▼伏魔殿=悪事・陰謀などが影で絶えずたくらまれている所。悪魔の隠れている殿堂。(広辞苑)だそうだ。豊洲移転問題での第一幕が、設計当初盛土となっていたのが盛土がされないで、地下部分が空間になっていたという、なんとも不思議な事件だ。当時の知事、石原氏の談話では、当時の市場長から空間の問題を聞かされたというが、当時の市場長は、知事から「空間にしたほうが工事費は安く、工期も早いのでは」ということをいわれたという。検討した結果、それはできませんと知事に報告したという。検討した結果を工場長からいわれ、そのことを持って、下からこの問題が提起された如くマスコミに語っているのは、小説家の知事とは思われぬ、稚拙なストーリー展開だ。だが高名な小説家である石原氏、豊洲問題は東京都という伏魔殿の仕業だと、ストーリーの書き換えを行うようだ。
▼知事当時マスコミに向かい、空間問題について、工事が安くて早い発言をしているのがテレビで流れている。その時は、技術委員会で既に盛土を決定していた時期だ。だが、その会見は、技術委員会の決定を無視するとするような発言ではないので、技術委員会も盛土のまま工事が進められると思っていたようだ。だが結果は空間のままだった。どこでヒックリ返ったのか、ここが第一幕の最大の山場だ。日付がはっきりしていないが、知事に空間工事はできないと言った市場長が、その頃に交代し、新たな人物になっている。その人物、マスコミの取材に、今はなにも言えないと逃げている。石原氏のようなワンマンは、人事も口出しするだろう。
▼新しくなった市場長を呼びつけ、設計が変更になったので、盛土をやめ空間にしておくようにといえば、普通の人間なら知事のいうなりに仕事を遂行してしまうだろう。もし私の推測があたっているなら、伏魔殿の本部は知事室なのだ。呼び付けられる部下は、人事移動という金縛りに、自分の意志など無にしてしまうのだろう。石原知事は、週に1度か2度の登庁で有名だ。その他は自宅で、「小説・東京伏魔殿」を、書いては直していたに違いない。市場長の交代劇は、松本清張の小説「点と線」の東京駅の場面を彷彿する、名場面なのだろう。
▼問題の新たな展開は、交代した市場長が知事の指示で動いたのか、はたまた知らないまま設計図をみて、空間になっていたのでそのように処理してしまったのかという点にある。だが、担当職員まで全部入れ替えしたわけではないだろう。工事進捗過程で、盛土が空間になっていく様を、多くの担当職員は知っていたはずだ。悪いとわかっていながら、是正できない体質が都庁にははびこっているのだ。職員で知事を恐れるのは、知事に直接会える大幹部だけだ。では、職員が一番恐れるのは誰か。当時ドンと言われた、内田幹事長率いる自民党都議団だ。
▼東京都は日本最大の地方自治体だ。北海道一面積の小さかった私の村も、同じ地方自治体だ。長い間、議員が行政を牛耳っていた姿を目の当たりにしている。民主主義の序列から言うと「住民←議員←行政」なのだろうが、地方自治体というのは「議会→行政→住民」という序列で構成されていたというのが、地方自治の実態だ。そこには「しかたがない」という諦念が蔓延し、どこの自治体も大なり小なりの伏魔殿が形成されているのだ。
▼現在、富山市議会が政務調査費問題で、壊滅状態になっている。県議会での辞職も出てきた。富山県は自民党王国と言われる。現在、オリンピック委員長の森喜朗元総理の出身地でもある。富山県民から聞いているが、森氏の金銭感覚には驚くものがある。「国会議員→県会議員→市町村議員」。金銭感覚が麻痺したお国柄なのかもしれない。「富山の恥さらし」という声も聞こえるが、私が大好きな「鱒寿司」の味は変わらないでいてほしいと思う。
▼豊洲問題は、単に東京都だけの問題ではない。他の地方自治体が抱えている病巣でもある。東京伏魔殿にメスを入れるのは「ドクターK」と私が名付ける、小池知事だ。リオ、パラリンピックのお土産に、どんな病巣も除去可能な「金のメス」を購入してきてもらいたいものである。「天才・田中角栄」に継ぐ、石原慎太老著「東京伏魔殿」、そろそろ第2幕の展開に入っているが、石原氏は既に書き終えたものを、書き変えに専念しているのかもしれない。
▼裕次郎のお兄さん、昔は弟よりかっこよかった時代もあったのだ。最期は「♪粋な別れ」で、締めくくってほしいものですね。