「Critical Mass」(2)

(終演後のアダム・クーパー。まるで森の小人さん)  

  今日、4月10日はグッド・フライデーで休日です。なんでかというと、今度の日曜日(12日)がイースター(復活祭)だからです。13日の月曜日もイースター・マンデーで休日となり、イギリスは今日から4日間の連休に入ります。

  しまったよ。そんなこと全然知らなかった。主たる観光地は、よほどメジャーなところでない限り、ほとんどが休みのはずです。夜までどうやって時間をつぶそうか・・・公園か教会かな。

  ちなみに、イースター・ホリデイの日程がよく分からなかったので、泊まっているB&Bの受付の兄ちゃんたちに聞いたら、兄ちゃんたち、互いに顔を見合わせて、「たぶん日曜日がイースターだよ。金曜日がバンク・ホリデイで、月曜日もそうだと思う。俺たち、クリスチャンじゃないからよく分かんないだよね」と、ちょっと強い口調で言われました。

  すわ、祝祭日といえど、宗教に関する質問はタブーなのか、と思い、「私もクリスチャンじゃないから分かんないんですう」とあわてて言い訳して、「じゃ、おやすみなさい!」と言って逃げるように去りました。

  昨日書いた「Critical Mass」(1)ですが、特に第2部を書き足したので、よかったら最後のほうをまたご覧下さい。

  照明が再び消えると、やがて舞台の左前方にアダム・クーパーの後ろ姿が白いライトの中で浮かび上がります。クーパーは両手を組んで頭上に上げています。第3部がこれから始まるようです。

  やはりほぼ無音の中で、クーパーのソロが始まります。クーパーは組んだ両手の輪を空中でゆっくりと動かし、身をよじるように体を複雑に動かします。組んだ両手は縛られているかのようであり、クーパーはやや苦しげな表情をして、なんとか自由になろうともがいているかのような振りで踊ります。

  そして、両手を離すと、今度は両腕をピンと伸ばし、鋭く、しかしなめらかに回転させます。クーパー君の長い腕の本領発揮です。彼の両腕は、闇の中に白い円型の光の残像を描きながら旋回します。肉眼で見ても、無数の光の線からなる円い残像がはっきり見えるのです。

  これは「Two×Two」でも見られた振りですが、暗い照明とダンサーの動きの巧みさとが、うまく融合して醸し出される効果だと思います。

  クーパーが踊っているうちに、舞台の右奥にラッセル・マリファントが立っているのが見えてきます。踊り終えたクーパーはその場に座り込みます。マリファントも同じように座り込みます。彼らは同じ方向を見つめ、それからゆっくりと立ち上がります。

  マリファントとクーパーはやがて顔を上げると、歩いては座り込み、また歩いては座り込みして、互いに歩み寄ります。そして再び組んで踊り始めます。

  音楽ではなく、低い効果音と重いパーカッションの音だけが響いています。マリファントとクーパーは床の上を這いずり、またのたうち回るかのような動きで舞台じゅうを移動して踊ります。

  第3部の踊りは基本「床に寝そべって」のようです。マリファントとクーパーは床の上に横たわりながら、そのまま身体をぐるぐると回転させて、腕の力だけで身体を持ち上げ、逆立ち状態で相手の身体の上を横断したり、互いに動きながら身体を組み合わせていきます。

  ほとんど寝そべったままで、マリファントとクーパーの身体はすばやく動き回り、動きながら身体を組み合わせていく、その一瞬一瞬が絶妙なポーズになっています。これも二人のタイミングが合わないと成り立たない振りです。

  パーカッションの重い音がリズミカルに響きわたります。第2部と似たようなダイナミックなリフトが再び何度も繰り返されます。マリファントにリフトされた瞬間に開脚するアダム・クーパーのポーズが実に美しいです。こころもち身をよじらせながら、頤をのけぞらせます。不謹慎かもしれませんが、なんとなくエロティックでうっとりしてしまいます。

  また、クーパーが側転しながら、かがんだマリファントの背中の上を横断する動きと姿勢がきれいでした。

  クーパーもまるで女性ダンサーに対するように、マリファントを軽々と高く持ち上げます。力持ちだろうとは思ってたけど、背丈が少し違うだけで、体格はさほど変わらない男性をここまでリフトできることに驚きました。しかももう20分以上が経過しているのに、その間ずっと踊りっぱなしなのに、パワーがほとんど落ちない。

  こうして35分もの間、マリファントとクーパーはくんづほぐれつで絡みっぱなしなのですが、実に健康的で性的な雰囲気はまったく感じません。ただ、踊りに大人の男の色気のようなものが漂っています。健全なセクシーさです。

  クラシック・バレエの振りがいくつかありました。片脚を斜め横に伸ばして回転する、ジャンプして半回転する、片脚を真横より上にふり上げる、またアラベスクなどです。アダム・クーパーの動きはどれもきれいでした。もちろん、彼よりテクニック的に優れているダンサーは星の数ほどいるでしょうが、クーパーの動きには、彼特有の端正さと優雅さとがあります。

  第1部と同じ効果音とパーカッションの重い音が再び流れます。マリファントとクーパーは舞台の中央に立つと、加速するパーカッションの音の中で、第1部で踊った一連の振りをまた繰り返します。やがてパーカッションの音が徐々に低くなっていきます。舞台の真ん中だけにライトが当てられ、マリファントとクーパーはその中に並んで立つと、やがて無表情のまま互いに背を向けて闇の中に去っていきます。

  「Critical Mass」は大体このような作品です。ですが、まだ記憶違いや書き落としがたくさんあると思うので、明日にでもまた書き足すかもしれません。

  カーテン・コールでのマリファントとクーパーは、初日は二人の間にまだ距離があるような感じでした。でも、回を重ねるごとに近しくなっていくようで、昨日の公演のカーテン・コールでは、互いに肩を組んでニコニコと笑いあっていました。安心しました。

  この公演には日本からたくさんのファンの方々がいらしています。終演後、ファンの方々の末尾に勝手に紛れ込ませてもらって、アダム・クーパーのデマチをすることができました。

  今のクーパー君は丸坊主に近い短い髪型です。なぜそんなに短く切ったのか、と聞いたら(←くだらないことを聞いてすみません)、「(手入れが)簡単だから」だそうです。また「時々、髪を短く切りたくなる衝動に駆られることがある」んだそうで、更に「ラッセルが丸坊主だから、僕も丸坊主のほうがちょうどいい」とも。そーだったんかい。

  マリファントの振付とクラシック・バレエの振付との違いについて聞いたら、やはり「ラッセルの振付にはバレエだけでなく、ヨガ、太極拳、○○(←聞き取れず)が融合している」ことを挙げていました。マリファントの振付の踊り方は、バレエの踊り方と具体的にどう違うのかも聞きました。そしたら、「バレエでは一つの動きをする場合、身体の各部の動き方が決まっているけど、ラッセルの振付ではそうではない」と言ってました。

  私が「マリファントさんの振付は静かだけど、実はとてもパワフルだと思う」と言ったら、アダム・クーパーは「そのとおり」と言い、「それはラッセルの人柄そのままで、彼は物静かで内気だけど、本当はとても強靭な人だ」ということでした。

  最後に、なるべく早く日本で会えたらいいですね、と互いに言いました。クーパー君はだいぶん痩せてシャープになった感じでした。顔がいよいよ小さく細長くなっていました。非常に上機嫌で明るく、公私ともに、また心身ともに充実していることがうかがえました。
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