ルグリズブートキャンプ(2)

  「ルグリと輝ける仲間たち」Aプロ(10日)をまた観に行ってきました。今日は追加公演で、少し空席もあるようでしたが、それでも大盛況でした。ちなみにNBSの人に聞いてみたら、11日から始まるBプロは完売状態で、当日券を販売する予定もないそうです。直前キャンセルが出るのを待つしかないそう。すごい人気ですね(嘆)。

  演目はもちろん8日に観たのと同じです。ただ、「舞台は一期一会」とか、「まったく同じ舞台はない」とかいいますが、今日の公演ではほんとにそのとおりだな、と痛感しました。

  彼らが疲れていたのか、それとも私の目が多少なりとも慣れたのか、「白の組曲」では、ダンサーたちの不調が目立ちました。8日にパ・ド・トロワを踊ったアクセル・イボ君は今日は出演せず、グレゴリー・ドミニャック君が出演しました。脳内で比較したら、アクセル君のほうが技術が優れているように思いました。

  アニエス・ルテステュが出てきて踊って、それでエトワール級ダンサーとそうでないダンサーの違いは何か、ということが分かったのは8日と同じでした。技術が非常に安定しているのはもちろん、容姿、体格、そして何よりも手足の動きがしなやかでなめらか、といった点が違います。

  しかし、今日はルテステュもフェッテでミスをしました。4日連続の公演で、さすがに疲れていたのでしょう。

  東京バレエ団のダンサーたちは、今日も整然と踊っていました。この「白の組曲」の振付やダンサーの配置には幾何学的な要素が強いので、彼らのよく揃った動きや常に一定の間隔を保った踊りは、今回の上演をよいものにしたと思います。 

  マニュエル・ルグリ、エレオノーラ・アバニャートによる「扉は必ず・・・」は、最初はゆっくりな動きで踊るのですが、最後で一気に動きが速くなります。踊りが中盤にさしかかったところで、ルグリの白いシャツは汗でびっしょりでした。ここはまだゆっくりな動きで踊っていました。それでも(だからこそ?)非常に体力を使うのでしょう。それでも疲れた様子を見せないのですから、ダンサーとは本当にすごいものです。

  マチルド・フルステー、ステファン・ビュヨンが踊った「スパルタクス」のパ・ド・ドゥでは、例の難しい「逆立ちリフト」は今日もつつがなく成功しました。スパルタクスが逆立ち状態のフリーギアをリフトしたまま舞台を半周するところで、ビュヨンはなんと片足をわずかにではありますが上げてみせました。

  アニエス・ルテステュ、ジョゼ・マルティネスによる「ドリーブ組曲」は、よく見たらちょっとお遊びが入っていました。

  アダージョが終わると、ルテステュがゆっくりと踊りだします。あれ、女性ダンサーのヴァリエーションが先?と思っていると、マルティネスがやって来て「僕の踊る番だよ」という仕草をルテステュにします。ルテステュは「分かったわ」というふうにニヤリと笑って退場します。

  男性ヴァリエーションが終わると、マルティネスはそのまま舞台上にとどまってルテステュを迎え入れ、手を取って少しだけルテステュと踊ると姿を消します。

  「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(ドロテ・ジルベール、マチュー・ガニオ)ですが、衣装を書き忘れたのでメモしておきます。女性は水色のローブ状の膝丈の衣装、男性は水色のシャツにオフホワイト(もしくは水色がかった淡いグレー)のタイツです。

  女性ヴァリエーションで、片脚を後ろに伸ばしたままピョンピョンと後ろに下がっていくところは、もっと音楽に合わせてゆっくりやってもいいように思いました。ジルベールは勢いに任せて(あるいはスピードがコントロールできず)やっている感じでした。

  マチュー・ガニオはとても人気のあるダンサーのようで、彼が何かする(連続ジャンプする、連続回転する)たびに、他のダンサーには送られなかった盛大な拍手が沸きました。回転ジャンプをしながら舞台を一周するところでは、その拍手の大きさはいうまでもありません。でも私は、マチュー・ガニオがそんなに(以下自粛)。

  8日の公演では「悲惨」の一言に尽きた「椿姫」第二幕のパ・ド・ドゥは、今日は劇的なほどに変化を遂げました。

  衣装を先日は書き忘れたので書いておきます。エレオノーラ・アバニャートは胸元が大きく開いて、襟口が大きなフリルで縁取られている白い長いドレスで、髪は垂らしています。バンジャマン・ペッシュは白いシャツ、黒いベスト、黒いタイツです。

