元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「TATTOO<刺青>あり」

2009-09-05 06:52:45 | 映画の感想(英数)
 82年作品。昭和54年に大阪の三菱銀行支店で起こった猟銃強盗・人質事件の犯人のプロフィールを下敷きにした作品で、メガホンを取ったのは当時ピンク映画の巨匠と言われた高橋伴明。これが一般映画でのデビューとなり、作品自体もキネマ旬報誌のベストテンに入る等、評論家筋から高い評価を受けている。

 主人公の竹田明夫は四国の田舎町に生まれ育ち、15歳のときに遊ぶ金ほしさに強盗殺人事件を起こし、少年院で数年過ごした。20歳に大阪に出てきて場末の飲み屋のバーテンダーとして働き始めるが、しがない毎日を送る甲斐性しかないくせに、30歳になるまでにドデカイことをやったろうと勝手に思い込んでいた。ところが同棲していたホステスをヤクザに寝取られたのが、彼がすでに31歳のとき、鬱屈した思いを爆発させて凶行に走る・・・・という筋書きだ。

 本作は肝心の強盗に入った銀行での狼藉ぶりを映してはいない。ライフルを片手に銀行に押し入る場面で片付けている。大事なのは、事件そのものではなくて犯人像だと言いたいらしい。ところが映画は明夫の内面にほとんど入っていかない。チンピラのような所業を見せるかと思えば、母親には優しく接する。敵役であるはずのヤクザにはまったく頭が上がらない。要するに軽くて気の小さい男なのだ。

 しかし、彼がどうして最後に大それた事をやったのか、その背景がまったく見えてこない。少しは悩んだりとか心の中の葛藤があったとか、そういうのが存在したはずだが、映画では描かれない。かといって対象を完全に突き放して即物的な効果を狙っているのかというと、それも違う。登場人物たちの日常は丁寧に描かれる。ところがそれが物語の求心力とほとんど絡んでこない。これは作者のストーリー作りの設定が上手くいっていないことを意味している。

 明夫を演じる宇崎竜童は実によく頑張っていて、彼の持つ可笑し味のあるキャラクターもよく出ている(ただし、役柄とあまりリンクしていないのが辛いところだが ^^;)。相手役の関根恵子も何を考えているのか分からない女を上手く演じていた。堂々たる脱ぎっぷりも見どころの一つだ。

 なお、この作品がきっかけになり、関根と高橋監督は結婚。彼女は撮影中に本当に宇崎に気のあるところを出していたらしく、その“結末”としては実に面白い幕切れであったとは思うのだが・・・・(^^;)。

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