのも痛い。△8三歩に広瀬八段は▲9四歩と伸ばす。この歩を支える9八の飛車は先の二枚換えによって呼び寄せられたものであるし、後手が突き越していた9筋を逆襲できているのも気分が良い。
 ここで、羽生王位は△9七歩と飛車頭を叩く。

 この△9七歩を羽生王位は「筋が悪かった。△9六歩だったか」と振り返った。
 △9七歩も△9六歩も9筋の飛車の利きを断つものであるが、△9七歩は先手を取れるものの▲8八飛とされ、今度は玉頭の8筋に飛車の圧力を浴びることとなってしまった。
 一方、△9六歩は先手を取れないものの、飛車の危機を遮り、8筋への転回も許さない(△9七歩成がある)。
 観戦中、私は△9六歩の方が羽生王位好みかなと思っていたが、羽生王位の△9七歩を見て、≪そう指すものなのか≫と納得していた。
 棋譜中継解説も「この△9七歩が疑問で、形勢は広瀬に傾いた」とある。
 しかし、さらに掘り下げると、変化図1以下、▲8四歩△同歩▲9六飛とされると、意外に“でかしていない”ように思える。

 ▲8四歩と打ち捨てたことで▲9六飛が可能になっている(△8四桂がない)。変化図2では△5四桂が目につくが、本譜と違い先手陣の左辺がスッキリしているので、角を渡してもそれほど怖くないので、▲4四角△同歩▲5五銀で、後手の飛車と桂が働かない。

 ともあれ、本譜の進行は先手ペースというのが、対局中の両対局者の感触、感想戦の結論だった。
コメント (2)
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