元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夢売るふたり」

2012-11-04 06:59:20 | 映画の感想(や行)

 西川美和監督は、結局「蛇イチゴ」と「ゆれる」の2本で“終わって”しまうのではないかという危惧の念を抱いてしまった。斯様に本作のヴォルテージは低い。

 共に九州出身の貫也と妻の里子は東京の下町で小料理屋を営んでいてけっこう繁盛させていたが、ある晩調理場から失火し店は全焼。失意のどん底を味わうハメになる。自暴自棄の日々を送っていた貴也は、ひょんなことで店の常連客だった玲子と再会。酔った勢いで関係を持ってしまうが、それを知った里子は、夫を孤独な女たちに近付けて金を巻き上げる結婚詐欺を思いつく。

 本作の最大の欠点は、ダンナの浮気を知った妻が、どうして夫に結婚詐欺を持ちかけるのか、その理由がほとんど描かれていないことだ。パートナーの不貞に対する“腹いせ”だという解釈も成り立つが、そんなのは“後講釈”に過ぎないだろう。平凡な夫婦が犯罪に走るというイレギュラーな事態に説得力を持たせるには、切羽詰まったシチュエーションの構築が不可欠なはずだが、この映画にはそれがまったく見当たらない。

 そもそも、夫婦の濡れ場を省略したのが間違いだ。文字通り“裸”でぶつかることによって、互いの内面やコンプレックスをジリジリと焙り出すことも可能だったはずだが、ここでは御為ごかし的な妻の自慰シーン程度で事を済ませてしまう。

 さらには、彼女の“思わせぶりだが実は何も語っていない”ような言動が積み重なり、話はどんどん絵空事になるばかり。ならば犯罪ドラマにふさわしいサスペンスの醸成が出来ていたかというと、それもまるで不発。ストーリー面でグッと惹き付けられる箇所は皆無に近い。

 これではイケナイと思ったのか、終盤には思わぬ刃傷沙汰が挿入されるが、これがまあ取って付けたような段取りで失笑するばかりだ。あと気になったのは、貫也と里子が詐欺の相手に選ぶ重量上げの女子選手の扱いだ。女性ウェイトリフターとは面白い設定だが、演じる女優(江原由夏)の演技のカンの悪さも相まって、実に退屈なモチーフにしかなっていない。

 撮り方が平板そのもので、男に縁の無さそうな女の屈折した心情が上っ面しか捉えられていないのだ。とにかく、キャラクターの練り上げ方が足りていない。主演の松たか子と阿部サダヲは熱演だし、鈴木砂羽や木村多江、田中麗奈も悪くないのだが、筋書き自体が盛り上がらないため、いずれも空回りしているように見える。

 ともあれ、西川監督に必要なものはオリジナル脚本をキチンと精査できるスタッフであろう。

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