英文讀解自修室

  - in the historical Japanese kana/kanji orthography

・用例研究 134 〈假定法過去〉

2018-07-09 | 用例研究

[用例研究 134]  〈if・假定法過去〉

  假定法がわかりやすくなる方法を提案してみます。

  Michael Swan は Practical English Usage で subjunctive の項で次のやうに記してゐます。

 

  Some languages have special verb forms called ‘subjunctive’, which are used especially to talk about ‘unreal’ situations: things which are possible, desirable or imaginary. Older English had subjunctives, but in modern English they have mostly been replaced by uses of should, would and other modal verbs, by special uses of past tenses, and by ordinary verb forms. English only has a few subjunctive forms left: third-person singular present verbs without -(e)s, (e.g. she see, he have) and special forms of be (e.g. I be, he were). Except for I/he/she/it/were after if, they are not very common. ( Michael Swan, Practical English Usage. 3rd ed. [Oxford: Oxford University Press, 2005], p. 559.)

 

[拙譯]

 言語には「subjunctive」と呼ばれる特別な動詞の形態をもつものがあり、それは特に「現實ではない架空の」状況、つまりあり得る(があまり可能性が高くない)こと、さうあればいいのにと願ふこと、想像することなどについて語るときに使はれる。古い英語には subjunctive があつたが、現代英語ではたいてい should 、would やその他の法動詞に、また過去時制の特別な使用に、そして通常の動詞の形態にとつて代はられてきてゐる。英語には少數の subjunctive forms が殘されてゐるにすぎない。つまり、三人稱單數現在で (e)s がつかない動詞 (たとへば she see, he have)や be (たとへば I be, he were)である。

 

  この一節で Michael Swan は動詞のかたちとして假定法をとらへてゐます。その意味で、English only has a few subjunctive forms left と述べたのですが、私たちは通常、上記の英文にいふ「とつて代はつたもの」まで含めて「假定法」と看做してをり、動詞、助動詞、不定詞などは直説法と共通のかたちで使つてゐます。ここに假定法のわかりにくさの一因があるのではないかと思はれます。區別がつきにくく、いつのことを述べてゐるのかわかりにくいわけです。

 

對處法としては、次のやうなことが考へられます。

1假定法を使つて述べられる内容は、‘unreal’ situations: things which are possible, desirable or imaginary.である、と理解すること。

2 假定法を(直説法とは別個で)「獨自の動詞・助動詞使用のシステム」としてとらへること。

3 假定法が使はれる文體をパターン化してやること。

 

  ※2について: 假定法のシステムでは、多くの場合、直説法(システム)の動詞、助動詞を借りて、時制を變へて用ゐたり、時制のない不定詞(原形)を用ゐます。

  なぜ過去時制を使ふのかについて、Michael Swan は次のやうに説明してゐます。

  we use past tenses and would to ‘distance’ our language from reality. (ことばを現實から「引き離す(/遠くに離れてゐるやうに見せる)」ために過去時制や would を用ゐます。)

  動詞の時制を過去形にすると、現在の事實から視點を過去に移すことになり、その結果、假定の氣持を表現できる、といふわけなんでせう。過去の事實からさらに遠ざけるために過去完了時制を使ふのが假定法過去完了といふことになります。このあたりの感覺は、日本人にはなかなかわかりづらいところがあります。

 

※3について具體的に記すと、假定法が使はれる文體をある程度パターン化し、できるだけ簡潔な例文によつて暗記する方法が有效ではないかと思ひます。假定法が使はれた英文を讀む際には、パターンを把握して、簡潔な例文に「還元」し、そこから文意をくみとることになります。発信は例文に倣います。

 現代の英語では、假定法の出現パターンはさう多くはなく、 30内外の例文で網羅できるやうに思ひます。そのうち大學入試レベルの英文でよく見かけるパターンは20以内におさまるのではないかと思ひます。下の紹介する用例はパターンの1番め「if・假定法過去」型です。かうしたパターンと例文については、2011年6月1日投稿の『假定法の讀み方(5)』とその續きのシリーズ(水曜日掲載)に解説があります。

 

[用例研究 134] 〈if・假定法過去〉

 

  (BLONDIE  By Dean Young & Stan Drake)

1  If I had all these great tools, I could fix the plumbing myself.

2  I already told you three times, these tools would cost you $2,000.

2  Then I guess it’s cheaper to have you fix it.

3  If you keep on talking to me, I wouldn’t be too sure!

 

[解説]

1

・had / could fix は假定法過去として使はれてゐる動詞です。現実には道具を持つてゐない状況で、「もし(今)持つてゐれば」と假定してみたわけです。

・myself: 強調用法で「自分自身が」「自分自身で」。強く発声します。

□參考例文

134

 

One must take the initiative oneself in making friends with others.

 

 

人と親しくなるには自分から率先していかなければならない。

2

・would cost が假定法過去です。「もし買ふとすれば」といふ條件が隱れてゐます。

2

・to have you fix it は使役表現です。第5文型で「OがCである状態で持つ」→「君が the plumbing を直す状態で持つ」→「君に the plumbing を直してもらふ」といふ意味に解されます。「使役」については2014年5月28日付の記事に解説と例文があります。

3

・keep は直説法で使はれてゐる動詞です。Dagwood がしゃべり續けてゐない事實があつて、「もし話し續けるなら」と條件を提示してゐるわけではありません。現在の事実と關はりのないところで、單なる條件を述べてゐることになります。

・keep on ―ing: keep ―ing と比べると、on が加はる場合は「繼續・反復が強調され、話し手の苛立ちを暗示する場合が多い」とされます。この場面でも plumber は少し苛立つてゐるのかもしれません。

・wouldn’t be は假定法過去の動詞です。「あまり確信がもてないだらう」「そんなには確信しないだらう」と婉曲に釘をさしてゐるやうに見えます。確信の内容は記されてゐませんが、直前の it’s cheaper to have you fix it のことだらうと解せます。つまり修理代が高くつくことを匂はせて Dagwood のおしゃべりを牽制してゐるのではないでせうか。

・not と too / so を一緒につかふと not はこれらを否定して「あまり~ない」「そんなには~ない」といつたニュアンスが出てきます。

 

[意味把握チェック]

1 「こんなすごい道具が揃つてゐれば(ぼくにも)自分で配管を直せるだらうな」

2 「もう三度言ひましたがね、これらの道具は(買へば)2000ドルするでせうよ」

  「それならあんたに直してもらふのが安あがりつて思ふな」

3 「もししやべり續けるんでしたら、どうですかな(/安あがりかどうかわかりませんぜ)」

 

[笑ひのポイント]

・修理代が2000ドルと讀者にまさかの思ひを抱かせ、獨自のやり方で Dagwood の多辯を牽制してみせました。ぎよつとする Dagwood の樣子や Daisy の視線もをかしみを加へてゐます。