元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アメリカン・スナイパー」

2015-03-21 06:43:34 | 映画の感想(あ行)
 (原題:American Sniper )いかにもクリント・イーストウッド監督らしい、生ぬるい映画である。体裁を整えてはいるが、中身は薄い。何より、同じようなネタを扱ったキャスリン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー」(2008年)がオスカー受賞などの結果を残した後に、どうして証文の出し遅れみたいな内容の映画を撮ったのか、理解に苦しむところだ。

 テキサス州で生まれ育ったクリス・カイルは、98年にアメリカ大使館爆破事件をテレビで見て愛国心を刺激され、海軍に志願。特殊部隊ネイビー・シールズの一員となり、私生活では結婚して充実した日々を送っていたはずの彼であったが、2003年にイラク戦争が勃発して戦地へと派遣される。

 カイルは狙撃兵として大きな戦果を挙げ、軍内では“レジェンド”と呼ばれるまでになるが、元オリンピック射撃選手の敵スナイパーとのバトルや、相次ぐ戦友の死によって次第に神経をすり減らしてゆく。そして、戦地から帰国するたびに家族との溝は広がっていくのであった。カイル自身によるベストセラー自伝の映画化である。

 とにかく話にキレもコクも無く、漫然と進んでいくだけであるのには呆れた。主人公が戦地で負った大きな屈託も、妻との確執も、除隊してからの虚脱感も、何も描かれていない。カイルの心は戦争でかなり傷ついたように説明されるが、それが傷痍軍人たちと知り合うようになってからコロッと回復するに至っては、あまりの単純さに脱力するしかない。

 要するに、ただ“こうなりました”という筋書きを紹介しているに過ぎないのだ。「ハート・ロッカー」での主人公のヒリヒリとした神経症的な描写には遠く及ばず、いったい何のための映画化だろう。ならば戦場における活劇的な興趣はあるかというと、それもない。他のアクション派の監督が担当した方がよっぽどマシだった。

 あまり芳しくない監督としてのイーストウッドの仕事において、過去に唯一見応えがあったのが「硫黄島二部作」だが、同じ戦争物で本作とこうも差が付いた理由は、作者にとって中東紛争はまだ“歴史”になっていなかったことが考えられる。現在進行形の事物を前にしては達観したようなことは述べられず、かといって題材をミクロ的に突き詰めるほどの力量もない。結果として極めて及び腰な、要領を得ない出来に終わってしまったということだろう。取って付けたような、気勢のあがらないラストシーンがそれを暗示していた。

 本作の撮影のために体重を18キロも増やした主演のブラッドリー・クーパーをはじめシエナ・ミラー、ルーク・グライムス、カイル・ガルナーといった各キャストの演技は悪くはないとは思うが、映画の出来がこの程度なのでほとんど印象に残らない。

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