元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「幻の湖」

2018-11-09 06:25:10 | 映画の感想(ま行)
 82年作品。高名な脚本家であった橋本忍が今年(2018年)長寿を全うしたが、その彼の運命を(悪い意味で)変えてしまったのが本作と言えよう。とにかく、常人には理解できないモチーフがてんこ盛りの怪作で、少なくとも全国拡大ロードショーなどには最も不向きなシャシンであることは確かだ。しかし、東宝はこの映画を創立50周年記念作品の一環として大々的に公開してしまった。今ならとても考えられないような“蛮勇”である。

 雄琴のソープ嬢である道子は、愛犬のシロと琵琶湖の西岸をジョギングするのが日課であった。ある時、シロが湖畔で殺されているのが見つかる。彼女が現場に残された凶器の包丁と証言をもとに調査した結果、犯人は東京に住む作曲家の日夏という男であることを突き止める。だが警察はアテにならないため、道子は自ら東京へ乗り込み、日夏に“マラソン勝負”を挑むことにする。



 しかし、走りに自信のある日夏に道子は完敗。彼女は失意のうちに雄琴に戻るが、知り合いの銀行員の倉田から思わぬプロポーズを受け、承諾する。結婚を機にソープ嬢を辞めようとしていた矢先、偶然にも日夏が雄琴の道子の店に客として現れた。逆上した道子は、シロを殺した凶器の包丁を片手に日夏に掴みかかり、逃げ出した彼をどこまでも追いかけるのであった。

 風変わりな女による愛犬の敵討ちの話(それでも随分と無理があるが)と思っていたら、道子が出会った琵琶湖の岸で笛を吹いていた長尾という男は、戦国時代に非業の最期を遂げた侍女の魂を鎮めようとしており、実は彼の本業は宇宙飛行士だった・・・・というヘンなプロットが突然出てくる。

 さらに、道子の同僚はアメリカの諜報部員で、ソープ嬢として何かの潜入捜査をしているといった超アクロバティックな話が挿入される。意味も無く時代劇になったり、終盤には舞台が宇宙空間になったり、結局何が“幻の湖”なのか判然としないままエンドマークを迎える。監督は橋本自身だが、得体の知れない勢いはあるものの、支離滅裂な話を強引に進めていく態度には呆れるしかない。

 主演は本作のためにオーディションで起用された南條玲子だが、イマイチ魅力を感じない。 隆大介や、室田日出男、かたせ梨乃、下条アトム、星野知子、大滝秀治、宮口精二、関根恵子、北大路欣也など脇の面子は豪華だが、何をして良いのか分からない様子だ。

 当時はあまりにトンデモな内容のため客足が伸びず、公開は早々と打ち切られたらしい。それまで輝かしい実績を上げていた橋本の評判は本作によって失墜し、その後は実質的な引退状態となった。それでも、この「幻の湖」はカルト映画の極北としての地位は得たと言える。
コメント
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