元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「白蛇抄」

2018-12-16 06:48:55 | 映画の感想(は行)
 83年作品。主演の小柳ルミ子の大胆演技が評判になり、彼女は本作により日本アカデミー賞の主演女優賞を手にしているが、作品自体は大したことがない。原作になった水上勉の同名小説は読んでいないものの、何やら内容の方向性と監督(伊藤俊也)のスタイルが合っていない印象を受ける。なお、当時製作元の東映が文芸原作に女優たちのエロティシズムを掛け合わせるという、新たな客寄せ戦術を見出していた頃の一本だ。

 福井県の山奥の滝壺に身を投げた女が、近くの寺の住職である懐海に助けられる。彼女は石立うたといい、2年前の京都の大火事で家族を失い、絶望のあまり命を絶とうとしたのだった。うたはそのまま懐海の後妻として寺に住むことになる。



 寺には住職の息子である昌夫がおり、彼は高校を出ると本格的な修行に入る予定だったが、うたという妙齢の女性を前にして激しく彼女に惹かれるのであった。うたが救助された時に立ち会った村井警部補も彼女に惚れており、一方で寺に引き取られてきた15歳の少女まつのは昌夫に好意を持っていた。各人の情念が混じり合って、ドラマは意外な展開を見せる。

 どう考えても、本作は各登場人物の愛欲が吹き上がるドロドロの展開にならざるを得ない。また、舞台が人里離れた場所であることから、ここは妖しい雰囲気をハッタリかませて醸し出した方が盛り上がる。しかし、それはスクエアーな作風の伊藤監督にマッチしているとは言い難い。結果として、平板で深みに欠ける出来になってしまった。

 うたと懐海、あるいは昌夫とのからみはもっと禍々しいオーラが発せられて然るべきだが、実に印象が薄い。まつのの切迫した思いも不発だ。さらには演出のリズムが悪く、居心地の良くない2時間を過ごすことになった。小柳は熱演だが、この前に伊藤監督と組んだ「誘拐報道」(82年)ほどの訴求力は発揮出来ず。存在感もまつのに扮する仙道敦子にやや後れを取っている。

 杉本哲太に宮口精二、夏八木勲、そして若山富三郎といった顔ぶれも頑張ってはいるが、映画自体のヴォルテージが低めなのであまり評価は出来ない。あと関係ないが、公開前の業界試写では濡れ場になるとカメラマンのシャッター音が鳴り響いていたそうだ。スチル写真が提供されていなかったという事情があるが、今から考えるとあり得ない話である。

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