ローリング・ストーンズのディスクを買ったのは何十年ぶりだろうか。ロック史に大いなる足跡を残したバンドではあるのだが、ここ18年間はオリジナル曲によるスタジオ録音の新譜もリリースせず、完全に“過去のグループ”と見做されても仕方がない存在だった。しかも、チャーリー・ワッツが鬼籍に入り、いよいよキャリアが終焉を迎えるのだと思い込んでいた。ところが、今回久々にニューアルバム「ハックニー・ダイアモンズ」発表し、健在ぶりを見せつけてくれたのには驚くしかない。
しかも、内容がすこぶるアグレッシヴだ。別段、新しいことをやっているわけではない。だが、全体に漲る明朗さと前向きな勢いには聴き手を引き込むパワーがある。これはプロデューサーのアンドリュー・ワットの手腕によるところが大きいのだろう。彼はオジー・オズボーンやエルトン・ジョン、イギー・ポップなどのベテランと組んで実績を挙げてきた人材だが、ジャスティン・ビーバーやポスト・マローンら若手のミュージシャンを手掛けて長所を引き出したことでも知られる。そのためか、サウンドの一つ一つに張りがあり、老成した部分などまるで感じられない。
また、ゲストも豪華だ。ポール・マッカートニーにエルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダーとレディー・ガガ、そしてビル・ワイマンまで“カムバック”し、さらにはC・ワッツの生前の音源まである。とにかく、シングルカットされた「アングリー」に始まってバンド名の由来となったマディ・ウォーターズのナンバー「ローリング・ストーン・ブルース」まで存分に楽しませてくれるこの一枚。ロックファンなら必携盤と言って良いのかもしれない。
テイラー・スウィフトの初期の音源が本人の同意なしに投資ファンドに売却されていたことが2020年に明らかになり、彼女は過去の楽曲をすべて再レコーディングするハメになったことは巷間に伝わっているが、そのどれもがヒットチャート上位にランクインしているのだから恐れ入る。その第四弾「1989」は、最も期待していたディスクだ。2014発表のオリジナル版はあまりの出来の良さに舌を巻いたものだが、今回の“テイラーズ・ヴァージョン”では、さらなるグレードアップが認められる。
とにかく、音の“数”が多い。そして音像が分厚い。まるで再生オーディオ機器のクォリティがアップしたかのような手応えを感じさせる。聴き手によってはオリジナルのストレートなタッチが好まれるのかもしれないが、多くのリスナーはこの新録のゴージャスさを選ぶのではないだろうか。おまけに、未発表のナンバーが5曲も追加されている。結果として総演奏時間78分という、お買い得感満載の一品に仕上がった(笑)。
彼女は現時点で再録プロジェクト残りの2枚となるファースト・アルバムの「テイラー・スウィフト」及び「レピュテーション」に取り組んでいるとのことだが、これらもかなりのセールスを記録するのだろう。自身の楽曲の権利を失うという深刻なトラブルに見舞われながら、それを逆手にとって新たなマーケティングを打ち出している彼女のしたたかさには感服するばかり。当分は快進撃が続きそうだ。
ベルリン・フィルの首席フルート奏者として知られるエマニュエル・パユは、ソロのプレーヤーとしてもトップクラスだ。一時期は自身の個人的な活動が忙しく、楽団を離れていたほどである(現在は復帰 ^^;)。そんな彼がフルートソナタの新録の題材として選んだのが、シューマン夫妻およびメンデルスゾーン姉弟による作品群。アルバムタイトルは「ロマンス」で、ピアノ伴奏はフランスの名手エリック・ル・サージュ。2022年秋にベルギーのナミュール・コンサートホールで吹き込まれている。
曲目はロベルト・シューマンの「3つのロマンス(作品94)」にクララ・シューマン「3つのロマンス(作品22)」、ファニー・メンデルスゾーンの歌曲集(フルート版)にフェリックス・メンデルスゾーンの「ソナタ ヘ長調」など。ハッキリ言って、馴染みの無い曲ばかりだ(苦笑)。特にクララ・シューマンの名は知ってはいたが、メンデルスゾーンにファニーという姉がいて、作曲家として活動していたというのは、恥ずかしながら初耳である。だが、どれも肌触りが良くしみじみと聴かせる。
