元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「羊飼いと風船」

2021-02-20 06:26:20 | 映画の感想(は行)
 (英題:BALLOON )大して面白くもない。有り体に言えば退屈だ。もっとも、取り上げられた題材といくつかのモチーフには興味を惹かれる。だが、それらの扱い方には工夫が足りず、芸も無いまま上映時間が過ぎていく。ラスト近くになってようやくドラマが動き出すが、序盤から物語を大きく展開させた方が求心力は増したはずだ。

 チベットの大草原で牧畜を営む老父と息子夫婦、そしてその子供3人の家族は、貧しいながらも穏やかに暮らしていた。だが、中国当局の“一人っ子政策”の影響がこの集落にも及んでくる。そんな時、子供たちの叔母で母親の妹が訪ねてくる。彼女はある事情で出家して仏門に入っているのだが、昔付き合っていた男が地元の中学校の教師をしており、彼から著書を渡される。やがて母親は4人目の子供を妊娠するが、当局側の通達や家計の事情などで生むことを躊躇する。チベット出身のペマ・ツェテン監督作だ。



 中国の近代化路線とチベットの伝統とは、本来相容れないものだ。当然“一人っ子政策”などは容認出来ない。しかし、政府の高圧的な姿勢は民族性などお構いなしだ。とはいえ、そのあたりの確執が如実に描かれるのはラスト近くで、映画の大半はどうでもいい描写で占められる。特に住民の暮らしや羊の種付けといった場面が、カメラ横移動の長廻しでメリハリも無く映されるのには閉口した。母親の妹と中学校教諭との関係性も、まるでハッキリしない。

 ならば映像はどうかといえば、確かに見渡す限り広がる大草原は見応えがあるが、そこまで美しくは撮られていない。ペマ・ツェテンの演出は冗長で、中盤過ぎまでの起伏の無さには観ていて眠気を覚える。もちろん、舞台がチベットとはいえ中国映画なので、中国当局の少数民族に対する仕打ちをあからさまに描けない事情はあるのだろう。ただ、それならそうで効果的な暗喩を多数挿入させるとか、もうちょっと観る側の集中力を途切れさせないやり方があったはずだ。

 ソナム・ワンモにジンパ、ヤンシクツォといったキャストは馴染みは無いが、地元の人間らしい面構えはしている。だが、演技指導が不十分なのか目立ったパフォーマンスは見当たらない。2019年の東京フィルメックスのコンペティション部門で高評価だったというが、正直そこまでのシャシンとは思えない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする