キエフ・バレエ『白鳥の湖』(1月13日)-3


  第二幕。花嫁候補たち(カテリーナ・カザチェンコ、ユリヤ・モスカレンコ、アンナ・ムロムツェワ、アナスタシヤ・シェフチェンコ)は、4人で踊るあの踊りの後に、全員がそれぞれヴァリエーションを踊りました。4つの音楽は聴いたことがあるものも、ないものもあったと思います。4人の衣装は長いドレスではなくチュチュです。

  アナスタシヤ・シェフチェンコは脚がダントツで長いダンサーですが、長い脚をまだうまくコントロールできてないところがあります。動きが雑で粗く、ちょっと美しさに欠けるときがありました。せっかくバレエの神様からもらった長く美しい脚なのですから、有効活用してほしいものです。

  オディールとロットバルトが登場した後、ロットバルトのソロというかヴァリエーション(?)がありました。これはめずらしいのでは?音楽はあやふやですが、たぶんヌレエフ版第一幕パ・ド・サンクで、男性二人が踊るときに用いられているものと同じだったと思います。違ったらすみません。

  ダイナミックな音楽なので、振付もダイナミックなものでした。大ぶりな回転とジャンプがてんこもり。ロットバルト役のセルギイ・クリヴォコンはよくこなしていましたが、回転でちょっと不安定さが目立ったような。こうやって見ると、クリヴォコンも長身で脚が長いね~(感嘆)。キエフ・バレエの男性ダンサーも本当に層が厚い。

  振付そのものは平凡であまり良くなかったと思います。紋切り型というかお約束の動きばかりで工夫がない。ロットバルトなんだから、もっと癖のある、アクの強い振付でもよかったのでわ。こういうの見ると、同じくロットバルトの存在の比重を大きくして、踊りも大幅に増やしてあるグリゴローヴィチ版とどうしても比べてしまいます。グリゴローヴィチ版のロットバルトの踊りのほうが、はるかに迫力あって印象に残るから、なんだかんだいって、グリゴローヴィチはやっぱりすごい振付家だなと思う。

  この後は、スペインの踊り、ヴェニスの踊り(ナポリの踊り)、ハンガリーの踊り、マズルカと普通にありました。中でもスペインの踊りが突出してすばらしかったです。男女2人ずつの4人で踊られました。その中にオレシア・ヴォロトニュクがいたのは確かだと思うのですが、あとの3人は分かりません。ともかく、4人とも動きは流麗、女性陣は腰の反り返り具合(ヘンな形容でごめん)とドレスの翻り方が美しくて、スペインの踊りが終わると大きな拍手が沸き起こりました。

  ヴェニスの踊りは男女のペアからなる群舞があり、その中央で男性ソリスト(コスチャンチン・ポジャルニツキー)が踊るという構成でした。あれ?ポジャルニツキー、さっぱり印象に残ってない…。

  ハンガリーの踊りとマズルカは、男女ペアの群舞と男女ペアのソリスト一組というよくある構成でした。指揮者のオレクシィ・バクランは、ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)とマズルカでは猛烈にテンポを上げていき、最後は爆速で終わります。バクランの指揮には賛否両論あるでしょうが、私個人は、バクランはバレエをドラマティックに盛り上げられる振りができる指揮者だと思います。

  黒鳥のパ・ド・ドゥ。アダージョとコーダはほとんどの版が採用している音楽と同じでした。オディールのヴァリエーションの音楽はブルメイステル版、ヌレエフ版、グリゴローヴィチ版と同じで、オディールのヴァリエーションの振付(最初にアラベスクの姿勢でぐるぐる回るやつ)は、グリゴローヴィチ版とまったく同じでした。これには驚きました。オディールのヴァリエーションの振付は、グリゴローヴィチ独自の振付じゃないの?旧ソ連時代の古い振付なのだろうか。

  王子のヴァリエーションの振付は、セルゲーエフ版と同じだったように覚えています。ただし音楽はあやふや。セルゲーエフ版と同じだったような、ブルメイステル版と同じ(つまりバランシン「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」の男性ヴァリエーションと同じ)だったような…。

  ニェダクは「王子踊り」をしてました。王子系の踊りで無意味に張り切るバカ、たまにいるじゃん。去年の英国ロイヤル・バレエ団日本公演の『白鳥の湖』のパ・ド・トロワで、後ろ向き開脚ジャンプをするときに、張り切って180度以上両脚開いてドヤ顔してたヤツ(名前忘れた)みたいにさ。あれで逆に王子役のカルロス・アコスタの別格度が際立ったのを覚えている。

  ニェダクは本当は脚がもっと開くはず(←ソロルとバジルで確認済み)ですが、形が崩れるからあえて開かず、抑え目で品のある動きを保って踊っていました。それでも、空中での回転数がすごく、ジャンプからの着地が柔らかくて音がせず、着地したときの両足の位置がブレません。

  フィリピエワはもともと優しい顔立ちをしているので、目をほんのすこし見開いて、口の端をわずかに上げるだけで凄味のあるオディールになります。姿勢ひとつ、動きひとつとっても、本当に隙がない(驚嘆)。強い。途中、一か所だけ王子役のニェダクのサポートがうまくいかず、フィリピエワの身体が斜めにグラっときたときがありましたが、フィリピエワは当然のことながら顔色一つ変えず。平然として踊り続けました。

  何度も何度も同じことを書いてつまらんと思われるでしょうが、男性ダンサーにサポート、リフトされているときに、基本的に男性ダンサー任せで支えられたり持ち上げられたりしているバレリーナと、基本的に自分で自分を支え、リフトされても自力でやるべきこと(跳ぶ、身体を引き上げるなど)をやっているバレリーナは、素人目に見ても意外と分かりますな。フィリピエワは後者でした。ニェダクが手を放しても、フィリピエワは自力で大丈夫だな、と思えるのです。

  コーダでは32回転をバッチリ決め、オディール風笑顔で喝采に応えます。ああ、これぞ経験豊富なプリマの貫録と余裕!

  あと300字弱で終わるべ(私は東北人~)。第三幕の幕が開いたとき、私はすごく感動しました。青い舞台上に白い花が一斉に咲いたかのような白鳥たちの姿と、それ以上に、その美しすぎる風景に客席から一斉に漏れた、どよめきに近いため息にです。あれは日本では珍しいことです。ダンサーたちにも聞こえたと思うのです。

  特に、年配の男性客たちが、舞台上の風景の美しさに思わず漏らした「ああ…」という声に、私は不意を突かれ、我に返った思いになりました。私は批評家ヅラして舞台を観ていた自分を恥ずかしく思いました。美しいものに対して自然に感動し、感嘆のため息と声を漏らす、なんてすばらしい人たちなのか。

  第三幕はセルゲーエフ版と基本的に同じです。ラストはハッピー・エンド。これも嬉しい。オデットばかりでなく、他の白鳥たち(彼女たちもロットバルトの呪いで白鳥にされた人間の女性たちだったのですよね。よく考えたら)も、人間に戻れた喜びを漂わせ、舞台全体が穏やかな幸福感に包まれて幕。

  カーテン・コールが終わって幕が完全に閉じられると、幕の向こうから「ヒャッホー!!!」というダンサーたちの叫び声が(笑)。1ヶ月近くにわたるハードなスケジュールの公演、お疲れさまでした。2014-15年公演も楽しみにしてます

   
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