元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「神田川淫乱戦争」

2021-01-15 06:35:10 | 映画の感想(か行)

 83年作品。「スパイの妻」(2020年)でのヴェネツィア国際映画祭における監督賞受賞で、日本を代表する映像作家であることが一般世間的にも認知された黒沢清のデビュー作だ。全編これオフビートなおふざけの連続で、観る者を戸惑わせる怪作だが、後年の終末感を漂わせたような作風とは一線を画すこの監督の違う面が垣間見えるようで、とても興味深い。

 主人公の明子には良という恋人がいるが、今や完全にマンネリで惰性で付き合っている状態だ。そんなある日、友人の雅美から電話が掛かってきた。雅美の家は神田川沿いにあるが、川の向かい側のマンションで、浪人中の少年が母親と“禁断の関係”になっているという。これは何とかしなければと勝手な義憤にかられた2人は、そのマンションに乗り込むが、管理人に叩き出されてしまう。

 それでもあきらめない明子たちは、神田川を突っ切って直接少年の部屋に突入するが、これもあえなく失敗。次に明子は川の中で母親と対決し、ついに少年を“保護”する。製作は当時黒沢が属していた若手監督集団“ディレクターズ・カンパニー”だが、興行としてはピンク映画枠として成人映画館で公開されている。約一時間ほどの小品ながら、インパクトは強い。

 一応ストーリーはあるのだが、それによって何らかの主題を浮き立たせようという意図はほとんど感じられない。登場人物が突然歌い出したり、川の中での明子と少年の母親との立ち回りを延々と定点観測したりと、要するにこれは“映画ごっこ”の様態を採用した実験作であろう。デビュー当時は黒沢は一部で“日本のゴダール”と言われていたらしいが、ゴダールの物真似っぽいテイストも、まあ少しは感じられる。

 しかしながら、後の「ニンゲン合格」(99年)や「カリスマ」(99年)といった有名俳優を起用しながらの“高踏的”な黒沢作品と比べれば、観客を屈託無く楽しませようという意図が感じられ、立派な“娯楽作”たり得ているのは面白い。主演の麻生うさぎと美野真琴は怪演。森達也や周防正行といった現在映画監督として活動している面々が脇役として出ているのも愉快だ。
コメント
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