元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「祝祭」

2007-07-12 06:42:52 | 映画の感想(さ行)
 96年韓国作品。ソウル在住の人気作家イ・ジュンソプ(アン・ソンギ)は、田舎の母が危篤との連絡を受け、妻と娘を連れて帰郷する。その夜、母は死去。3日間にわたる葬儀の進行役をつとめることになる。韓国版「お葬式」ともいえる題材を取り上げたのは「風の丘を越えて」「春香伝」などでお馴染みのイム・グォンテグ監督。

 何より面白かったのが韓国の葬式(儒教スタイル)の段取りが綿密に描かれていること。3日3晩、村をあげての飲めや歌えの大騒ぎで、中にはバクチを始める連中もいる(しかも、バクチでスッた金はすべて喪主が面倒を見るという!)。遺族は白装束に身をつつみ“親を亡くした者は天を見上げて歩けない親不孝者”ということで極端に短い杖をついて葬列に加わる。何から何まで珍しく、(韓国では火葬ではなく土葬だという事実ぐらいは知っていたが)隣の国なのにこれほど違うとはちょっとしたショックを受けた。

 もちろん、こんな民俗学的な興味だけに終始している作品ではない。母は5年間も痴呆状態で、面倒を見ていた義姉の家庭の負担になっていることを知りつつ、都会で製作活動に没頭していた主人公の忸怩たる思いと、周囲の反感。長兄の不義の子で、家族に冷遇されていた姪のヨンスン(オ・ジョンヘ)と彼女を唯一可愛がっていた亡き母との切ない思い出など、参列者の人間関係をシビアに、あるいは人情豊かに捉えるイム監督の手腕が冴える映画である。葬儀の様子と過去の出来事を平行して描き、名も無き市井の人々の、一見平凡な暮らしの中の少なからぬドラマ性が、葬式というイベントによって浮き彫りにされるプロセスを丁寧に追う。

 さらに面白いのは、主人公が初めて手掛ける絵本----それは老母と孫との関係をメルヘンチックな童話にしたもの----を映像化したエピソードが随所に挿入されることだ。ここに葬式を題材としているにもかかわらず「祝祭」という場違いなタイトルをつけた作者の意図が見える。“人間が老いるのは皆に知恵と年齢を分け与えていった結果であり、最後には身体は消滅するが、誰かに転生する”との思想を元に、葬式は転生に向けての“祝祭”であるという考え方が無理なく観客に伝わってくる。

才気走った伊丹十三「お葬式」とはアプローチは違うが、これもなかなかの秀作だと思う。撮影・音楽とも良好で、キャストも頑張っているが、特に蓮っ葉でケバい感じのオ・ジョンヘが「風の丘を越えて」と違った魅力を見せている(実はこれが地だったりしてね ^^;)。

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