元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ファイヤーフォックス」

2015-12-02 06:25:55 | 映画の感想(は行)
 (原題:Firefox )82年作品。クリント・イーストウッドの監督兼主演による映画で本当に面白いのは「ガントレット」(77年)ぐらいで、あとは凡作・駄作の山だ。本作の出来もあまりよろしくないのだが、中盤からイーストウッドの作品ではなくSFXスーパーヴァイザーのジョン・ダイクストラの映画になっているところが実に興味深い。その意味では観る価値のあるシャシンだ。

 冷戦下、西側諸国はソビエト連邦がそれまでの戦闘機を大きく上回る性能を持った新型機“ミグ31 ファイヤーフォックス”を開発したとの情報をキャッチする。これが実戦用に多数配備されると軍事バランスが崩れてしまう。今からこれに対抗する戦闘機の開発を始めても間に合わない。



 かくなる上はその技術を機体もろとも盗み出すしかなく、NATO司令部は元米空軍パイロットのミッチェル・ガントにその任務を与える。76年のベレンコ中尉亡命事件にヒントを得て書かれた、クレイグ・トーマスの同名小説の映画化だ。

 主人公が敵基地に侵入し、ミグ31を奪うまでの過程が上映時間のかなりの部分を占めるが、これが全然盛り上がらない。間延びした演出と不必要に暗い場面の連続。弱々しいアクションを見せるイーストウッド御大の仕事ぶりにも脱力する。観ているうちに眠くなってくるのだが、終盤近くに戦闘機を手に入れたミッチェルが晴れた大空に向かって飛び立っていくシークエンスでイッキに目が覚める。それまでの根暗な雰囲気を帳消しにするような、明るく闊達な展開に思わず身を乗り出してしまうのだ。

 海面近くを、水しぶきを高々と立てながら飛翔するファイヤーフォックスの勇姿。北極海の氷原を滑走路代わりにして潜水艦から給油を受けるくだり。敵ミサイルの攻撃を紙一重でかわして逆に相手にダメージを負わせるシーンなど、アイデアに満ちた活劇場面の連続だ。白眉はもう一機のミグ31とのドッグファイトで、ここで主人公がロシア語が堪能であるという設定が存分に活きてくる。

 余談だが、この映画が公開された年の夏興行においては、他にトビー・フーパー監督の「ポルターガイスト」とリドリー・スコット監督の「ブレードランナー」が公開されていた。つまりはダイクストラとリチャード・エドランド、ダグラス・トランブルという特撮御三家が揃い踏みだったわけで、今考えると随分贅沢なラインナップである(笑)。
コメント
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