元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「虹の兵士たち」

2009-10-01 06:27:58 | 映画の感想(な行)

 (原題:Laskar Pelangi)アジアフォーカス福岡国際映画祭2009出品作品。誰にでも奨められる感動作だ。1974年、インドネシアの小さな離島にあるイスラム系小学校が設立される。島には錫鉱山があり、そこの従業員の子供は会社付属の学校に入れるが、地元の貧しい日雇い労働者の子には勉強の機会がない。そんな状況を何とかしたいと、反骨精神溢れる校長は若い教師2人と学校を立ち上げるが、生徒は教育委員会から指定された存続に必要な最低数の10人しかいない。だが、熱心な指導の甲斐があって彼らはたくましく育っていく。

 インドネシア版の「二十四の瞳」とも言える内容だが、とにかくキャラクター設定の見事さに感心する。原作者の子供時代の投影である主人公は、お調子者だが気が良くて何よりも皆のことを思い遣る。彼の親友で貧しい漁師の息子は驚くべき秀才だが、家庭の事情で通学を続けられるのかどうか悩んでいる。他にもスノッブな芸術家肌の野郎や、ヘンな空想癖のある女の子、知恵遅れだが級友達と何とか上手くやっていこうとする男子生徒など、誰も彼もが個性を屹立させている。

 教師陣も同様で、度重なる逆境にもめげず学校を存続させていこうという熱い想いが画面を横溢する。彼らにあるのは夢と希望だけ。少々の障害など理想成就の道程での“単なるスパイス”ぐらいにしか思わない。たとえ彼ら自身が夢を達成できなくても、その想いは次の世代に引き継がれる。極端な少人数学級である故か、落ちこぼれる生徒なんか一人もいない。それどころか学校対抗クイズ大会では有名校相手に大奮闘する。

 当時はインドネシアそのものが経済発展の黎明期であり、誰もがより良い明日を信じていた。頑張れば何とかなる、努力すれば道は開けるという構図が当然のごとく存在していた時代。翻って現在は地道な努力が認められない時代である。発展途上国はもちろん日本のような先進国でも、社会的ヒエラルキーの固定化が顕著になり、閉塞感が増している。

 しかし、その状況をもって“努力は無駄だ”というネガティヴな認識の正当化には繋がらない。明日が見えないからこそ、自己研鑽が必要なのだ。本作の登場人物達の生き方を見ていると、そのことが身に染みてくる。それと同時に、若い世代が夢を持てる社会になって欲しいと心から思う。

 新鋭監督リリ・リザの手腕は何の衒いもない正攻法なものだ。これならばどんな題材の映画でもモノに出来るだろう。天国的に美しい島の風景。音楽も万全で、特に時折挿入される楽曲の歌詞には泣かされる。本国での大ヒットも頷けるヴォルテージの高さであり、是非とも一般公開を望みたい。

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