元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」

2019-02-04 06:27:16 | 映画の感想(ら行)

 (原題:REBEL IN THE RYE)J・D・サリンジャーの半生を要領良く紹介しているという意味では、存在価値のある映画だと思う。ただし、私は彼の著作を全然読んでいないし、今のところ読む予定も無い。斯様に題材に対する思い入れは持ち合わせていない以上、映画に関しても“引いた”立場で眺めるしかない。

 1939年、退学を繰り返していた20歳のジェローム・デイヴィッド・サリンジャーは、本格的に作家への道を歩むためコロンビア大学の創作学科に編入する。担当教授のウィット・バーネットは彼の才能を見抜き、何かとアドバイスしてくれた。短編小説を書き始めるジェロームだったが、何度も出版社へ売り込むも不採用。それでもようやく文芸誌への掲載が決定するが、第二次大戦が勃発して取り消されてしまう。

 やがて召集によりヨーロッパ戦線に送られたジェロームだったが、筆舌に尽くしがたい数々の悲惨な出来事を経験し、終戦後に帰国しても精神的後遺症に悩まされることになる。そでも初長編「ライ麦畑でつかまえて」を書き上げ、これが高く評価されて成功を収める。だが、静かな生活を望むジェロームは、次第に発表する作品数を減らしていくのであった。ケネス・スラウェンスキーによるノンフィクション「サリンジャー 生涯91年の真実」の映画化だ。

 冒頭“サリンジャーには興味は無い”と書いたが、映画としては門外漢であっても引き込んでしまうほどの訴求力があればそれで良い。しかし、本作にはそういうパワフルな作劇は見当たらない。事実を平易に並べるだけである。これでは幅広く興趣を喚起することは出来ないであろう。

 それでも、ウィットの造型については興味を覚えた。教員としては優秀だが、本業の傍ら営んでいた雑誌出版の仕事は上手くいかない。ジェロームと何とか関係を保とうとするが、その結末は切ない。演じるケヴィン・スペイシーが失意の初老の男の悲哀を上手く表現していた。一方、サリンジャーに扮するニコラス・ホルトの演技は破綻は無いが、こちらに迫ってくる熱いパッションは希薄だ。

 ダニー・ストロングの演出はスムーズながら、盛り上がりには欠ける。ただ個人的にびっくりしたのは、ジェロームと恋仲だったウーナ・オニールが彼と別れた後、あのチャップリンと結婚したことだ。もちろんこれは史実だが、年齢差をものともせずに若い嫁さんをゲットした喜劇王のバイタリティには感服せざるを得ない。
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