元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミナリ」

2021-04-03 06:26:03 | 映画の感想(ま行)
 (原題:MINARI)少しも面白くない。例えて言えば、凡庸な連続テレビドラマを見せられた挙句に途中で打ち切られたような按配だ。驚くべきは、この程度の映画が高評価を得ており、アカデミー賞の有力候補にまで昇り詰めているという事実である。いつからアメリカ映画界は斯様に評価基準が低下したのかと、まさに呆れるばかりだ。

 80年代のアメリカ南部。韓国系移民のジェイコブとその一家は、アーカンソー州の高原に入植する。彼らは以前都市圏に住んでいたが、農業で一発当てようとこの土地にやってきたのだ。しかし、そこに待っていたのは荒れた土地と古びたトレーラーハウス、隣家に行くのに延々と車を走らせなければならない不自由な環境だった。

 妻モニカは不安を抱き、幼い息子のデビッドは心臓を患っていることもあって、本国から母のスンジャを呼び寄せる。ところが彼女は生活態度がよろしくなく、たちまちデビッドとの仲は険悪になる。そんな中、畑の水源が枯れてしまい、取引先との折衝も上手くいかなくなったジェイコブは窮地に追い込まれる。

 まず困ったのは、感情移入できるキャラクターがいないことだ。ジェイコブには確固としたヴィジョンも無く、ただ“韓国製野菜を作れば売れはずだ”という当てのない目論見だけで動いている。もちろん、農業に対する愛着も感じられない。モニカは口うるさく、ジェイコブの仕事を手伝おうとはしない。デビッドと長女アンは愛嬌が無く、スンジャに至っては、とことん下品で不快感を覚えた。

 ジェイコブの協働者である謎の男ポールの造型は、ただ奇を衒っただけだ。だいたい、子供2人を学校にも通わせられない地理的状況や、この痩せた土地を以前買った者は自滅しているという事実があっては、とてもジェイコブの一家に同情は出来ない。まさに自業自得だ。

 映画は起伏も無く進み、突然打ち切られる。スンジャが韓国から持ってきたセリ(韓国語でミナリ)の種が、一家にどのような影響を与えたのかも説明しない。脚本も担当したリー・アイザック・チョンの演出は少しも粘りが無く、ドラマはさっぱり盛り上がらない。

 アメリカへの移民を扱った映画は、マイケル・チミノ監督の「天国の門」(80年)やピーター・ウィアー監督の「グリーン・カード」(90年)、アラン・パーカー監督の「愛と哀しみの旅路」(90年)など、過去にも少なからず存在するが、本作がそれらと比べて優れている点は見出せない。スティーブン・ユァンにハン・イェリ、ユン・ヨジョン、ウィル・パットンといったキャストはパッとせず、アメリカ南部の風景は平面的でちっとも美しくない。観る必要のない映画だった。

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