キエフ・バレエ『ドン・キホーテ』(1月9日)-2


  第一幕のキトリ役はナタリア・マツァーク。最高でした!非の打ちどころのないすばらしさです。快活で溌溂とした魅力にあふれ、表情は豊かで、いたずらっぽい笑みやコミカルな表情がとてもすてき。テクニックは強靭且つ鉄壁でした。長い脚を根元から高々と上げ、えびぞりジャンプは頭とかかとがくっつかんばかりです。

  マツァークの踊りのあまりな凄さに、本当にただただ感嘆するばかりでした。第一幕だけだったら、スヴェトラーナ・ザハロワのキトリに勝ってるかも。キトリはマツァークにぴったりな役です。マツァークの良さを最も発揮できる役のように思いました。全幕通してマツァークで観たかったなあ。

  バジルはデニス・ニェダクで、やはりこれも適役。もっとも、ニェダクは役によって雰囲気や踊りのタイプをがらりと変えられる優秀なダンサーですが。ニェダクの場合は、パートナリング能力の高さも魅力の一つで、マツァークを片手だけで頭上高く支えて、長い間キープしていました。観客が「おお~っ!」とどよめきます。

  ガマーシュ役はヴィヤチェスラフ・ステリマフでした。これはステリマフのせいではなく、演出がそうなっているのだと思いますが、かなりウザいガマーシュでした。必要以上に出張ってキトリやバジルにからむの。はっきり言って目の邪魔。うるさい。

  マシモ・アクリさんが2011年の日本バレエ協会公演『ドン・キホーテ』でガマーシュをやりました。あのときのアクリさんもかなりやりすぎて、観ていてムカつきました。あのときと同じ不快感です。ガマーシュは観客を笑わせる重要な役ですが、かといって出張りすぎてもいけない。難しい役どころですね。

  独立した旧ソ連圏諸国の例に漏れず、ウクライナの経済事情もかなり深刻なんだそうです。そうした経済事情を反映してか、キエフ・バレエの舞台装置はかなり貧弱です。しかし、キエフ・バレエは、豪華な舞台装置や豪華衣装に頼れないぶん、踊りや演技の質の高さそのもので勝負しています。この姿勢が群舞のレベルの高さ(本当に群を抜いている)やダンサー一人一人の細かい演技に表れています。

  何が言いたいかっつーと、ワタシ、『ドン・キホーテ』第一幕の群舞に見とれたなんてはじめての経験よ。衣装の生地はどう見ても安っぽいのよ。でも、そのぶん色づかいを工夫して、鮮やかな色彩美を醸し出すようにしているし、その明るい色彩の衣装をまとった群舞がすばらしく踊ると、正直、舞台装置のショボさなんてどっかにふっ飛んで気にもならない。

  キトリの友人役はおなじみユリヤ・モスカレンコとアンナ・ムロムツェワ。おそらく明日のキトリ、オーロラ、ニキヤ、オデット/オディール等々になるだろう若いダンサー。この二人は第一~三幕を通して踊りました。第三幕のグラン・パ・ド・ドゥではそれぞれヴァリエーションも踊りました。二人とも脚が長いなあ、よく上がるなあ、テクニック強いなあ、と相変わらず同じことばっかり考えてた記憶はありますが、ごめんなさい、細かい具体的なことは覚えてません。

  第二幕のジプシーの踊り、カテリーナ・タラソワの踊りはよかったです。この踊りは、ただ振りだけなぞって踊ってるダンサーがよくいるけど、タラソワはきちんとジプシー女の悲哀みたいなものを漂わせてました。でも当たり前ながら、ユリアンナ・マハルシャンツ(ボリショイ・バレエ)には遠く及ばず。数年経った今でも、マハルシャンツのあのジプシーの踊りは忘れられん。「そう踊られるべきジプシーの踊り」を観られたことはラッキーだったんだなあ。

  第二幕、キトリというかドルシネア役はオリガ・キフィアクです。筋力とテクニックが強い人だから、第二幕に配したのは適切だと思います。実際に踊りも安定感のあるものでした。

  しかし、私の興味は森の女王役のカテリーナ・カザチェンコにありました。プロフィールの写真が怖くて(笑)、たぶんなんかの舞台写真だと思います。経歴もユニーク。2007-08年はエイフマン・バレエに所属してたんだって。その後またキエフ・バレエに戻ったそう。キエフ・バレエ出身者によくいる、個性の強い野心的なダンサーとみた。

  そのカザチェンコが森の女王をどう踊るのかと楽しみでした。ところがね。実にピュアで正統派な踊りではありませんか。我や個性も封じ込めて、役に徹している。雰囲気と踊りが予想と違ったので驚きましたが、もっと驚いたのがカザチェンコの脚!この人、身体の三分の二が脚だよ。長い長い。

  キエフ・バレエのバレリーナはみな脚が長いけど、カザチェンコの脚の長さは異常。でもきちんとコントロールして踊ってる。森の女王のヴァリエーションの最初(片足で立って、もう片脚を横にふり上げる)なんか、測ったら2メートル以上は軽くあるんじゃねえの、と仰天したくらい長かったです。それで余裕たっぷりにためをおいてキープ。カザチェンコ、もっと観たかった。来年はぜひ主役で。

  第二幕のバジルはドミトロ・チェボタルで、この人も長身・手足長・イケメンと三拍子揃ってる。回転は鋭く、キトリ役のオリガ・キフィアクのフィッシュ・ダイブをがっしり受け止め、パートナリング能力も高い模様。バジルの狂言自殺の演技も笑えました。キエフ・バレエの男性ダンサー人材の未来は明るい。イーゴリ・コルプやレオニード・サラファーノフのように、他のバレエ団に持ってかれて、便利屋のごとくコキ使われた挙句、使い捨てにされないよう気をつけてほしいものである。

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