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「Best I faced」:ドノバン ラドック(07‐12‐24)

2024年07月12日 05時04分29秒 | ボクシングネタ、その他雑談

*米国のリング誌が不定期的に行っている「Best I faced」というコーナーがあります。これまで自分が対戦した相手で誰が一番強かったか、というインタビュー形式のものです。特に引退した選手のものになると、その選手を含めた当時の記憶と記録が蘇るため、非常に重宝しています。

一昨年2022年8月7日に続く主人公は、マイク タイソン(米)と2度の大激戦を演じ、1990年代初頭には当時のヘビー級最強戦士とまで謡われたドノバン ラドック(ジャマイカ/カナダ)。それだけの実力者でありながら、世界タイトル奪取はおろか、世界戦のリングにすら登場する事がなかった「無冠の帝王」です。

(今回の主人公は「レーザー」の異名を持ったドノバン ラドック)/ Photo: Ring Magazine

マイク タイソン(米)やレノックス ルイス(英)、現在までの最後のアメリカ人ホワイト ホープと呼ばれているトミー モリソン(米)等、当時の超一流選手たちとしのぎを削ったラドックは、下記の各項目の名手として、一体誰を挙げたのでしょうか。

ジャブの名手(Best Jab):
レノックス ルイス(英)。1992年のハロウィン(10月31日)に対戦。この試合にはルイスが保持していた英連邦王座に加え、WBCヘビー級王座への挑戦権も争われました。ラドックはアマチュア時代にルイス勝利を収め、スパーリングでも常にルイスを圧倒。しかし実戦ではルイスの多彩で力強い左ジャブに大苦戦を強いられる事に。ラドックはルイスのジャブは「強く、そして早かった」と称しています。

(ルイスの強打に豪快に倒されたラドック)/ Photo: Youtube

ジャブに関してですが、ルイスもこの「Best I faced」のジャブの名手としてラドックの名を挙げています。

僅か2回46秒で終わった実力者同士の一戦。KO勝利を収めたルイスは、この試合から数週間後に、戦わずしてWBC王者に認定されました。

防御の技術(Best Defence):
マイケル ドークス(米)。1990年4月に対戦。ラドックが4回で元WBA王者ドークスを仕留めていますが、それでもドークスの防御技術を称賛しています。ドークスは常に頭の位置を変えるなどしてパンチを当てずらかったとか。

(ラドック、元王者でディフェンス技術の確かなドークスに襲いかかる。)/ Photo: Youtube

ドークスは1982年の師走にWBA王座を獲得し、1度の防衛に成功。ラドックと対戦する13ヵ月前に、クルーザー級からヘビー級に転向してきたイベンダー ホリフィールド(米)と対戦しており、その試合では10回TKO負けを喫しています。そして1993年2月には、ホリフィールドからヘビー級王座を奪ったリディック ボウ(米)の初防衛戦の挑戦者に選ばれますが、2回で粉砕されています。

頑丈なアゴ(Best Chin):
マイク タイソン(米)。ラドックとタイソンは1991年3月と6月に2度対戦し、大激戦を演じました。安易に開催されている世界戦とは雲泥の差。両試合とも、ボクシング史に残る名勝負でした。

ラドックの終身戦績は40勝(30KO)6敗(5KO負け)1引き分けと特に際立ったものではありません。KO率も63.8パーセントと、ヘビー級のトップ選手としては低め。しかしそのパンチは、自他共に認める破壊力満点。特にラドックの得意としていたフックとアッパーの中間的パンチであるスマッシュ(Smash)は殺人的な強さでした。

(タイソンの鉄の顎に「スマッシュ」を見舞うラドック。タイソン、よく立ってたな...。)/ Photo: WordPress

ラドック曰く、タイソンの顎はそのニックネームの鉄人(Iron)にたがわないものだったそうです。しかしその鉄人も、ラドックのパンチで大ピンチに陥ったのも事実です。ちなみに私(Corleone)が初めて購入したボクシングマガジンの表紙を飾っていたのは、「ラドック対タイソン」の再戦です。

(1991年8月号のボクシングマガジンの表紙を飾るタイソンとラドック。)/ Photo: Amazon.co.jp

パンチのスピード(Fastest Hands):
防御技術に続いてドークスを選択。ドークスのパンチは早さだけでなく、的確で、威力もあったそうです。

足の速さ(Fastest Feet/Footwork):
グレグ ペイジ(米)。あの偉大なるモハメド アリ(米)と同じケンタッキー州ルイビル出身のペイジは、同郷の偉人と同様素晴らしいフットワークの持ち主だったそうです。

