元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊」

2021-02-26 06:47:01 | 映画の感想(は行)
 (原題:THE WHITE HELMETS )2016年9月よりNetflixにて配信。上映時間が約40分のイギリス製のドキュメンタリーだが、扱っている題材といい、描き出される生々しい真実の姿といい、恐ろしくヴォルテージの高い作劇が施されている。第89回米アカデミー賞にて短編ドキュメンタリー賞を獲得。まさに必見の作品だ。

 内戦が絶えないシリアで、人命救助に携わる民間のボランティア団体が存在する。ノーベル平和賞の候補にもなった、通称“ホワイト・ヘルメット(民間防衛隊)”だ。彼らの前歴はさまざまで、中にはかつてISに加入していた者もいる。だが、祖国シリアを何とかしたいという想いは同じで、そのために命がけの活動に身を投じる。



 その実状は過酷の一言で、爆撃やテロで破壊されたスポットにいち早く駆けつけ、生存者を探す。もちろん、現場では生きている者よりも死体に遭遇するケースが多い。それでも彼らは活動をやめない。瓦礫の山を前に、徒手空拳で立ち向かう。

 戦禍は一般市民だけではなく“ホワイト・ヘルメット”のメンバーにも及び、つい先ほどまで談笑していた隊員が、次の瞬間には吹き飛ばされているといったショッキングな場面も描かれる。事実、2013年から130名もの救助隊員が犠牲になっている。だがその間に5万8千人の命を救っており、改めて彼らの働きには頭が下がる。そして、彼らの面構えの何と清々しいこと。悟りきったような透徹した表情が、観る者の心を打つ。

 さらに、彼らが訓練のために訪れるトルコでは戦火の無い平和な光景が見られ、国境一つ隔てるだけでこれほどまで環境が違うことに驚かされると共に、戦争の不条理を感じずにはいられない。オーランド・ボン・アインシーデルの演出は力強く、一点の曇りも無い。フランクリン・ダウの撮影と、パトリック・ジョンソンの音楽も言うことなしだ。
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