元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「しあわせのかおり」

2008-10-27 06:54:56 | 映画の感想(さ行)

 後半での失速が惜しい。病に倒れた中華料理屋の主人の味を“私が受け継ぎたい!”とばかりに奮闘するシングルマザーを描く本作、こういうハートウォーミングな話を得意とする三原光尋の演出は、前半部分は冴えている。

 まず、この店で出される中華定食が実に美味しそうだ。最初は勤め先のデパートに出店させようと掛け合うが、いつもけんもほろろに追い返されていたヒロインが、意地になって雨の日も風の日も通い詰めるようになる。ところが彼女の熱意に負けるものかと店主は毎日手を変え品を変えてメニューを編み出してくる。気合と気合とがぶつかり合っている間に、約800円の中華ランチは洗練の度合いを高めてゆく、そのプロセスがケッ作だ。

 そして晴れて店主の弟子となった彼女の修行風景が興味深い。おそらくは入念なリサーチと下ごしらえの賜物であろうが、中華料理屋のオヤジと慣れない新入りとの掛け合いを何の違和感もなく見せきっている。もちろん、彼女が仕事を辞めてまで料理を志した理由もちゃんと説明されており、彼女の娘をケアするソーシャル・ワーカーや、彼女に岡惚れしてしまう若造など、周囲の人物配置もぬかりがない。

 ただし、中盤以降に舞台が店主の故郷の紹興に移ると、途端に映画の動きが停滞してしまう。確かに、店主の心理的・文化的バックグラウンドを示すための一つの方法ではあったろうが、ここから何やら月並みな“日中友好PRドラマ”みたいな雰囲気になってきて、観ている側としてはタメ息をつきたくなる。

 この凡庸さは終盤に再び舞台が日本に戻ってからも尾を引いており、クライマックスであるはずの会食の場面がほとんど盛り上がらない。前半あれだけ美味しそうだった料理の数々が、殺風景なセットとも相まってまったく食欲をそそらなくなっている。これでは高いばかりでちっとも旨くない福岡市内にある某お座敷中華料理屋の宴会メニューと一緒ではないか(爆)。登場人物がやたら“美味しい! 素晴らしい!”と声を上げるのも白々しく感じてしまう。要するに中国側にヘンに遠慮した結果、リズムが崩れてしまったのだろう。師匠と弟子との二人三脚で料理を手掛けるシーンもほとんど感動できなくなってしまった。

 中谷美紀と藤竜也が好演だっただけに、残念な結果になった。それとロケ地は金沢だが、あの街の魅力がほとんど出ていない。紹興の絵葉書みたいな美しい風景に完全に負けている。もうちょっと工夫して欲しかったところだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 最近購入したCD(その16)。 | トップ | 「おっぱいとお月さま」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(さ行)」カテゴリの最新記事