ドークスの2代後のWBA王者ペイジとは1992年2月に対戦し、8回終了TKOで勝利を収めたラドック。フットワーク同様、左ジャブを駆使し、距離感が絶妙だったと称賛しています。

賢さ(Smartest):
マイク ウェーバー(米)。世界王者の順として見ると、ウェーバーからタイトルを奪ったのがドークス。ゲリー コーツィー(南ア)がドークスから王座を奪取し、ペイジがそのタイトルを米国に持って帰ってきました。

1986年8月に、自身15戦目のリングで対戦した元世界王者。ウェーバーはラドックの倍以上の経験に加え、驚異的なパンチ力を兼ね備えた危険な相手でした。スロースターターと思いきや、相手をじっくり見ながら崩していくボクシングを展開するウェーバーは、若きラドックにとり非常に厄介な相手だったようです。そんなベテランを相手に、ラドックはKOを狙わず確実な勝利のためにアウトボクシングを展開。2対1の僅差の判定勝利を収めました。

強さ(Strongest):
ジェームス スミス(米)。1989年の7月に対戦。スミスもまた、元WBA王者でした。パンチもそうですが、スミスの体か異常なまでの力強さを感じたそうです。ラドック曰くスミスは「地震のようだった」そうです。

(頑丈なスミスと対峙するラドック。)/ Photo: Youtube

パンチ力(Best Puncher):
当然の如くタイソンを挙げています。単発では、ウェーバーも強打者でしたが、タイソンの場合すべてのパンチが拳銃のようだったそうです。またラドックは、トミー モリソン(米/1995年6月に対戦)のパンチ力も称賛しています。

タイソン、モリソン、ウェーバーも強打者でしたが、ラドックも彼らに劣らない爆弾の持ち主でした。敗れたとはいえタイソンには右アッパーを炸裂させ、マウスピースをも飛ばしています。モリソンからは豪快なダウンを奪っています。結果的にはタイソンとモリソンはラドックに勝利を収めましたが、どの試合もラドックが勝利を収めていてもおかしくないものでした。

技術者(Best Skills):
ベストフットワークの部に続いて、ページを挙げています。アリの同胞、そして練習相手だったため、グレーテストの技術がページに浸透していたと述べています。

(ページの技術もなんのその)/ Photo: Pinterest

総合(Overall):
もちろんタイソンを選択。両者は僅か3ヶ月の間に(1991年の3月から6月)、合計19ラウンドの戦争を演じました。あれだけの死闘を短期間で2試合こなすとは...。両者とも怪物以外の何物でもありません。

(爆弾を放ちあうラドックとタイソン。)/ Photo: WordPress

タイソンは1990年2月に、東京ドームでジェームス ダグラス(米)にKO負けを喫し王座から転落しました。ラドックにはダグラスより前に、タイソンに挑戦するという話がありました。もし「タイソン対ラドック」戦が「タイソン対ダグラス」戦以前に行われていたら、ヘビー級の、そしてボクシングの歴史が変わっていたかもしれません。

2000年4月に、クリス バード(米)が大番狂わせでビタリ クリチコ(ウクライナ)を破り、WBOヘビー級王座を獲得しました。その試合はビタリの一方的な試合展開で進んでいましたが、9回終了時に左肩の負傷を理由に突然ギブアップ。意外、そして予想外の形で王座交代劇が起こりました。本来はこの試合、ラドックが出場を予定していましたが体調不良のため出場を辞退。バードがビタリ、ラドックと二人の災難を自らの幸運に好転させ世界のベルトを腰に巻きました。もしラドックが予定通りビタリに挑戦していたら、どんな試合結果が待っていたのでしょうかね!?

上記でも挙げたように、強豪たちとの対戦を繰り返しながら40勝(30KO)6敗(5KO負け)1引き分けというレコードを残しリングを去ったラドック。マイク ウェーバー(米)、ジェームス スミス(米)、マイケル ドークス(米)、グレグ ページ(米)等、実力はさておき元世界王者たちを撃退しながらも、世界王座奪取はおろか、世界戦のリングに立つこともなかったラドック。不運というか、不思議というか、当時より世界王座が乱立している現在では考えられない事ですね。

そのニックネームであるレーザー(Razor)の通り、剃刀のようなパンチで、対戦相手をスマッシュ(Smash/ラドックの得意パンチ)し続けたラドック。やはり見たかったですね、世界戦の舞台での彼の雄姿を。同時代に活躍したイベンダー ホリフィールド(米)やリディック ボウ(米)、そしてジョージ フォアマン(米)たちと対戦していたら、どんな試合が見れたのでしょうか。とんでもない試合になっていたことは間違いないでしょう。ラドック、まさに記録ではなく記憶に残るパンチャー、名選手でした。


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