キエフ・バレエ『ドン・キホーテ』(1月9日)-3


  スペインの踊り(「ギターの踊り」とも呼ばれてる)はオレシア・ヴォロトニュクで、そこはかとない憂愁が漂う、なかなか味わい深い踊りでした。ヴォロトニュクはカスタネットを叩くのも非常に上手で、演奏とバッチリなタイミングで、高く心地よい音を響かせていました。音の強弱の付け方も見事。最初はオーケストラの奏者が鳴らしているのかと間違えたくらいです。この踊りは音楽も良いですものね。

  でも、新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』で、楠元郁子さんが踊ったギターの踊りのほうが印象に残ってるなあ。楠元さんのあの踊りはゾーンに入ってたというか、もはや悟りの境地に入ってたような踊りだった。うーん、他のダンサーと比べちゃいけないとは分かってるんだけど。

  問題はその後で、金色の衣装のエスパーダ(?)が登場します。第一幕とは異なるダンサーでした。カーテン・コールでは、白い衣装のセルギイ・クリヴォコンとこの金色衣装のダンサーが両方とも出ていたので、違うダンサーなのは確かだと思います。

  この金色衣装のダンサーもなかなか、というよりめっちゃ優れたダンサーでした。見た目も踊りも良かったので、キャスト表に名前載ってるだろうと思ったら載ってない。カーテン・コールでも後ろのほうにいたので、まだ位階の低い人なんだろうと思います。

  メルセデス役のオクサーナ・グリャーエワは、腕の使い方や雰囲気に深い味がありました。メルセデスが出てくる前にギターの踊りを踊ったオレシア・ヴォロトニュクよりも、スペイン風な腕の動かし方がうまくて長く見え、踊っている姿が大きく浮き出て見えます。かなり印象に残りました。

  第三幕で、金色の衣装を着たエスパーダらしい彼が出てきました。そして、第二幕でメルセデスを踊ったオクサーナ・グリャーエワとは別人らしい、メルセデスっぽいダンサーが出てきました。でも、これもキャスト表に名前がありません。

  今にして思えば、靴を確認すればよかったんだよな。トゥ・シューズなら大道の踊り子、キャラクター・ダンス用のシューズならメルセデス。仕事帰りで疲れで朦朧としてたので考えつかなかった。というか、キャスト表に名前載せてないほうがそもそも不親切だよなー、ぶつぶつぶつ…。

  ともかく、第三幕冒頭、金色衣装のエスパーダっぽい彼と、メルセデスもしくは大道の踊り子の彼女との踊りは大変にすばらしかったです。具体的には忘れました。すばらしいと思ったのを覚えているだけです。すみません。

  第三幕のキトリとバジルはオリガ・ゴリッツァとヤン・ヴァーニャ。ゴリッツァはやっぱりテクニックにまだ不安がありますなー。今回もバランス・キープの見せ場はほとんどスルーしてました。やっても、やる前からすでにグラグラしているので、さっさと次の動きに移っていました。

  ヴァーニャとの相性についても心配しましたが、今回はよく合っていました。キトリが片脚を横に伸ばしたまま回転し、バジルがキトリの腰を支えて止めて、キトリが上体を前に倒して開脚するところとか、しゃちほこ落としとか。

  いきなりグラン・パ・ド・ドゥだったせいか、ヴァーニャはちょっと調子が出ていなかったように見えました。それとも、バジルはあんまり向いていないのかな。でも相変わらずのきちんとした踊りでした。バジルの踊りってどう踊るのが正しいんでしょうね。許される範囲内で振付を変え、超絶技巧を披露するのがいいのか、あくまで振付からはみ出さずに踊るのがいいのか。

  ゴリッツァは、コーダでのグラン・フェッテで間に2回転入れて回り通しました。テクニックについては、得意なものもあれば、まだ不得意なものもあるということなんでしょう。しばらく様子見ですね。まだ若い(24~5歳)んだし。

  公演会場である文京シビックホールの大ホールには、オーケストラ・ピットが設けられていました。普段の列の6列目までがオーケストラ・ピットだったかな?私は舞台の奥が見切れるのが嫌で7列目(たぶん。半券もう捨てた)のチケットを取ったんだけど、行ってみたら最前列だったのでびっくりした。