パユとル・サージュのコンビネーションは万全で、これら比較的マイナーな曲目を有名なナンバーであるかのごとく仕上げている。特筆すべきは録音で、マイクは楽器に寄っており(ホールトーンは控え目の)直接音主体の展開だが、生々しく音像が前に出てくる。まるでフルートが奏でる旋律を、最前列から身を乗り出して聴いているようだ。エコーを効かせたサウンドデザインも良いが、こういうモニター系(?)の組み立て方も悪くない。久々に室内楽のコンサートに足を運びたくなった。
しかも、内容がすこぶるアグレッシヴだ。別段、新しいことをやっているわけではない。だが、全体に漲る明朗さと前向きな勢いには聴き手を引き込むパワーがある。これはプロデューサーのアンドリュー・ワットの手腕によるところが大きいのだろう。彼はオジー・オズボーンやエルトン・ジョン、イギー・ポップなどのベテランと組んで実績を挙げてきた人材だが、ジャスティン・ビーバーやポスト・マローンら若手のミュージシャンを手掛けて長所を引き出したことでも知られる。そのためか、サウンドの一つ一つに張りがあり、老成した部分などまるで感じられない。
また、ゲストも豪華だ。ポール・マッカートニーにエルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダーとレディー・ガガ、そしてビル・ワイマンまで“カムバック”し、さらにはC・ワッツの生前の音源まである。とにかく、シングルカットされた「アングリー」に始まってバンド名の由来となったマディ・ウォーターズのナンバー「ローリング・ストーン・ブルース」まで存分に楽しませてくれるこの一枚。ロックファンなら必携盤と言って良いのかもしれない。
テイラー・スウィフトの初期の音源が本人の同意なしに投資ファンドに売却されていたことが2020年に明らかになり、彼女は過去の楽曲をすべて再レコーディングするハメになったことは巷間に伝わっているが、そのどれもがヒットチャート上位にランクインしているのだから恐れ入る。その第四弾「1989」は、最も期待していたディスクだ。2014発表のオリジナル版はあまりの出来の良さに舌を巻いたものだが、今回の“テイラーズ・ヴァージョン”では、さらなるグレードアップが認められる。
とにかく、音の“数”が多い。そして音像が分厚い。まるで再生オーディオ機器のクォリティがアップしたかのような手応えを感じさせる。聴き手によってはオリジナルのストレートなタッチが好まれるのかもしれないが、多くのリスナーはこの新録のゴージャスさを選ぶのではないだろうか。おまけに、未発表のナンバーが5曲も追加されている。結果として総演奏時間78分という、お買い得感満載の一品に仕上がった(笑)。
彼女は現時点で再録プロジェクト残りの2枚となるファースト・アルバムの「テイラー・スウィフト」及び「レピュテーション」に取り組んでいるとのことだが、これらもかなりのセールスを記録するのだろう。自身の楽曲の権利を失うという深刻なトラブルに見舞われながら、それを逆手にとって新たなマーケティングを打ち出している彼女のしたたかさには感服するばかり。当分は快進撃が続きそうだ。
ベルリン・フィルの首席フルート奏者として知られるエマニュエル・パユは、ソロのプレーヤーとしてもトップクラスだ。一時期は自身の個人的な活動が忙しく、楽団を離れていたほどである(現在は復帰 ^^;)。そんな彼がフルートソナタの新録の題材として選んだのが、シューマン夫妻およびメンデルスゾーン姉弟による作品群。アルバムタイトルは「ロマンス」で、ピアノ伴奏はフランスの名手エリック・ル・サージュ。2022年秋にベルギーのナミュール・コンサートホールで吹き込まれている。
曲目はロベルト・シューマンの「3つのロマンス(作品94)」にクララ・シューマン「3つのロマンス(作品22)」、ファニー・メンデルスゾーンの歌曲集(フルート版)にフェリックス・メンデルスゾーンの「ソナタ ヘ長調」など。ハッキリ言って、馴染みの無い曲ばかりだ(苦笑)。特にクララ・シューマンの名は知ってはいたが、メンデルスゾーンにファニーという姉がいて、作曲家として活動していたというのは、恥ずかしながら初耳である。だが、どれも肌触りが良くしみじみと聴かせる。
パユとル・サージュのコンビネーションは万全で、これら比較的マイナーな曲目を有名なナンバーであるかのごとく仕上げている。特筆すべきは録音で、マイクは楽器に寄っており(ホールトーンは控え目の)直接音主体の展開だが、生々しく音像が前に出てくる。まるでフルートが奏でる旋律を、最前列から身を乗り出して聴いているようだ。エコーを効かせたサウンドデザインも良いが、こういうモニター系(?)の組み立て方も悪くない。久々に室内楽のコンサートに足を運びたくなった。