元・副会長のCinema Days

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「序の舞」

2020-03-08 06:30:33 | 映画の感想(さ行)
 84年作品。1964年にデビューして以来、多くの作品を手掛けた中島貞夫監督の80年代以降の代表作の一つだ。女性キャラクターの造型とその内面描写、骨太なドラマ運び、見事な美術意匠と時代考証など、まさに横綱相撲と言って良いほどの安定感を見せる。2時間半近い上映時間の中、弛緩した部分はまるで見当たらない。

 安政5年、洛北・大宮村の貧しい農家の娘であった勢以は、京都の葉茶屋に養女に出され、やがて結婚して2人の娘をもうけるが、夫に先立たれてしまう。それから彼女は娘たちを女手ひとつで育てるが、長女の津也は絵画に興味を持つようになる。京でも有数の松溪画塾へ通うことになった津也は、明治23年、第三回内国観業博覧会に出品した「四季美人図」により大賞を獲得する。



 一躍有名になった彼女は松溪塾に入塾した村上徳二という青年に惹かれるものの、師匠の松溪の誘いを断れずに妊娠してしまう。それに気付いた勢以は、娘を激しく責めて絵を禁じた。津也は松溪のもとを離れて徳二と一緒の生活を送るが、絵への想いは捨てきれなかった。女流日本画の先駆者である上村松園をモデルにした、宮尾登美子の同名小説の映画化だ。

 とにかく、各登場人物が深く掘り下げられていることに感心する。特に目立つのはヒロインの津也の生母である勢以だ。幼少の頃からの足跡をじっくり追い、なおかつ京都の雰囲気の中からタフな気質を培ってゆく過程がうまく描出されている。その勝ち気さは娘の津也にも受け継がれ、中盤以降の母娘の葛藤の大きな背景となる。何より、津也の2度目の妊娠の時にはもはや世間体など気にすることなく、自分たちの手で育てようと決心するあたりは印象的。この時代の、しかも京都という土地柄で決断するという思い切った展開は観る者の琴線に触れる。

 力強い女たちに対して、男性陣は津也の最初の先生になる西内にしろ徳二にしろ、何だか頼りない。ただし松渓の造型だけは、マイナスのオーラを伴って映画の中では大きなアクセントとなる。弟子に平気で手を出すロクデナシながら、逆に津也たちのバイタリティを強調する媒体になっており、これはキャラクター配置の妙であろう。

 勢以役の岡田茉莉子、松渓に扮する佐藤慶、いずれも好演。佐藤のクセ者ぶりもさることながら、岡田が演じる勢以は江戸時代生まれの古風な女であるが、新しい時代に適応する明るさを上手く表現している。津也役の名取裕子はこれが映画初主演だったが、個性的な風貌を活かした熱演で強い印象を残す。風間杜夫に水沢アキ、三田村邦彦、成田三樹夫、高峰三枝子といった他のキャストも良い仕事をしている。津也の清新な絵と老いた松渓とを対比させる絶妙の幕切れも含めて、中島監督の円熟味を堪能出来るシャシンだ。森田富士郎の撮影、黛敏郎の音楽、井川徳道と佐野義和の美術、いずれも申し分ない。

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