元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「星くず兄弟の伝説」

2015-12-13 06:32:32 | 映画の感想(は行)
 85年作品。デタラメな映画だが、今思うと突き抜けた明るさと天衣無縫な作劇が妙に記憶に残っている。まさしくこの時代にしか作れなかった、ライトな和製ロックミュージカルだ。現在ではこういう企画にカネを出すプロデューサーなんか存在しないだろう。

 20世紀も最後を迎えていた頃のナイトクラブ“魚の目”に出演している“スターダスト・ブラザーズ”は、デビュー当時のことを思い出していた。喧嘩っ早いが気は良いシンゴと、カッコつけているが実は性根の優しいカンは、もともと張り合っていたライバル同士だった。この二人をスカウトしたのが、大物プロデューサーのアトミック南である。



 彼の事務所を訪れた二人はアイドル歌手のマリモと出会って心をときめかせるが、南の強引な売り込み戦術によって激務を強いられる彼らに色恋沙汰は縁が無い。やがてシンゴとカンは人気スターになるが、増長しすぎて失速。マリモの方が売れるようになる。そんなとき南は、ある有力政治家の息子であるカオルをデビューさせる仕事を引き受ける。カオルもすぐに人気者になるが、陰険な性格の彼はマリモを我が物にしようとする。シンゴとカンは彼女を助けるべく奔走するのだった。

 原案は近田春夫で、彼の頭の中にあったアイデアを映像化したのが手塚眞。音楽も近田が担当しており、プロデューサーに当時20代だった一瀬隆重も名を連ねる。キッチュでポップな舞台セットの中で、脳天気な登場人物達が、これまた脳天気な歌を延々と披露するという、まさに脳天気な作品だ。

 ストーリーはあって無いようなもので、とにかく軽いノリで楽しめればいいという、作者の開き直りが全編に渡って横溢している。こういう“ノリがすべて”といったタイプのシャシンは、現在でも無いことは無い・・・・のかもしれないが、本作が印象的なのは、雰囲気がリッチで余裕があるのだ。そもそも、マニア御用達のミュージシャンであった近田の“妄想”に過ぎないプランを映画化するにあたって、何のためらいも無くカネを出してくれるスポンサーが少なからずいたという事実は、今では考えられない。

 主演の久保田慎吾と高木完は演技は大したことはないけど調子が良く、マリモ役の戸川京子は可愛い(彼女は若くして世を去ってしまったのが残念だ)。南に扮する尾崎紀世彦のカリスマ性とパワフルな歌声には感心する。他にもミュージシャンや漫画家・イラストレーター、小説家・放送作家、コピーライターに映画監督にプロダンサーと、各方面の有名人が大挙して出演しているのは圧巻で、バブル前夜の狂騒ぶりを如実に示していると言えよう。
コメント
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