  それで分かったんだけど、文京シビックホールの大ホールにオーケストラ・ピットを設けると、客席と舞台との距離がめちゃくちゃ遠くなります。東京文化会館大ホールよりも遠いと思います。そのため、ダンサーたちの踊りがなんか臨場感に欠けることになります。せっかくレベルの高い舞台だったのに、これはもったいなかった。

  私はオペラグラスを使いました。私の後ろ(8列目)に座っていた観客も、第二幕が始まる前に「意外と遠いな」と言って、オペラグラスを取り出していたようでした。結論としては、文京シビックホールの大ホールは、生オケ付きのバレエ公演には不向きである、と。交通も不便だしね。

  平日の仕事帰りにバレエを観に行くのはもう無理だな、と痛感しました。気力と体力がもちません。集中力を維持できないから、ダンサーたちの踊りがどうだったか、ところどころ記憶がすっぽり抜け落ちています。年はとりたくないもんだ。大したこと書いてない感想でほんとごめんなさい。

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キエフ・バレエ『ドン・キホーテ』(1月9日)-2


  第一幕のキトリ役はナタリア・マツァーク。最高でした!非の打ちどころのないすばらしさです。快活で溌溂とした魅力にあふれ、表情は豊かで、いたずらっぽい笑みやコミカルな表情がとてもすてき。テクニックは強靭且つ鉄壁でした。長い脚を根元から高々と上げ、えびぞりジャンプは頭とかかとがくっつかんばかりです。

  マツァークの踊りのあまりな凄さに、本当にただただ感嘆するばかりでした。第一幕だけだったら、スヴェトラーナ・ザハロワのキトリに勝ってるかも。キトリはマツァークにぴったりな役です。マツァークの良さを最も発揮できる役のように思いました。全幕通してマツァークで観たかったなあ。

  バジルはデニス・ニェダクで、やはりこれも適役。もっとも、ニェダクは役によって雰囲気や踊りのタイプをがらりと変えられる優秀なダンサーですが。ニェダクの場合は、パートナリング能力の高さも魅力の一つで、マツァークを片手だけで頭上高く支えて、長い間キープしていました。観客が「おお~っ!」とどよめきます。

  ガマーシュ役はヴィヤチェスラフ・ステリマフでした。これはステリマフのせいではなく、演出がそうなっているのだと思いますが、かなりウザいガマーシュでした。必要以上に出張ってキトリやバジルにからむの。はっきり言って目の邪魔。うるさい。

  マシモ・アクリさんが2011年の日本バレエ協会公演『ドン・キホーテ』でガマーシュをやりました。あのときのアクリさんもかなりやりすぎて、観ていてムカつきました。あのときと同じ不快感です。ガマーシュは観客を笑わせる重要な役ですが、かといって出張りすぎてもいけない。難しい役どころですね。

  独立した旧ソ連圏諸国の例に漏れず、ウクライナの経済事情もかなり深刻なんだそうです。そうした経済事情を反映してか、キエフ・バレエの舞台装置はかなり貧弱です。しかし、キエフ・バレエは、豪華な舞台装置や豪華衣装に頼れないぶん、踊りや演技の質の高さそのもので勝負しています。この姿勢が群舞のレベルの高さ(本当に群を抜いている)やダンサー一人一人の細かい演技に表れています。

  何が言いたいかっつーと、ワタシ、『ドン・キホーテ』第一幕の群舞に見とれたなんてはじめての経験よ。衣装の生地はどう見ても安っぽいのよ。でも、そのぶん色づかいを工夫して、鮮やかな色彩美を醸し出すようにしているし、その明るい色彩の衣装をまとった群舞がすばらしく踊ると、正直、舞台装置のショボさなんてどっかにふっ飛んで気にもならない。

  キトリの友人役はおなじみユリヤ・モスカレンコとアンナ・ムロムツェワ。おそらく明日のキトリ、オーロラ、ニキヤ、オデット/オディール等々になるだろう若いダンサー。この二人は第一~三幕を通して踊りました。第三幕のグラン・パ・ド・ドゥではそれぞれヴァリエーションも踊りました。二人とも脚が長いなあ、よく上がるなあ、テクニック強いなあ、と相変わらず同じことばっかり考えてた記憶はありますが、ごめんなさい、細かい具体的なことは覚えてません。

