元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「名も無き世界のエンドロール」

2021-02-13 06:58:36 | 映画の感想(な行)
 かなり“薄口”の内容で、評価できない。お手軽なテレビドラマのような印象を受ける。キャラクターの造型に深みが無いので、いくら凝った筋書きを狙おうとも、映画は上滑りするばかり。また、そのプロット自体が弱体気味で、惹句にある“ラスト20分の真実”というのも大したことがない。

 複雑な家庭環境で育った幼なじみのキダとマコトが通う小学校に、転校生の女の子ヨッチがやってくる。彼女も両親がおらず、似たような境遇のキダたちと仲良くなる。時は経ち、高校を卒業して地元の板金工場で働くようになったキダとマコトの職場に、売れっ子モデルのリサが車の修理を依頼する。

 それからしばらくしてマコトは仕事を辞めて行方をくらまし、やがて工場も閉鎖。キダは社長の紹介で怪しげなエージェントに勤めつつマコトを探すが、再会したマコトは新しい“身分”を手に入れ、名の知れた実業家になっていた。彼は今ではリサと付き合っており、プロポーズする際の“サプライズ”を仕掛けるために、マコトに協力を依頼する。第25回小説すばる新人賞を受賞した、行成薫の同名小説の映画化である。

 映画は現在のキダとマコトの姿と、子供の頃から高校時代までの主人公たちを交互に描く。過去のパートで中心的に描かれるヨッチが、現代のパートにはいない。また、高慢ちきで鼻持ちならないリサに、なぜかマコトは御執心である。以上2点から考えると、勘のいい観客ならば物語の全容が容易に掴めるはずだ。こんな状態で“ラスト20分”にわざわざ“種明かし”をしてもらっても、観ている側は鼻白むばかり。

 しかも、それに続くラストの処理は、何とも気勢の上がらないものだ。成りあがったマコトの佇まいや、キダの仕事ぶりなどは、かなり安直である。特にキダの“勤務先”の描写は書き割りのようで、とても裏社会に通じているような凄味は窺えず、観ていて脱力する。トップモデルだというリサに至っては、華やかさも存在感も無く困惑するばかりだ。

 佐藤祐市の演出はピリッとせず、奇をてらって“映像派”を狙ったようなシーンも、ハズレばかり。主演の岩田剛典と新田真剣佑、そして山田杏奈に中村アン、いずれも凡庸で特筆すべきものは無い。石丸謙二郎に大友康平、柄本明といったベテラン勢も、することがなく手持無沙汰の様子だ。近藤龍人による撮影も佐藤直紀の音楽も印象に残らず、エンディングに流れるナンバーは実につまらない。そして極めつけは、エンドタイトル後の“続きはネット配信で”みたいな表示だ。何かの茶番としか思えず、気分を害して劇場を出た。
コメント
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