元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「赤い玉、」

2015-12-12 13:29:48 | 映画の感想(あ行)

 オヤジの妄想が炸裂で、苦笑してしまった。ただし、映画として面白いかというと、そうでもない。ポジティヴな部分が希薄な侘びしい話だし、かといって主人公の惨めさや悩みをリアリズムで追い込んでもいない。何とも中途半端な出来なのだ。

 京都にある芸術大学で映画撮影の教鞭を執る時田修次は、昔は高く評価される作品をいくつも手掛けていた映画監督だ。しかし、最近では本業での仕事が無く、年のせいかシナリオのアイデアも湧いてこない。私生活では大分前に妻と別れ、大学の助手である唯と暮らしている。ある日、彼のインスピレーションを大いに刺激する女子高生・律子が時田の前に現れる。それからというもの、彼は恥ずかしげも無くストーカー行為に走り、いつか彼女と一緒に寝ることを夢見て強壮剤にまで手を出すようになる。一方、教え子達の映画製作は上手く進まず、時田は苛立つばかりだった。

 何となく前に観た「Re:LIFE リライフ」と似たような設定だが、こちらは全然明るくない。まあ、年甲斐も無く若い女にのめり込む主人公の気持ちは分かる。ただし、時田はすでに自分より随分年下の交際相手がいて、新作のオファーも来ているようだ(尊大な態度で断ってしまうが)。端から見れば“いい気なものだ”としか思えない。

 律子に対してよからぬ想像をするくだりがあるが、その心象風景たるや観ていて気恥ずかしいほど下世話で安っぽい。オヤジのイマジネーションというのは“この程度”のものなのか(呆)。時田は自身の行動を脚本化しようとするが、それは「Re:LIFE リライフ」の主人公のシナリオ執筆の動機とは比べようも無い“やっつけ仕事”としか思えない。これでは学生から軽く見られるのも当然だ。 演じる奥田瑛二が頑張れば頑張るほど、主人公の中身の無さが強調されるのは皮肉である。

 それにしても(唯に扮する不二子は別だが)律子役の村上由規乃や学生製作映画のヒロインを演じる土居志央梨などの容貌が、悪い意味で“昭和っぽい(垢抜けない)”というのが気になる。高橋伴明監督はこういうのが好きなのだろうか。そういえば映画のタイトルの意味も露骨で捻りが無く、古臭さだけが漂ってくる。

 それでも2箇所だけ共感出来る場面があった。それはまず、時田が仕事場に届けられた試写会の案内状の束をゴミ箱に放り込むくだりだ。映画は入場料を払って観るものだという、カツドウ屋の心意気が少しは垣間見えた。もう一つは、学生達の映画撮影が直截的な描写を避け、雰囲気だけでお茶を濁そうとして、時田がそれを批判するところ。昨今の微温的な若者向け映画に対する抗議のようにも思えて、ここはベテランの意地を示したというところだろうか。
コメント
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