  第二幕のジプシーの踊り、カテリーナ・タラソワの踊りはよかったです。この踊りは、ただ振りだけなぞって踊ってるダンサーがよくいるけど、タラソワはきちんとジプシー女の悲哀みたいなものを漂わせてました。でも当たり前ながら、ユリアンナ・マハルシャンツ(ボリショイ・バレエ)には遠く及ばず。数年経った今でも、マハルシャンツのあのジプシーの踊りは忘れられん。「そう踊られるべきジプシーの踊り」を観られたことはラッキーだったんだなあ。

  第二幕、キトリというかドルシネア役はオリガ・キフィアクです。筋力とテクニックが強い人だから、第二幕に配したのは適切だと思います。実際に踊りも安定感のあるものでした。

  しかし、私の興味は森の女王役のカテリーナ・カザチェンコにありました。プロフィールの写真が怖くて(笑)、たぶんなんかの舞台写真だと思います。経歴もユニーク。2007-08年はエイフマン・バレエに所属してたんだって。その後またキエフ・バレエに戻ったそう。キエフ・バレエ出身者によくいる、個性の強い野心的なダンサーとみた。

  そのカザチェンコが森の女王をどう踊るのかと楽しみでした。ところがね。実にピュアで正統派な踊りではありませんか。我や個性も封じ込めて、役に徹している。雰囲気と踊りが予想と違ったので驚きましたが、もっと驚いたのがカザチェンコの脚!この人、身体の三分の二が脚だよ。長い長い。

  キエフ・バレエのバレリーナはみな脚が長いけど、カザチェンコの脚の長さは異常。でもきちんとコントロールして踊ってる。森の女王のヴァリエーションの最初(片足で立って、もう片脚を横にふり上げる)なんか、測ったら2メートル以上は軽くあるんじゃねえの、と仰天したくらい長かったです。それで余裕たっぷりにためをおいてキープ。カザチェンコ、もっと観たかった。来年はぜひ主役で。

  第二幕のバジルはドミトロ・チェボタルで、この人も長身・手足長・イケメンと三拍子揃ってる。回転は鋭く、キトリ役のオリガ・キフィアクのフィッシュ・ダイブをがっしり受け止め、パートナリング能力も高い模様。バジルの狂言自殺の演技も笑えました。キエフ・バレエの男性ダンサー人材の未来は明るい。イーゴリ・コルプやレオニード・サラファーノフのように、他のバレエ団に持ってかれて、便利屋のごとくコキ使われた挙句、使い捨てにされないよう気をつけてほしいものである。

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キエフ・バレエ『ドン・キホーテ』(1月9日)-1


  忙しくてなかなか更新できないっす。申し訳ないっす。記憶から去らないうちに(でもほとんど忘れちゃったけど)書いちゃいましょー。

  今日、新国立劇場バレエ団の『カルミナ・ブラーナ』(4月)のチケットを取りました。ゲストとして予定されていたバーミンガム・ロイヤル・バレエのイアン・マッケイが降板して、あらたに同バレエ団のタイロン・シングルトンが出演することになったそう。

  新国立劇場バレエ団の『カルミナ・ブラーナ』については、私はそもそもゲストを呼ぶ必要はもうないのではと思っているから、特に異論はなし。もう自前ダンサーだけで充分に上演できますよ。

  ついでにジャパン・アーツのサイトに行って、アメリカン・バレエ・シアター日本公演『マノン』(2月)のチケット残存状況を見てみたら、おお、かなり余ってる!ぜひともこのキャストで観たい、というこだわりはないので、いちばん良い席が余ってたポリーナ・セミオノワとコリー・スターンズ主演の日を買いました。ポリーナ・セミオノワは、今はどこのバレエ団の所属なんですか?

