(原題:Hable con Ella)2002年作品。ペネロペ・クルスにカンヌ映画祭での受賞をもたらした「ボルベール 帰郷」が公開中のペドロ・アルモドヴァル監督だが、かねてより彼の作風は全く肌に合わず「ボルベール 帰郷」も観る気はない。この作品にしても「アカデミー脚本賞受賞作だから」という、いわば“義務感”で観たのだが、やっぱりどこが面白いのかわからない。
孤独な看護士が昏睡状態の女に一方的に抱く恋愛感情は、一切見返りを求めないという意味では「無私の愛」「究極の愛」だと言えなくもない。しかし、恋愛は両者の対等な関係があって成り立つべきものだと考える私にすれば「単なる疑似ストーカー行為(変態)」としか思えない。
もちろん、映画の作り方としてはそんな「イレギュラーな行為」を突き詰めて、崇高な次元(至純の愛)にまで昇華して観客を力尽くでねじ伏せるという方法があることは承知している(実際の成功例も少なくない)。あるいは逆に徹底的に突き放してシニカルに笑い飛ばすやり方もあろう。ところがこの映画は対象からの「距離」が妙に中途半端なのだ。
醒めているようでいて、ヘンに主人公に「共感」を抱いているようにも感じる。劇映画を作る際の作者のスタンスが明確ではないから、観ていて退屈なのだ。ひょっとしたら「男同士の微妙な連帯感(≒同性愛)」をメインにしたかったのかもしれないが、ゲイではない私にとって理解の外である。
冒頭に登場するピナ・バウシュのバレエ「カフェ・ミュラー」をはじめ舞台場面は見所があるし、この監督独特のカラフルな画面造形も捨てがたいが、それだけでは長い上映時間を保たせられるわけもない。要するに「私とはカンケイのない映画」である。