元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢」

2021-01-01 06:32:47 | 映画の感想(な行)

 (原題:THE HIGH NOTE )ストーリー自体よりも、音楽業界における“常識”めいた裏事情が紹介されているのが興味深い。明け透けに語られるその事実には呆れるしかないが、これが真相だと断定出来るだけの説得力があるのだからやり切れない。それはまた、送り手である芸能界だけではなく、聴き手である消費者の姿勢も問われるものだろう。

 グラミー賞を何度も獲得し、スターの名を欲しいままにしたベテラン歌手グレース・デイヴィスも、ここ10年は新譜をリリースしていない。それでもコンサート会場はいつも満杯で、昔のヒット曲を披露すれば大ウケする。そんな彼女の付き人として働くマギー・シャーウッドは、気まぐれなグレースの態度に閉口しながらも、大好きなグレースの近くにいて音楽業界に関わっていることにやりがいを感じいていた。そしていつの日か、プロデューサーとして世に出ることを夢見ている。

 ある日マギーは、スーパーのイベント会場で歌うデイヴィッドという青年のパフォーマンスに圧倒される。デビューする気はないという彼を説得し、マギーは自分をプロデューサーであると偽り、デイヴィッドのレコーディングを手伝うことにする。

 劇中、グレースのマネージャーが“聴衆は誰もベテランの新曲なんか望んではいない。お馴染みのナンバーを歌えば、皆満足なのさ”と言い放つ。そしてグレースにラスベガスでの長期公演を依頼するのだった。またグレースも“40歳過ぎの女性シンガーが一位を取ったことなど、数えるほどしかない”と嘆く。

 レコード会社はベスト盤を連発することを優先し、果ては過去のナンバーの“リミックス版”を提案してくる。その“リミックス版”というのがEDM仕立ての軽薄極まりないものなのだから、脱力するしかない。いくら過去の実績で生活が安定していようとも、表現者である以上新しいことに挑戦したくなるのは当然だ。しかし、失敗すればダメージは大きい。だから現在の地位に安住してしまうし、聴衆も安心して昔の曲を楽しんでいる。それではダメだというのが、作者のメッセージなのだと思う。

 マギーの奮闘は微笑ましいが、さほど面白い展開は見られない。終盤のドンデン返しも、あまり効果的ではない。だが、往年のヒット曲ばかりを消費してベテランに敬意を払わない今の業界の体制を批判しているあたりは、大いに評価して良い。

 ニーシャ・ガナトラの演出は、派手さはないが堅実だ。マギー役のダコタ・ジョンソンは、これまでの出演作とは打って変わって可愛く撮られていて(笑)、素直な個性が前面に出ている。グレースに扮するトレイシー・エリス・ロスはダイアナ・ロスの娘らしいが、母親譲りの存在感だ。ケルヴィン・ハリソン・Jr.やゾーイ・チャオ、アイス・キューブ、ビル・プルマンなどの脇の顔ぶれも良い。

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