  アメリカン・バレエ・シアターの前回の日本公演は、『ドン・キホーテ』もマクミラン版『ロミオとジュリエット』も惨憺たる有様だったから、『マノン』も大いに不安なのですが、演目の魅力には勝てず。

  さて、キエフ・バレエの『ドン・キホーテ』は今回、一幕ごとにキトリ役とバジル役が異なるという方式で行われました。ずいぶん前のマニュエル・ルグリのガラ公演だったか、世界バレエ・フェスティバルだったかで、『白鳥の湖』を一幕ごとに主役を変えるという形で上演したように覚えています。

  こういう形の上演方式はありだとしても、私個人はあまり好きではありません。混乱するから。まさかそんなことはないとは思いますが、たとえば、スタミナの問題でキトリを三幕通しで踊れるバレリーナが現在のキエフ・バレエにいないのが理由だったとしたら、『ドン・キホーテ』を今回の日本公演の演目に入れるべきではなかったと思います。


 『ドン・キホーテ』全三幕(2014年1月9日於文京シビックホール)

   音楽:レオン・ミンクス

   原振付:マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー、K.ゴレイゾフスキー

   改訂振付・演出:ヴィクトル・リトヴィノフ

   美術:V.アレフィエフ、A.ヴラセンコ


   キトリ:ナタリア・マツァーク(第一幕)、オリガ・キフィアク(第二幕)、オリガ・ゴリッツァ(第三幕)

   バジル:デニス・ニェダク(第一幕)、ドミトロ・チェボタル(第二幕)、ヤン・ヴァーニャ(第三幕)

   ドン・キホーテ:セルギイ・リトヴィネンコ
   サンチョ・パンザ:ユーリイ・ロマネンコ
   ロレンツォ:ロマン・ザヴゴロドニー
   ガマーシュ:ヴィヤチェスラフ・ステリマフ

   大道の踊り子(第一幕):エレーナ・フィリピエワ

   エスパーダ:セルギイ・クリヴォコン
   メルセデス:オクサーナ・グリャーエワ

   森の女王:カテリーナ・カザチェンコ
   キューピッド:オクサーナ・シーラ

   キトリの友人:ユリヤ・モスカレンコ、アンナ・ムロムツェワ

   ジプシーの踊り:カテリーナ・タラソワ

   スペインの踊り(ギターの踊り):オレシア・ヴォロトニュク


   指揮:オレクシィ・バクラン
   演奏:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団

   上演時間:第一幕 40分、第二幕 45分、第三幕 30分


  たぶん、エスパーダとメルセデスはダブル・キャストだったと思います。エスパーダは第一幕と第二・三幕でダンサーが違いました。第一幕は白い衣装、第二・三幕で踊ったのは金色の衣装のダンサーです。

  メルセデスも第二幕と第三幕でダンサーが違いました。ただしプログラムには、大道の踊り子としてエレーナ・フィリピエワとともにオリガ・キフィアクの名前が記載されていますから、第三幕でエスパーダと踊ったのは、メルセデスではなく大道の踊り子だったのかもしれません。ああもう、書いてて混乱してきた(汗)。

  『ドン・キホーテ』は、たとえば大道の踊り子という役がなく、メルセデス役のダンサーが大道の踊り子の踊りを兼任したり、第三幕のファンダンゴのリーディング・ダンサーを、別のソリストたちではなくエスパーダとメルセデス役が担当したりと、登場人物や担当する踊りが版によってかなり異なります。今回の公演では、キャスト表の不親切さが非常に目立ちました。次回の日本公演ではぜひ改善してほしい点です。

  いきなり第一幕のエスパーダに話がいきますが、エスパーダ役のセルギイ・クリヴォコンは長身、手足長し、きりっとした男前で、動きにもキレがあり、マントさばきも上手く、おお、こんな隠し玉がまだいたか、と感心しました。純白の闘牛士の衣装がよく似合います。

  クリヴォコンは13日の『白鳥の湖』でロットバルトを踊りました。キエフ・バレエが今回上演した『白鳥の湖』はワレリー・コフトゥン版で、ボリショイ・バレエが上演しているユーリー・グリゴローヴィチ版と同様、ロットバルトが踊るシーンがかなりありました。クリヴォコンの踊りには若干の不安定さはありましたが(あと振付が良くなかった)、非常にダイナミックですばらしいものでした。

  大道の踊り子はエレーナ・フィリピエワで、もちろんトゥ・シューズを穿き、ポワントで踊ります。正直言うとあまり記憶に残っていないのですが、音楽への合わせ方が絶妙なのと、揺るぎない安定した動きはさすがだなあ、と思ったことを覚えています。

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