元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シンプルメン」

2019-02-17 06:26:03 | 映画の感想(さ行)
 (原題:SIMPLE MEN)92年作品。ハル・ハートリーという監督は、ニューヨーク派の新しい旗手といった扱いで、その作品は90年代に“意識高め”(?)の映画ファンの間で随分と持て囃されたようだ。しかしながら2000年代以降には日本ではあまり名前を聞かなくなった。それで近年は何本か単発的に作品は公開されているが、それほど大きな話題になっていないように思う(実際、私も観ていない)。

 ニューヨークに住むケチな泥棒のビルは、真面目な大学生である弟のデニスと一緒に、警察に逮捕された父親のウィリアムに面会に訪れるが、ウィリアムはすでに脱走していた。父はかつての大リーガーで、なおかつ60年代の爆弾テロの容疑者という、とんでもない経歴の持ち主である。



 兄弟は父親を探すためロング・アイランドまで赴くが、途中で会うのは一筋縄でいかない者ばかり。どうやらウィリアムは、新しい恋人であるルーマニア人の少女エリナと国外逃亡を企てているらしい。やがてビルにも警察の手が迫り、一家の前途は危ういものになっていく。

 出てくるキャラクターは面白い。主人公の兄弟と父親はもとより、ビルと懇ろになるオイスター・バー兼民宿の女主人およびその友達も変人だ。さらにはインド系の少女や、フランス語を勉強するガソリン・スタンドの男とか、奇妙な連中が画面を前触れも無く横切ってゆく。ハートリーの演出は(良く言えば)軽妙洒脱で、予想出来ないようなアクションも折り込み、ライトな感覚でユーモラスに楽しませてくれる。

 しかしながら、同じニューヨーク派である(少し前に世に出た)ジム・ジャームッシュやスパイク・リーのような、観る者に深く語らせるような重みは無い。また、ハリウッドのメジャーな映画のような広範囲にアピールする娯楽性も希薄だ。つまり、ちょっと接してみると良い案配に知的で面白いが、あまり記憶には残らない作風だということだろう。

 ちなみに同じ頃にこの監督の「トラスト・ミー」と「愛・アマチュア」も観ているが、現時点ではあまり内容は思い出せない。ただ、マイケル・スピラーのカメラによる映像の透明感は特筆出来るし、ハートリー自身による音楽もセンスが良い。ロバート・バークやウィリアム・セイジ、カレン・サイラスといったキャストは馴染みが無いが、少なくとも本作においては良い味を出している。
コメント
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