  このパ・ド・ドゥの前半で、ペッシュがアバニャートを頭上に持ち上げるリフトが何回かあります。8日と同じく、今日もペッシュがアバニャートを「よっこらせ」となんとか持ち上げているのが分かってしまって、しかもアバニャートが、衣装の白い長いドレスの裾がペッシュの顔にかかって視界を遮らないよう、裾を引っ張っているのが見えてしまって、う~ん、と思いましたが、それでも8日よりはうまくいきました。

  劇的に変わったのは後半の踊りです。ノイマイヤーっぽい、手足を伸ばした女性ダンサーを男性ダンサーがくるくると振り回すリフトが何度もあります。今日の公演でようやく、なるほど、これが本来の振付で、正しく踊られるとこんなに美しくなるのね、と見とれました。ペッシュとアバニャートの息はよく合っていました。

  彼らが踊り終わると、8日には出なかったブラボー・コールが今日は出ました。ペッシュの胸元は真っ赤になっていて、しかもはあはあ、と大きく息を吐いていました。その息を吐く音が客席にまで聞こえてきました。ペッシュはよく頑張ったと思いますが、ペッシュとアバニャートの身長差をもっと考慮してペアを組んだほうがよかったのではないか、と思いました。

  ジョゼ・マルティネスが踊る「三角帽子」は、今日は気のせいかパワー・ダウン気味でした。でもやっぱりそれまでにない盛大な拍手とブラボー・コールが送られました。

  カーテン・コールは面白かったです。マルティネスは幕の間から出てきてお辞儀をすると、いきなりスペイン舞踊風のポーズをビシッ!と決めてから消えました。観客がドッと笑うとともに、更に大きな拍手を送ります。マルティネスはまた出てきました。お辞儀をすると、今度はやや長めに踊りました。即興の振りで踊ったのか、それともソロの一部だったのかは分かりません。観客はもうMAXに盛り上がりました。

  3回目のカーテン・コールに現れたマルティネスは、去り際にまたもやスペイン舞踊風のポーズを決めました。彼はウケるタイミングを捉えるのに長けているようで、聞いたこともないような激大音量の拍手が送られました。エンタテイメント性にも恵まれているダンサーのようです。

  でも、せっかくファンが気を利かせて送った赤いバラの花を、また客席に投げ返したのは感心できません。バラを送ったファンの人がかわいそうじゃないですか。

  劇的な変化を遂げていたのは「椿姫」ばかりではありません。なんと最後の「オネーギン」より別れのパ・ド・ドゥ(マニュエル・ルグリ、モニク・ルディエール)も8日とはぜんぜん違いました。

  ルグリとルディエールは、振りと振りの切れ目が分からないくらい、きれいにリンクして踊っていました。流れる水のように美しかったです。オネーギンがタチヤーナを空中に放り投げて、落ちてくるタチヤーナの両脇の下に、伸ばした両腕だけを差し込んでキャッチする振りがあります。8日は今ひとつでしたが、今日は実にきれいに決まりました。

  あと更によくなっていたのがルグリとルディエールの演技です。思うに、客席に踊りや演技の出来具合をチェックする人がいて、よくないところは直させているのではないでしょうか。それとも、何回も踊っているうちに、ふたりとも演技が違ってきたのでしょうか。

  ルディエールの演技で、タチヤーナはまだオネーギンを愛しているのだ、とはっきりと分かります。それでも、すでに人の妻になった彼女は、オネーギンを拒まなくてはなりません。相反する二つの感情の間を行きかうタチヤーナの苦悩がよく伝わってきました。ルグリよりもルディエールのほうにどうしても目が吸い寄せられてしまいました。

  最後、オネーギンが立ち去った後のタチヤーナは、苦しげな表情を浮かべながら、それでも強く拳を握った両腕をぐっと下に伸ばします。辛いけれども、これでいいのだ、と自分に納得させようとするタチヤーナに、見ている私も切ない思いになりました。

  Bプロの演目にも「オネーギン」が入っているので、この次に観るときにはまたどんなに変わっているのだろう、ととても楽しみです。

  全体のカーテン・コールではなぜか「威風堂々」が最初に流れます。いつもこうなのでしょうか?カーテン・コールがより盛り上がるのでいいとは思いますが。

  Aプロの最終日のせいか、カーテン・コールの最後で会場総立ちのスタンディング・オベーションになりました。でも本当は、前に座っている人たちが立つので、後ろに座っている人たちは舞台上に立つダンサーたちの姿が見えず、それでやむを得ず自分たちも立っているようです。「見えないよ」という声が聞こえました。

  私はお祭り騒ぎが好きなので、たとえスタンディング・オベーションするほどの舞台ではない、と心の中で感じていても、みんなが立てば自分も立つようにしています。でも今日は疲れていたので立ちませんでした。   
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