元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

“経済を回す”というスローガンの誤解。

2021-01-22 06:28:06 | 時事ネタ
 昨今のコロナ禍においてよく議論されるのが“経済活動と感染防止、どちらを優先すべきか”ということだ。しかし、この二者択一はナンセンスである。経済活動も感染防止も重要なことで、どちらも推進しなければならない。一方を優先するために、もう一方を軽視するようなことは、断じてあってはならないのだ。

 さて、良く聞かれる“(コロナ禍においても)経済を回す”というフレーズが、この“経済活動と感染防止とのトレードオフ”という範疇での物言いでしかないことに、強い危惧を覚える。つまり“経済を回せ”と言い募る識者たちが想定している着地点とは、感染防止との兼ね合いで達成した上での経済成長率のことなのだ。これは、明らかな欺瞞である。

 そもそも、コロナ禍が発生する前の時点でも、日本経済は壊滅的な状態だったのだ。2019年の10月から12月期の実質GDP成長率は、前期比年率7.1%ものマイナス。言うまでもなく、これは消費増税に伴う駆け込み需要の反動減および負の所得効果に求めらる。この低迷状態から、2020年からはコロナ禍によりさらに厳しくなった。

 だから、現時点でいくら“経済を回そう!”と主張したところで、想定される経済政策(自粛要請の緩和、およびGOTOキャンペーンや五輪開催などによる特需)が最大限効果を発揮したとしても、到達するのはコロナ禍直前の状況でしかない。つまりは消費増税後の不景気な構図が再現されるだけだ。

 しかも、それら経済政策が100%有効に機能することは無い。なぜなら、自粛要請を早期に取り止められるほどコロナ禍が直ちに収束するとは考えにくいし、GOTOキャンペーンの再開もそれだけ遅くなるからだ。オリンピックに至っては開催自体も危ない。百歩譲って今後コロナ禍が幾分収まって五輪も開けたとしても、パンデミックの可能性がゼロにならない限り、経済活動はコロナ禍以前の状態には戻らない。

 本気で“経済を回そう”と考えるのならば、経済を回すに足る財政を投入することを提案すべきなのだ。コロナ禍における日本の経済マクロの損失額は、内閣府が2020年夏に発表した数字では今年度は約40兆円になっている。さらに第三波が始まってからはこの損害額は積み上がることが予想される。

 2019年末でのGDPの低迷に加え、コロナ禍による40兆円以上の損失。“経済を回す”というのは、これらをリカバリーさせる額の有効需要を作り出すことだ。だから100兆円単位での財政支出が必須条件である。ちなみに、GOTOキャンペーンの予算規模は約1兆6千億円。これで“経済を回そう”などと言うのは、まるで笑い話だ。

 経済ネタの議論に必要なのは“数字”である。具体的な“数字”を抜きにして“経済を回そう”というスローガンを連呼することは、百害あって一利無しである。
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