元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「わたしは最悪。」

2022-08-13 06:10:38 | 映画の感想(わ行)
 (原題:VERDENS VERSTE MENNESKE )主人公にまったく感情移入できない。かといって、周りのキャラクターに共感できる者がいるわけでもない。要するに、観ている側にとっては“関係のない映画”である。とはいえ、主要アワードの候補になっており、本作に何らかの普遍性を見出す観客もいるのだろう。映画というのは、受け取る側によって評価が違ってくるものだ。

 ノルウェーのオスロに住む30歳のユリヤは、いまだに人生の方向性を定めることが出来ない。もとより学力はある方だったので医学部に進学してはみるものの、合わないことが分かって早々にドロップアウト。以後も職を転々とするが、今は書店の従業員として糊口を凌いでいる。年上の恋人アクセルはグラフィックノベル作家として成功し、彼女に結婚を打診してくるが、ユリアは踏み切れない。ある日、赤の他人のパーティに紛れ込んだ彼女は、そこで若く魅力的なアイヴィンに出会い、恋に落ちる。



 30歳になっても根無し草のような生活を送るヒロインを描いた映画としてまず思い出されるのはパトリシア・ロゼマ監督の快作「私は人魚の歌を聞いた」(87年)であるが、本作はそれに遠く及ばない。「私は人魚の~」の主人公は実生活こそ冴えないが、内面は宝石のように美しい。また、それを表現するだけの卓越した映像処理も完備していた。

 対してこの映画のユリヤは、単なる“だらしのない女”にしか見えない。行き当たりばったりに生き、同世代の女たちからは人生のスキルにおいて、おそらく大差を付けられている。それでいて“アタシはまだ本気出していないだけっ!”みたいな中二病的スタンスも匂わせ、観ていて苦笑するしかない。

 それでも大向こうを唸らせるような突出した映像表現があるのならば話は別だが、せいぜい“ユリヤの視点では時間が停止した”という底の浅いギミックが提示される程度で、あとは何もない。アクセルもアイヴィンも、そしてユリヤの母も、魅力ある人物として描かれていない。ヨアキム・トリアーの演出は平板で、作劇は盛り上がりに欠ける。

 主演のレナーテ・レインスベは頑張っているとは思うが、キャラクター設定が斯くの如しなので求心力は希薄。アンデルシュ・ダニエルセン・リーやハーバート・ノードラムといった他のキャストもパッとしない。ただひとつ良かったと思ったのは、オスロの街の風景だ。坂の多い港町で、歴史ある建物の間を市電が走る。一度は住んでみたいと思わせる風情がある。
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「任侠学園」

2022-08-12 06:52:59 | 映画の感想(な行)

 2019年作品。いかにもお手軽な映画で、マジメに対峙するとバカを見るが(笑)、割り切って楽しむのにはちょうど良い。単純すぎる筋書きは、濃いキャスティングがある程度カバーしてくれる。小ネタを入れすぎの感はあるものの、この程度ならば“愛嬌”で済ませられるだろう。

 東京の下町を根城に活動する昔気質のヤクザの阿岐本組は、構成員6人の弱小勢力ではあるが、社会奉仕をモットーに地元密着型の組織を目指していた。上部組織の高木組組長の葬儀の際、親分の阿岐本雄蔵は兄弟分の永神組組長から、経営不振の高校の運営を押し付けられてしまう。若頭の日村ら組員は嫌々ながらも学校に足を運んでみるが、そこに待ち受けていたのは、やる気の無い生徒たちと仕事に身が入らない教師たちだった。

 しかも、最近では夜中に校内の窓ガラスが割られるなど、不祥事も目立っている。それでも何とか学校の雰囲気を変えようと奮闘する日村たちだったが、どうやら高校の立地に関する利権で“その筋”の連中が暗躍していることが分かってくる。今野敏の人気小説「任侠」シリーズの映画化だ。

 今どき、義理と人情を重んじる昔ながらのヤクザなどまず存在しないだろうし、そんな彼らが学校の経営を任されるというのも絵空事だ。舞台になる高校は規模が大きそうなのだが、なぜか阿岐本組に対応する教師は校長以下数人だけだし、生徒たちも10人程度しか顔を出さない。敵対する組織は半グレ主体のチンピラ集団だし、裏で進行する陰謀とやらも大したことはない。

 斯様に作劇が安普請の建付けながらも、何とか最後まで観ていられたのは、作品のカラーが明るく余計な重さが無いからだ。話は都合よく展開して組員と学校側は上手くやっていくし、生徒たちの屈託も深刻なものではない。そして西田敏行に西島秀俊、伊藤淳史、池田鉄洋、光石研、中尾彬、生瀬勝久、高木ブー(ワンポイントのお笑い担当)といった場違いとも思える手堅いキャストがドラマを支えてくれる。

 木村ひさしの演出は細かいギャグを詰め込もうとして進行が滞る傾向はあるが、概ね納得できる仕事ぶりだ。ヒロイン役の葵わかなは悪くないが、朝ドラの主演を務めたキャリアもありながら、映画ではあまり仕事が回ってこないのは残念である。東京スカパラダイスオーケストラによる主題歌は及第点。
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