元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「最後の追跡」

2020-10-19 06:27:01 | 映画の感想(さ行)

 (原題:HELL OR HIGH WATER)2016年11月よりNetflixにて配信。第89回米アカデミー賞の作品賞候補であるにも関わらず、日本での一般公開が見送られた作品だが、ネット経由ながらこうして鑑賞出来るのは有り難い。内容は見応えがある。現代版の西部劇ともいえるエクステリアだが、設定や人物描写に優れたものがあり、筋書きも練られている。本国での高評価も納得だ。

 タナーとトビーのハワード兄弟は、テキサス州西部のテキサス・ミッドランズ銀行の複数の支店に次々と強盗に入る。テキサス・レンジャーのマーカスとアルベルトは、早速事件の捜査に当たる。マーカスは定年退職を間近に控えており、未解決のまま仕事を辞めるわけにはいかないと、着実に捜査を進めてゆく。

 一方ハワード兄弟はオクラホマ州にあるカジノを利用し、奪った金をマネーロンダリングして自宅に持ち帰っていた。2人には手っ取り早く金を集めなければならない事情があり、テキサス・ミッドランズ銀行を狙ったのも理由がある。だがマーカスは犯人たちが特定の銀行しか襲わないことから、行動パターンを調べることに成功。先回りしてハワード兄弟を捕まえようとする。

 粗暴なタナーと慎重派のトビーというキャラクター設定は悪くないが、それにはちゃんと作劇上の裏付けがある。2人がなぜ特定の銀行にしか強盗に入らないのか、どうして金を期限内に揃える必要があるのか、そこには悲しくも厳しい事由があった。アメリカ南部の貧困層のシビアな暮らし、しかしそれでも土地にしがみつくしかない状況、そんな現実がリアリティを伴って提示される。

 マーカスとアルベルトは失われつつある西部魂を持ち続けている存在で、愉快ならざる境遇にあっても正義を貫く心意気はある。この2つのスタンスが正面から激突する終盤近くの展開は、アクションシーンこそ少ないものの、重量感がある。さらには、余韻を持たせたラストの処理にも大いに感心してしまった。

 デイヴィッド・マッケンジーの演出は骨太で、弛緩したところが無い。また脚本担当のテイラー・シェリダン(劇中でカメオ出演している)の仕事も評価されてしかるべきだろう。マーカス役のジェフ・ブリッジスの渋すぎる演技は、長いキャリアを誇る彼のフィルモグラフィの中でも屈指の出来映えと言えよう。ハワード兄弟に扮したベン・フォスターとクリス・パインのパフォーマンスも申し分ない。ニック・ケイヴによるエッジの効いた音楽は場を盛り上げる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする