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感想:『ライトノベル★めった斬り!』

2010年01月31日 22時39分38秒 | ライトノベル
ライトノベル☆めった斬り!ライトノベル☆めった斬り!
価格:¥ 1,554(税込)
発売日:2004-12-07


以前、「ライトノベルめった斬り!」の記事で、ネット上に掲載されている本書で取り上げられている100作品については触れた。Wiki「奇想庵の100冊」でそれを参考にライトノベル・ブックガイドも作ってみた。しかし、そもそも本書を読んでいなかった。本末転倒な感じだが、今更ながら読んでみた。

2004年に書かれているだけにドッグイヤーのように変転流転するライトノベル界の情報としては古い印象も受ける。また著者二人がSF系ということでかなりの偏向が存在していることも伺える。それでもライトノベル史にとっては一里塚的な本であることは間違いないだろう。
本書は二人の対談から成り立つパートと、作品紹介のパートの二本立てとなっている。対談パートは、ライトノベル前史、ライトノベルのあけぼの、ライトノベルの確立、ライトノベルの現在の4つに分けられているが、面白いのはやはり前史からあけぼのにかけて。1961年生まれの大森望と1962年生まれの三村美衣ということで、彼らの青春時代近辺の話はさすがに熱い。
昨日たまたま見つけた作家久美沙織によるライトノベル創世期を綴ったサイトその名も「創世記」で当時の青春時代像が書かれている。まだ家庭にビデオが普及する以前の映像コンテンツへの思いや、日常における電話の位置づけなど、今とはまるで違う姿が記されている。久美も1959年生まれでほぼ同世代。簡単に所有できるようになったことにより、消費スピードが恐るべき速さとなってしまったという現在に対する指摘は興味深い。
本書での二人の知識の幅もライトノベル創世期に関してはさすがのもの。SF系をメインとしながらもコミックや児童文学まで幅広く取り上げている。一方で、確立以降はゲームへの知識不足などもあって物足りなさは否めない。

ライトノベル作品紹介では、SFのマニアックな作品を喩えで出すあたりにかなりの違和感が。例えば、『銀河英雄伝説』の項では、ジョージ・R・R・マーティンの「炎と氷の歌」を挙げるけれども、いったいどれだけの読者が理解できるのかと感じた。
二人が実際に読んで紹介していることもあり、取り上げた作品に偏りが感じられるのは仕方がないところ。それでも男女両方をここまでまとめたブックガイドは他にないだろうけれども。

ライトノベルの広がり的な方向性が書かれている。新本格などライトノベルとの境界がどんどんと曖昧になっているのは事実だろう。ただ日本のサブカルチャーの大きなウェイトをオタク系文化が占めている事実を考えればそれは必然と呼べるものだろう。
むしろ、そうしたオタク系文化におけるライトノベルの位置づけや、オタク系文化全般の歴史・方向性といった内容は、あかほりさとるや涼元悠一との関係である程度は書かれているもののもっと鋭く踏み込んで欲しかった領域である。それを書くとすれば、もう1世代か2世代若い連中ってことになるだろうが。

このライトノベルがすごい!2010」でベストテンの作品のうち、ファンタジーは「黄昏色の詠使い」「蒼穹のカルマ」のみ。「バカとテストと召喚獣」「とある魔術の禁書目録」が異世界学園もの。「化物語」「文学少女」は伝奇要素の入った学園もの。残りの「とらドラ!」「生徒会の一存」「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」「ベン・トー」はありえないという意味ではファンタジーとも呼べるが、設定上は一切非リアルには基づいていない。特に「生徒会の一存」はライトノベルに日常系を組み込んだもの。これまでライトノベルの日常系は異者(例えばガーゴイル)の存在が前提だったけれども、「生徒会の一存」にはそれはない。未だ空気系ライトノベルシリーズというものを確認していないが、それも時間の問題なのかもしれない(空気系は「あずまんが大王」「らき☆すた」「けいおん!」などに代表される日常系で、男性主人公や恋愛要素を意図的に削ぎ落としたもの)。
ライトノベルと言っても非常に多様なので一概に総括できるものではないが、他ジャンルと相互作用を起こしながら流行の傾向というものは築かれていくだろう。もちろん、そんな流行お構いなしに現れる力持った作品こそが期待されるべきものかもしれないが。


感想:『戦う司書と終章の獣』『戦う司書と絶望の魔王』『戦う司書と世界の力』

2010年01月30日 21時46分31秒 | 山形石雄
戦う司書と終章の獣 BOOK8 (集英社スーパーダッシュ文庫)戦う司書と終章の獣 BOOK8 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2008-04-25
戦う司書と絶望の魔王 BOOK9 (集英社スーパーダッシュ文庫)戦う司書と絶望の魔王 BOOK9 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 680(税込)
発売日:2009-07-24
戦う司書と世界の力 BOOK10 (集英社スーパーダッシュ文庫)戦う司書と世界の力 BOOK10 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 650(税込)
発売日:2010-01-22


シリーズ8冊目『戦う司書と終章の獣』は昨年末に読了し、感想を書きそびれていた。そして、最終巻となる10巻刊行に合わせて9巻と共に読んだ。バントーラ図書館を巡る長い一日を三冊にわたって描いているので、感想もまとめて記しておく。

シリーズ第1巻にして著者のデビュー作である『戦う司書と恋する爆弾』を読んだときは、ちょっと風変わりなファンタジーとしか思わなかった。その後も一冊ごとに波もあり、決して突出した傑作だとは思えなかった。5巻目にあたる『戦う司書と追想の魔女』でようやく物語の輪郭が見えてきたが、それはこの作品の全体像のほんのごく一部に過ぎなかった。
次々と明かされる真実と予想を裏切る急激な展開。『戦う司書と終章の獣』以降、物語は加速し、重層化した。

以下、ネタばれ。
真の敵の登場とあっけない世界の滅亡。バントーラ図書館最後の日は驚天動地の展開を見せた。『戦う司書と絶望の魔王』によりついに全ての真実が明かされる。もはや善悪を超え、物語は幾重にも折り重なり、これまで語られたものが真の姿をさらけ出す。
この物語は絶望の物語である。20世紀後半以降、絶望を知らない物語は語る価値を失っている。一方、絶望に打ちひしがれるだけでは物語の必然性はない。絶望を知り、なお生きていくために物語は存在する。
この物語は、記憶を消され人間爆弾としてハミュッツを殺すことだけを命じられたコリオ=トリスの物語である。この物語は、世界を救い世界を滅ぼすルルタ=クーザンクーナの物語である。この物語は、たった一つの目的のために生み出された道具であるハミュッツ=メセタの物語である。この物語は、菫の咎人と呼ばれたチャコリー=ココットの物語である。この物語は、エンリケ=ビスハイルの物語であり、ミレポック=ファインデルの物語であり、マットアラスト=バロリーの物語であり、ノロティ=マルチェの物語であり、ラスコール=オセロの物語であり、そしてニーニウの物語である。その望みも、生き様も、考え方もまるで異なる人々が、激しく交差するその瞬間を描くために構築された楼閣。それがバントーラ図書館だった。
『戦う司書と世界の力』におけるルルタとハミュッツの戦いは、どちらの勝利も望まない、望めない戦いだった。


しかし、『戦う司書と世界の力』はその後大きくエンターテイメントに徹することとなる。テーマ性に殉じるのではなく、王道のエンターテイメントとしてこれまで溜め込んでいたものを一気に噴き出した。そのことに対する評価には賛否があるだろう。『戦う司書と絶望の魔王』でニーニウに背負わすための描写がやや弱く、テーマ性で押し通すには最後まで支え切れなくなりそうに感じていたため、私自身はこの選択を妥当なものと感じた。ライトノベルだからと言う訳ではないが、エンターテイメントとしてスタートした作品である以上、エンターテイメントとしてこれ以上ない程の結末を用意できたことを評価したい。

結果としてテーマ性は弱まった。最終巻は厚さではなく熱さが目立った。シリーズ全体としてもブレはあったが、それでもここまでワクワクする物語を描いてくれたことに敬意を払いたい。1巻から思えば、本当によくここまでたどり着いたと感じる。
クセもあるし、面白くなるのはシリーズ後半ということもあって人に勧めにくい作品だろう。2010年のベストの作品と言ってもまだ1月だし、ライトノベルシリーズでベスト3に入ると言ってもそう多く読んでるわけではないので価値が薄い。☆評価は『戦う司書と終章の獣』『戦う司書と絶望の魔王』が☆☆☆☆☆☆☆、『戦う司書と世界の力』が☆☆☆☆☆☆☆☆。ただし、最終巻の☆8は限りなく9に近い8だと言っておく。ここ最近高評価連発だが、決して大安売りなのではなくてそれだけの作品だと言うことも記しておこう。




これまでに読んだ山形石雄の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

戦う司書と恋する爆弾』(☆☆☆☆☆)
戦う司書と雷の愚者』(☆☆)
戦う司書と黒蟻の迷宮』(☆☆☆☆)
戦う司書と神の石剣』(☆☆)
戦う司書と追想の魔女』(☆☆☆☆☆☆☆)
戦う司書と荒縄の姫君』(☆☆☆☆☆)
戦う司書と虚言者の宴』(☆☆☆☆☆)
『戦う司書と終章の獣』(☆☆☆☆☆☆☆)
『戦う司書と絶望の魔王』(☆☆☆☆☆☆☆)
『戦う司書と世界の力』(☆☆☆☆☆☆☆☆)


感想:『ベン・トー 5 北海道産炭火焼き秋鮭弁当285円』

2010年01月29日 21時50分57秒 | アサウラ
ベン・トー〈5〉北海道産炭火焼き秋鮭弁当285円 (集英社スーパーダッシュ文庫)ベン・トー〈5〉北海道産炭火焼き秋鮭弁当285円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 660(税込)
発売日:2010-01-22


ベン・トー最新刊。
三章立てだが、第一章は本筋とはややかけ離れている。主人公と著莪あやめの二人の”狼”を外部の目から描いた手法は、ここまで積み重ねてきたからこそできるもの。ホブヤーのダメさ加減も上手く、それが章ラストの展開へとうまく繋がっている。

二章・三章は”ダンドーと猟犬群”との戦いを軸にしながらも、主人公の恋愛を絡めて戦う理由を描いた熱い内容となった。やはり『ベン・トー』は熱くなければならない。そして、ここまで熱くなるにはバカでなければならない。自分の気持ちに真っ正直で、見栄も衒いも無く、ただひたすらに己の欲するところに従うバカさ。
王道的なストーリーではあるが、主人公がそのバカさを受け入れるまさに山場に、その感情を”セガ”に託す作者の大バカっぷりもまた語り継ぐべきうつけっぷりだろう。

それにしても、もともとそうだが、この作品、本当にライトノベル?と思うほどページに文字が詰まっている。会話が少なめで地の文が多く、改行も少ない。文章がこなれてきて読みやすくはなったが、それでも普通のライトノベルよりも読むのに時間が掛かる。あとがきによると、毎回相当量削除されているらしい。この5巻は341ページと厚めだが、それでも相当削ってのことだという。白粉の活躍の場面が少ない点などに削られた影響は感じるが、ノーカット版を読んでみたくもあり、それだけ削ってようやく読めるレベルになったのかと思わないでもない。
アクションシーンについては未だに描写に難を感じている。本書でもクライマックスの戦闘場面は盛り上がり不足に感じた。小説やコミックをアニメ化して欲しいと思うことは稀だが、この作品だけはアニメで動いているところを見てみたい。単純な文章力というより、全体的な見せる技術に未熟さがあるせいだが、それでもなおこの面白さなのだから恐れ入る。(☆☆☆☆☆☆☆)




これまでに読んだアサウラの本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

ベン・トー―サバの味噌煮290円』(☆☆☆☆)
ベン・トー〈2〉ザンギ弁当295円』(☆☆☆☆☆)
ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円』(☆☆☆☆☆☆☆☆)
ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円』(☆☆☆☆☆)


感想:『3月のライオン』1~3巻

2010年01月29日 00時26分08秒 | アニメ・コミック・ゲーム
3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)
価格:¥ 490(税込)
発売日:2008-02-22


二階堂を見て瞬時にそのモデルが誰か分かる程度の将棋ファンである(大崎善生『聖の青春』はもちろん読んでいる)。梅田望夫『シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代』の感想にも書いたが、将棋は指すことよりもスポーツ観戦のように観ること主体で関心を持っていた。
過去の将棋マンガでは、『月下の棋士』には違和感が強く、『ハチワンダイバー』は未読。将棋の一ファンとして、本書はとても引き込まれる作品だった。

作者の羽海野チカと言えば『ハチミツとクローバー』であるが、以前は興味がなかった。BSマンガ夜話で取り上げられたのを見て以来読みたいと思っていたがこれまで機会が無かった。アニメや実写も見ていない。従って、初めての羽海野チカである。
BSマンガ夜話でマンガ読みとしてのリテラシーが必要な作品と言われていたが、本書を読んで実感できた。特に帯のように横のラインに文字が入る手法はなかなか独特の感覚がある。

ストーリーはまだなんとも言えない。悪役っぽく登場した後藤が悪って感じでもなかったり、島田がいい味出していたりと徐々に大人に魅力的なキャラクターが出てきて、話の幅が膨らんできた。宗谷名人がどんなキャラクターとして登場してくるのかが今後の注目点だろうか。
一方、香子の造形はやや深みに欠ける印象も。重層的なキャラクターのバランスの中でもう少しひねりが欲しいところだ。

読書メーターのコメントにも書いたが、『ヒカルの碁』の続編的な感覚でこの作品を捕らえている。もちろん、多くの違いはあるが、勝負の結果がすぐに見える形で現れる厳しい世界で、支えてくれる人はいても最後には自分ひとりで戦わねばならない生き方を選んだ人の姿を描いている。年齢や性別は問われない。努力が成果として現れるかどうかは分からないが、結果は全て当人の負うところのものだ。羽生名人が以前語っていたが、将棋は他のスポーツと違い天候などに左右されない。運の要素が極めて少ない勝負である。責任転嫁の許されない厳しい勝負だ。そこで高みを目指そうとする姿はそれだけで見る者をしびれさせる。様々な違いはあれど、その厳しさをキチンと描く限り、この二つの作品は繋がっている。


感想:『日常』1~4巻

2010年01月29日 00時02分13秒 | アニメ・コミック・ゲーム
日常 1 (角川コミックス・エース 181-1)日常 1 (角川コミックス・エース 181-1)
価格:¥ 567(税込)
発売日:2007-07-26


コミックダッシュ!で見掛けて気になっていたギャグマンガ。古本で4巻まで購入。既刊は5巻まで。

変なマンガは珍しくないが、つかみどころがない印象の作品だ。1話は8~12ページのものが多いが、4ページとかもある。四コマではないが、四コマもある。
1話目がロボ女子高生の話だが、彼女はメインというよりサブキャラに近い。ベタだったり、シュールだったり、ギャグの方向性もバラバラ。驚いたときの描写がとても古典的だったり、崩した絵が違和感ありまくりだったりで、絵はお世辞にも上手いとは思えない。基本的に女の子たちがメインだが、可愛いとも言い難く、萌え系と呼んでいいのか疑問に思う。タイトルは『日常』だが、『あずまんが大王』のような日常の些細な出来事を描く空気系ではなく、あくまでもギャグである。

で、ギャグマンガの価値は笑えるかどうかにある。決してギャグの質が高いわけではないので、人に勧めようとは思わない。でも、まるっきり笑えないわけでもない。下手な鉄砲もではないが、1話1話は短いので1冊の収容話数が多く、中には当たりもあるという感じ。当たり率はそう高くないが。基本、馬鹿馬鹿しさの追求って路線なので、シュールよりもベタな方が面白いものが多いか。
私にとっては、新刊で買おうとまでは思わないが、古本でなら次の巻も買ってもいいかなと思うくらいの作品だ。


アニメ感想:刀語 第1話「絶刀・鉋」

2010年01月28日 22時34分25秒 | アニメ・コミック・ゲーム
テンポ良くケレンもあり上々の出来といった感じの第1話だった。1時間の長丁場だがダレることなく見せ切ったのはなかなかのもの。

ナレーションにやや違和感を覚えたが、アクションシーンの描写はしっかり見せ場も作られていて良かった。キャラクターについては1話なのでこんなものだろう。
原作を読み終わった上で見ていると、やはり伏線が気になるところ。恐らく原作に忠実な展開となるだろうから、要所の描き方ににやりとしてみたり。
『化物語』シリーズとは異なり王道的なスタイルは、元永監督&シリーズ構成上江洲コンビで何作か見ているので信頼できそうだ。
1ヶ月1話で間隔が開くため、前回までの粗筋を上手く織り交ぜることが肝要だろう。原作はややそれが冗長すぎた。

毎日放送では次回2月10日である。

刀語 OP主題歌 「冥夜花伝廊」刀語 OP主題歌 「冥夜花伝廊」
価格:¥ 1,200(税込)
発売日:2010-01-27



感想:『ハーモニー』

2010年01月27日 18時29分59秒 | 本と雑誌
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2008-12


下世話に評価の話から。
昨年夏以来読書モードに突入し、その感想をここに記してきた。☆10個を最大とする評価を付け始め、250冊を越える小説・ノンフィクションで最高は☆8つ。『図書館革命』と『ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円』の2冊が該当するが、この2冊は共にシリーズの中の1冊である。シリーズであることを前提とした評価となっている。そして、本書『ハーモニー』は初のシリーズではない☆8つとなる作品となった。

読書メーターに残したコメントは、「私の読みたい現代SFにやっと出会えた!けれど、これが遺作とは。」というもの。書きたいことは山ほどあるが、コメント欄はそれを書くには狭すぎる。

私にとって、本書こそがSFである。現代の一面を切り取り、それを論理によって発展させた世界を描く。どう切り取り、どう発展させるかが作者の腕の見せ所である。
健康や清潔に対する現代人の異常なこだわりに着眼し、その突出した世界を描いてみせた。生府による社会システムは、法ではなく「空気」によって支配されている。ユートピアでありながら、その息苦しさを女の子の視点から共感するよう仕向けた冒頭部が絶妙。ジャングルジムの話だけで世界に引き込まれた。

しかし、物語の展開はそれだけに留まらない。
以下ネタばれ。

「ユートピア」からの救済。それは、息苦しさを感じる「わたし」の消去だった。社会からの疎外感は現代に生きる者に宿命付けられた病であるが、肉体的な病魔を駆逐した後に精神的な病に相対するのは当然の方向性だったと言える。そして、その唯一の解決がこれだというのも当然だ。
個人ではなくヒトという種を重視したとき、その行き着く先がアリやハチのような社会的昆虫のようになるという皮肉。だが、我々がありがたがっている個人の確立なんてたかだか200年ちょっとの歴史に過ぎない。当たり前のように感じる「わたし」は決して当たり前の存在ではない。
本書を読んでいて対比として強く想起したのが山本弘。AIがボディを得、意識を獲得していく彼の一連の作品は、ヒトが意識を捨てる本書と対照的だ。だが、本質的にはヒトの限界の先にAIという新たな種を規定する山本弘もまた伊藤計劃と同じ視点から出発していると言えるだろう。


ヒト、特に日本人の欠点を抉ってみせたところもつい共感してしまう。いっそ日本なんて滅びちゃえばいいのになんて願望がもたげてしまうが、世界をある意味滅ぼした本書のラストに満足感を得るのもそうした流れを押しとどめることなく描き切ったせいだろう。
『虐殺器官』も言葉によってヒトをコントロールする物語だったが、余計なものが多すぎた。それらを削ぎ落とし、容赦なく最後まで走り続けた点が高評価に繋がったわけだが、同時にそれは遺作だからこそできたことかもしれない。
トァンのミァハに対する心情の描写がやや不十分な感はあるが、etmlというメタフィクション構造という仕掛けによって相殺されている。この仕掛けの妙も含めて21世紀最高のSFだと宣言したい(そんなにSFを読んでるわけじゃないが)。


欠点と言えば、『虐殺器官』にも見られたパロディ。作者のビョーキだと思って諦めてはいるが、やっぱり必要ないでしょ(笑)。(☆☆☆☆☆☆☆☆)




これまでに読んだ伊藤計劃の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

虐殺器官』(☆☆☆☆)


SFファン度調査 SF本の雑誌オールタイムベスト100版 パート2

2010年01月25日 00時04分40秒 | 本と雑誌
パート1に引き続き、51位から100位までを見ていく。「SFファン度調査 SF本の雑誌オールタイムベスト100版」のリストを参考にしている。

51. 〈魔王子〉シリーズ ジャック・ヴァンス

調査では10%ほどの率となっているが、珍しく読み通したシリーズ。全5冊所有・読了。とはいえ、内容はもう覚えていないが。

52. 『一角獣・多角獣』 シオドア・スタージョン

シオドア・スタージョンと言えば『人間以上』。それは所有・読了している。『一角獣・多角獣』は未読。また、スタージョンと言えば「スタージョンの法則」もよく知られている。私もよく使ってしまうが、Wikipediaによると「どんなものも、その90%はカスである」という法則は本来のスタージョンの法則とは別だというが。

53. 『ふりだしに戻る』ジャック・フィニイ

ジャック・フィニイと言えば『盗まれた街』だが、『ふりだしに戻る』ともども未読。

54. 『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア

カート・ヴォネガット・ジュニアで持っているのは『スローターハウス5』のみ。読んだのもこの一冊だけだと思う。カート・ヴォネガット・ジュニアでは『スローターハウス5』や『猫のゆりかご』が真っ先に思い浮かぶ。

55. 『ディファレンス・エンジン』ウィリアム・ギブスン&ブルース・スターリング

1991年に角川書店から刊行されている。ウィリアム・ギブスンとブルース・スターリングの共著があったことは覚えているが、タイトルは失念していた。もちろん未読。

56. 『Self‐Reference ENGINE』円城塔

円城塔は勧められ興味を持ってはいるがまだ手を出していない。

57. 『火星夜想曲』イアン・マクドナルド

1997年に邦訳された作品。それ以前にもハヤカワ文庫FTで出ていたようだが著者の名前もほとんど知らない。もちろん、未読。

58. 『イシャーの武器店』A・E・ヴァン・ヴォークト

『宇宙船ビーグル号の冒険』『非Aの世界』で知られるA・E・ヴァン・ヴォークトだが所有はなし。恐らく読んだことはない。少なくとも、『イシャーの武器店』は未読。

59. 『パヴァーヌ』キース・ロバーツ

邦訳は本書のみというイギリスのSF作家。サンリオ文庫刊で後に扶桑社から再刊されている。マイナー作品は嫌いではないが、マイナーすぎて初耳ではどうしようもない(苦笑)。

60. 『ソフトウェア』ルーディ・ラッカー

どんな作家も1冊くらいは持ってるものだがルーディ・ラッカーは1冊もなし。読んだこともないと思う。著者の名前は記憶しているが、著作のタイトルは思い浮かばない作家だ。

61. 『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン

順位に意味があるかどうか不明だが、61位という順位にはかなり不満を感じてしまう。とはいえ読んだのは『星を継ぐもの』『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』だけで、その続編『内なる宇宙』は存在を長らく知らなかった。他に『プロテウス・オペレーション』を所有しているが未読。

62. 『銀河英雄伝説』田中芳樹

人生を狂わせた一冊なんて言いたくなるほどの作品。徳間ノベルズで読んだ。これ以上語ることも不要な作品である。

63. 『エリコ』谷甲州

谷甲州は『仮装巡洋艦バシリスク』など4冊所有。何冊かは読み、何冊かは積読。『エリコ』はその中に入っておらず未読。

64. 『かめくん』北野勇作

持ってるような気もしたがリストにはなかった。読んではいない。第22回日本SF大賞受賞作。

65. 『美亜へ贈る真珠』梶尾真治

梶尾真治は『地球はプレイン・ヨーグルト』等7冊所有。『美亜へ贈る真珠』表題作などは『地球はプレイン・ヨーグルト』に所収されているが、本としては読んでいない。

66. 『涼宮ハルヒの憂鬱』谷川流

オールタイムベストに入るような作品かどうかは大いに疑問の余地があるが、嫌いな作品ではない。既刊はすべて読んだが、新刊はいつになることやら。

67. 『神は沈黙せず』山本弘

『アイの物語』『地球移動作戦』の2冊を読んだ。『地球移動作戦』はオールタイムベストの上位に入れても遜色ない作品だ。

68. 『タイム・パトロール』ポール・アンダースン

ポール・アンダースンは『脳波』を所有。ただし、積読。他も恐らく読んでいない。

69. 『ロードマークス』ロジャー・ゼラズニイ

ロジャー・ゼラズニイは『わが名はコンラッド』及び「真世界アンバー」シリーズを所有。アンバーシリーズはたぶん読了。『ロードマークス』のタイトルは初耳かも。

70. 『エンジン・サマー』ジョン・クロウリー

ジョン・クロウリーの名は聞き覚えがない。当然、本書は未読。

71. 『タイム・リープ あしたはきのう』高畑京一郎

未所有・未読ではあるが、ラジオドラマで聞いた。一度読んでみたいと思っている作家である。

72. 『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード

持っているが積読状態。『ハイペリオン』を読み終わったら次に読もうと思っているのだが、いつになることやら。

73. 『そばかすのフィギュア』菅浩江

菅浩江で持っているのは『メルサスの少年』だけ。それも未読なので恐らく菅浩江はまだ読んだことのない作家ということになる。

74. 『レモン月夜の宇宙船』野田昌宏

『銀河乞食軍団』を9巻まで所有(外伝は2巻まで)。その途中までは読んでいる。『レモン月夜の宇宙船』は未読。

75. 「グリーン・レクイエム」(短篇)新井素子

「グリーン・レクイエム」が新井素子の代表作のひとつであることは間違いないが、新井素子らしさが表れた作品であるとは言いがたい。とはいえ、新井素子をSFのオールタイムベストに入れる際には妥当なチョイスではあるのだが。講談社文庫版を所有している。

76. 『幻詩狩り』川又千秋

山田正紀『神狩り』と並び、私の日本SFオールタイムベストの1冊。第5回日本SF大賞受賞作。

77. 『川の書』イアン・ワトスン

サンリオ文庫からも刊行されているので知っていていいはずの作家だがほとんど記憶にない。もちろん、本書も未読。

78. 『バケツ一杯の空気』フリッツ・ライバー

70年代から邦訳が出ている作家だがこれもまた記憶にない。イアン・ワトスンもそうだが愛読書たる『世界のSF文学総解説』に掲載されている作家なのに……。

79. 『ヴァレンタイン卿の城』ロバート・シルヴァーバーグ

持っているが読んでいない。ロバート・シルヴァーバーグは他も読んだことはない。

80. 〈リバーワールド〉シリーズ フィリップ・ホセ・ファーマー

フィリップ・ホセ・ファーマーは『恋人たち』を所有。たぶん読んでいないはず。他も読んでいない。

81. 『虚空の遺産』エドモンド・ハミルトン

スペースオペラ作家という印象のあるエドモンド・ハミルトン。そのせいかちょっと古臭いSFというイメージが先行して敬遠していた。所有なし。読んだこともないと思われる。

82. 『カエアンの聖衣』バリントン・J・ベイリー

バリントン・J・ベイリーは『禅銃』を所有。読んだかどうかは定かではない。『カエアンの聖衣』も未読だろう。

83. 『恋のサイケデリック!』鈴木いづみ

ハヤカワ文庫版を持っている。たぶん読んでいる気がするが怪しいところ。調査の読者数では下から数えて2番目である。

84. 〈猫の地球儀〉二部作 秋山瑞人

持っていていつか読もうと思うばかりで積読が続いている。代表作の『イリヤの空、UFOの夏』も未読。

85. 『時間的無限大』スティーヴン・バクスター

90年代に入ってからの作家なので、タイトルを知っているのは『天の筏』くらい。もちろん、未読。

86. 『ゲイトウエイ』フレデリック・ポール

著者の名は知っていてもあまりイメージがない作家だった。所有なし。読んだ作品もないと思う。

87. 『老ヴォールの惑星』小川一水

勧められて小川一水の作品はそこそこ読んだが、正直『老ヴォールの惑星』はその中で平均以下という印象。確かに小川一水の作品の中では最もSF的だが、SFであることで小川一水の魅力が失われているのでは本末転倒だ。SF的評価のくだらなさがここにある。

88. 『海を見る人』小林泰三

『SFが読みたい!』でベストテンに何度かランキングされていて名前を知っている程度で、読んだことはない。作品へのイメージもなく、今のところあまり興味がない作家である。

89. 『逆転世界』クリストファー・プリースト

著者の名前は知っているが、所有はなし。読んだこともなし。

90. 〈ブラックロッド〉三部作 古橋秀之

三冊とも持っているが、長らく積読。最近ライトノベルのことを色々と調べてその価値を知った作品とも言える。『タツモリ家の食卓』も持っているがこちらも未読。

91. 『太陽の簒奪者』野尻抱介

著者の名を知ってから興味を持ち何冊かは所有しているがいまだ読んだことはない。『ロケットガール』のTVアニメはチラッと見たがもうひとつの印象だった。

92. 『キャッチワールド』クリス・ボイス

ほとんど記憶にない作家であり作品。『世界のSF文学総解説』に記載はあるが印象に残っていなかった。

93. 『MOUSE』牧野修

小林泰三と同じく『SFが読みたい!』のランキングで名前を知った程度。今のところ興味なし。

94. 『中継ステーション』クリフォード・D・シマック

もちろん著者の名前は知っているし代表作が『都市』というのも微かだが覚えていた。ただ読んだことはないし、所有もなし。

95. 〈レンズマン〉シリーズ E・E・スミス

私が一番読んでいた頃は海外SFではスペースオペラへの評価が低く逆にヒロイック・ファンタジー系の評価が高かった。従ってスペースオペラの代表的作家E・E・スミスは所有なしで読んでもいないと思われる。

96. 〈火星〉シリーズ エドガー・ライス・バローズ

E・E・スミス同様エドガー・ライス・バローズも所有なし、読んでもいない。ヒロイック・ファンタジーならロバート・E・ハワードのコナンシリーズのように持っている作品もあるのだが……。

97. 『最後にして最初の人類』オラフ・ステープルドン

オラフ・ステープルドンは『オッド・ジョン』のイメージがあるが、『世界のSF文学総解説』でも高く評されているためその名はよく覚えている。ただ所有作はなく、読んだ作品もなさそうだ。なお、調査では読者数最低になっている。

98. 『幼年期の終わり』アーサー・C・クラーク

順位は意味がないと思いつつも98位って……と思ってしまうSFオールタイムベストで10位以内になければならない作品だろう。遥か昔に読んだが持っていないので再読しづらい。読み返したい思いはあるのだが。クラークは『2001年宇宙の旅』などを所有している。

99. 〈グイン・サーガ〉栗本薫

持っているのは半分にも満たない48巻まで(外伝は9巻)。読んだのは更に少なく40巻を超えたかどうか。それでも未完に終わった今、最後まで読んでみたいという思いはある。栗本薫は中島梓名義も含めると所有数は100冊を超える。ミステリだが『猫目石』が一番好き。また、『小説道場』も思い入れのある作品だ。

100. 「タイム・マシン」H・G・ウエルズ

SFの祖H・G・ウエルズだがちゃんと読んだ記憶はない。所有もなし。




ジューヌ・ヴェルヌはまだしも、アイザック・アシモフが入っていなくてオールタイムベストと言えるのかと思ってしまうかいかに。作品ではダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』、ジョージ・オーウェル『1984年』、フランク・ハーバート「デューン」シリーズなども欠けている。トム・ゴドウィン「冷たい方程式」辺りも入っていて良かったのでは。アン・マキャフリー、デイビッド・プリン、グレッグ・ベアも入っていておかしくはない作家たちだ。
日本の作家では有川浩がまず浮かぶが、あとは比較的妥当な感じか。それでも、かんべむさし、高千穂遥、田中光二が……と探していたら、平井和正、豊田有恒が入っていないのに気付いた。
SFという枠で捉えることがいいかどうかは分からないが、SF的なアイディアが含まれる作品はいくらでもあるし、SFの範疇に入れられる作品も数多い。エンターテイメントや文学の仕掛けとしてSFは今でも機能しているのは確かだ。SF的評価にこだわることは作品の普遍性を損なっているのが現状であり、SFの名を出さない方が手に取りやすい事実は元SFファンとしては哀しいが私自身そう思ってしまう。
拡散と浸透の後のSF界がただの残りかすでないことを示して欲しいところであるが……。


SFファン度調査 SF本の雑誌オールタイムベスト100版 パート1

2010年01月24日 20時58分45秒 | 本と雑誌
SFファン度調査 SF本の雑誌オールタイムベスト100版」というサイトがある。以前紹介してもらっていながらまだ読んでいない『SF本の雑誌』に掲載されたオールタイムベスト100の作品を読んだかどうかチェックするCGIで、これまでの投稿者の票数も見ることができる。

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価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-07-02


折角なのでブログのネタとしてベスト100を取り上げてみたい。

1. 『万物理論』グレッグ・イーガン

グレッグ・イーガンが国内で翻訳されるようになったのは1999年から。その頃にはほとんどSFを読まなくなってしまっていたので、これまで読む機会はなかった。1999年からスタートした『SFが読みたい!』では、『宇宙消失』『祈りの海』『万物理論』『ディアスポラ』の4作が海外部門1位を獲得している。

2. 『ソラリス』スタニスワフ・レム

1965年刊行の『ソラリスの陽のもとに』という早川書房版のタイトルの方が馴染みだが、著名なタイトルの割に手を出す機会が無かった。1972年と2002年に映画化もされているがどちらもちゃんとは見ていない。東欧系SF作家の作品ということでやや身構えてしまうせいだろうか。2004年に国書刊行会から出版されたせいか、「SFファン度調査」では読者数順7位と高い位置を占めている。

3. 『マイナス・ゼロ』広瀬正

もちろんその名は知っているが、これまた読んだことがない。いつも読まねばと思いつつ手を出していない作家の一人だ。1970年の作品だが2008年に再刊されている。

4. 『故郷から10000光年』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

J・ティプトリー・ジュニアは『愛はさだめ、さだめは死』『たったひとつの冴えたやりかた』『老いたる霊長類の星への賛歌』の3冊を所有。その全てを読んでいるとも言い難く、関心の高さが実際の読書に結び付いていない。

5. 『虚航船団』筒井康隆

読もうとした覚えはあるが読んだ記憶はない。筒井作品は30冊以上所有しているが、初期の短編集が多い。長編で好きなのも『七瀬ふたたび』で初期の作。好きな作家ではあるが、優等生的読者ではなかったのは明らかだ。

6. 『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター

所有しているのは『分解された男』だけだが、読んだはず。借りて読んだ本というのは時間が経って記憶が曖昧になると読んだかどうか分からなくなるから困る(笑)。機会があればちゃんと読み直したい作品だ。読者数順でも5位に入っている。

7. 『ユービック』フィリップ・K・ディック

フィリップ・K・ディックは代表作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『高い城の男』を読んでいる。だが、『ユービック』というタイトルは記憶にない。

8. 〈ハイペリオン〉四部作 ダン・シモンズ

『ハイペリオン』上巻の半分を読んだところで止まってしまっているので読んだうちには入らない。長く積読だったのをようやく読み始めたのに……。読まねばと思うほど読めないものだ。

9. 〈十二国記〉小野不由美

小野不由美のファンだが、あえて言おう。『十二国記』って本当にSFのオールタイムベストで9位に入るべき作品なのか?私自身は『図南の翼』は何度も繰り返し読んだほど好きだが、本編(『図南の翼』は番外編的)の方はそれほど評価していない。世界観の独創性は他のファンタジーと比較して突出してはいるが、物語の展開が遅々として進んでないためそれが十分に物語にフィードされているかも微妙に思う。ちょっと祭り上げられすぎているようなのが気になってしまう。

10. 『百億の昼と千億の夜』光瀬龍

所有しているが、読んだかどうか不明。萩尾望都によるコミックは読んでいる。光瀬龍では『たそがれに還る』は読んだ記憶があるが……。

11. 『火星年代記』レイ・ブラッドベリ

既読。もちろん小説も素晴らしいが、映像化された作品も素晴らしかった印象が残っている。映画だったと思っていたら総計5時間というTVドラマのようだ。深夜にTVで放映されたものをたまたま見て引き込まれたことがあった。ブラッドベリでは『十月はたそがれの国』といった短編集も懐かしい思い出だ。

12. 『地球の長い午後』ブライアン・W・オールディス

1962年のヒューゴー賞受賞作というSFの古典。名前は知っているが読んだことはない。

13. 『時は準宝石の螺旋のように』サミュエル・R・ディレイニー

ディレイニーは『バベル-17』を苦労して読んだ記憶が。『時は準宝石の螺旋のように』はあのサンリオ文庫版しかないのね。サンリオ文庫というとどうしても翻訳のひどさが思い出されてしまうけれど、本書は大丈夫だったのかな。

14. 〈新しい太陽の書〉五部作 ジーン・ウルフ

邦訳されたのが1986年だから知っていても良さそうなのだが、ジーン・ウルフはほとんど知らない作家。「新しい太陽の書」も記憶に無い。

15. 『消滅の光輪』眉村卓

眉村卓はジュブナイルSFの印象も強いが、持っているのは『EXPO'87』『滅びざるもの』の2冊。『消滅の光輪』の属する「司政官」シリーズは読んだ記憶が無い。

16. 『虐殺器官』伊藤計劃

作品への評価はともかく、読んだばかりの作品。現在『ハーモニー』を読んでいるところ。

17. 『鼠と竜のゲーム』&『シェイヨルという名の星』コードウェイナー・スミス

コードウェイナー・スミスは『ノーストリリア』『鼠と竜のゲーム』を所有しているが未読。いつか、きっと、読む、はず。

18. 『伝奇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス

幻想文学の短編集。私がSFファンだった頃はSFの文脈で取り上げられた記憶がないのだけれど。もちろん、読んでいない。

19. 『ストーカー』アルカジイ&ボリス・ストルガツキー

ソ連のストルガツキー兄弟の作品でタルコフスキーによって映画化されているが、共に見ていない。

20. 『アラビアの夜の種族』古川日出男

古川日出男は『ベルカ、吠えないのか?』の著者として知ってはいたが読んだことはなかった。しかし、つい最近「ウィザードリィ」小説との関わりで本書の存在を知り図書館に予約を入れたばかり。シンクロニシティってことで(笑)。第23回日本SF大賞受賞作。

21. 『レ・コスミコミケ』イタロ・カルヴィーノ

イタリア文学者だというが全く知らない。幻想文学短編集。

22. 『兇天使』野阿梓

野阿梓は『武装音楽祭』を所有・読了。耽美系はいいがちょっととっつきにくさも感じる作家。

23. 『時間封鎖』ロバート・チャールズ・ウィルスン

『SFが読みたい!』2008年版1位。最近の海外SFは情報不足だが、読むよう教えてもらった作品で機会をうかがってはいる。

24. 『ヴァーミリオン・サンズ』J・G・バラード

バラードで所有しているのは『結晶世界』のみで一応読んだ覚えが。スティーヴン・スピルバーグによって映画化された『太陽の帝国』は劇場で見た。「スペキュラティブ・フィクション」「インナースペース」等独創的な作風だがそれだけに難解でもあった。『ヴァーミリオン・サンズ』は短編集で未読。

25. 『エイダ』山田正紀

私にとって山田正紀と言えば『神狩り』。その衝撃は今も強く残っている。その後、初期作品を中心に読んだがさほど印象に残るものはなかった。1994年刊行の『エイダ』についてはよく知らない。

26. 「結晶星団」(短篇)小松左京

小松左京と言えば映像化された代表作『日本沈没』『復活の日』を読んだことがない。もちろん映画はTVで見たことはあるが。『果てしなき流れの果に』『日本アパッチ族』『エスパイ』といった初期の長編や『首都消失』は読んでいる。ただ、私も小松左京の代表作と問われると短編を挙げたい。私の場合は「夜が明けたら」を挙げるだろうが。

27. 『あなたの人生の物語』テッド・チャン

薦められて読んだ本だが素晴らしい内容だった。SFとはアイディアであるというその本質に改めて気付かせてもらった作品。寡作であることがこれほど残念な作家もいないだろう。

28. 『ボッコちゃん』星新一

持っているのはそう多くはないが、所有している本である。借りて読んだ分も含めればかなりの量のショート・ショートは読んだと思う。その中でも「おーい でてこーい」のインパクトは強烈だった。最相葉月の『星新一 一〇〇一話をつくった人』も必読の一冊だろう。

29. 『戦闘妖精 雪風・改』神林長平

改訂版ではない『戦闘妖精・雪風』は読んだ。所有は12冊だが、『あなたの魂に安らぎあれ』も借りて読んだ。SFらしいSFだけに、SFを離れた身としてはちょっととっつきにくいが。

30. 『産霊山秘録』半村良

所有しており、たぶん読んだはず。半村良では『石の血脈』の方が印象に残る。また、非SFながら『下町探偵局』も好きな作品だった。短編では「収穫」が思い出深い。

31. 『九百人のお祖母さん』R・A・ラファティ

R・A・ラファティはこの1冊だけ所有しているが積読状態。

32. 『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーヴンスン

邦訳が1998年なのでほとんど知らない作家・作品である。

33. 『闇の左手』アーシュラ・K・ル・グィン

所有は3冊だが読んだのは本書のみだと思う。ストーリーなどはほとんど覚えていないが強烈なインパクトを受けたということは記憶している。読み返したい作品のひとつだ。

34. 『アド・バード』椎名誠

第11回SF大賞受賞作。椎名誠は恐らく1冊も読んだことがない。評判は聞いているが、なんとなく機会がなかった。SF周辺作家って哀しいくらい読んでなかったりする。

35. 『マルドゥック・スクランブル』冲方丁

『天地明察』を図書館に予約したばかりだが、冲方丁もまだ読んだことがない作家だ。『マルドゥック・スクランブル』も書架に2巻と3巻はあるのに1巻がない。予約を入れれば済むことだがつい他の本を優先してしまっていた。ちゃんと腰を据えて読みたいと思っている作家なのだが。第24回日本SF大賞受賞作。

36. 『上弦の月を食べる獅子』夢枕獏

夢枕獏は「キマイラ・吼」シリーズや「魔獣狩り」シリーズなど初期の作品を読んでいる。『上弦の月を食べる獅子』も初期の作品であり、早川書房の「新鋭書下ろしSFノヴェルズ」から刊行されていたので、もしかしたら借りて読んだ可能性もある。第10回日本SF大賞受賞作。
☆調べてみたら、「新鋭書下ろしSFノヴェルズ」刊行予定ではあったものの、最終的にはこのレーベルではない形で出版された模様。だとしたら、読んでない可能性が高そうだ。

37. 『犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』コ ニー・ウィリス

コニー・ウィリスは『ドゥームズデイ・ブック』を読了。時間旅行を扱った非常に刺激的な作品だった。同一シリーズと言える本書は読んでみたい本としてずっと思っている。読みやすいとはいえ海外SFはどうしても手に取るのを躊躇する傾向が……。

38. 『シャングリ・ラ』池上永一

2009年TVアニメ化され、それは数話見た。世界観などはやや類型的とはいえ興味深かったが、ヒロインの造形に難が感じられて途中で見なくなった。原作は未読なのでアニメの出来だけで判断はできないと思っている。

39. 『闘技場』フレドリック・ブラウン

取り上げられているのは2009年に刊行されたボクラノSFという福音館書店のレーベルの短編集。フレドリック・ブラウンは長編『火星人ゴーホーム』、短編集『未来世界から来た男』の2冊を所有。共に読んでいるはず。

40. 『ブルー・シャンペン』ジョン・ヴァーリイ

『へびつかい座ホットライン』のタイトルはうろ覚えながら、著者の名はすっかり記憶の外にあった。当然、本書についても初耳。1994年刊行の短編集だという。

41. 〈ナイトウォッチ〉三部作 上遠野浩平

上遠野浩平と言えばデビュー作でもある『ブギーポップは笑わない』が代表作。ブギーポップシリーズはこの第1作は読み、2作目辺りで止まったと思う。ほとんどが積読だが、13冊を所有し、うち一冊はナイトウォッチシリーズ第1作『ぼくらは虚空に夜を視る』である。未読だけれど。

42. 『銀河ヒッチハイク・ガイド』ダグラス・アダムス

本書及びシリーズ第2作『宇宙の果てのレストラン』を所有、読了。このような破天荒なバカ話は大好きだ。読んだのは昔だが、そんな印象は今でも残っている。

43. 『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン

サイバーパンクSFが喧伝され頑張って読んだ。黒丸尚の翻訳は印象的だった。作品の内容はさっぱり覚えていないが。

44. 『メンタル・フィメール』大原まり子

持っているが恐らく読んではいない。大原まり子は『一人で歩いていった猫』『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』辺りが印象的だったが、積読作品も多い。

45. 『象られた力』飛浩隆

勧められてはいるが、まだ読んだことのない飛浩隆。第26回日本SF大賞受賞作。

46. 『リングワールド』ラリイ・ニーヴン

所有・読了。内容は覚えていないが、幸運の遺伝子を持つヒロインという魅力的な設定は覚えている。ラリイ・ニーヴンは最もSFらしいSFを書く作家というイメージを持っているが、それが読もうという気に繋がらないのが哀しいところだ。

47. 『異星の客』ロバート・A・ハインライン

ハインラインは代表作も多いが、中でも『夏への扉』は忘れがたい作品だろう。その『夏への扉』や『人形つかい』あたりは読んでいるが、『異星の客』は未読。というかタイトルも覚えがないような作品だったりする。

48. 『デカルトの密室』瀬名秀明

瀬名秀明はデビュー作にして代表作の『パラサイト・イヴ』を持ってはいるが読んでいない。もちろん、他の作品に至ってはタイトルもほとんど知らない状態。

49. 『グランド・ミステリー』奥泉光

奥泉光は名前は聞いたことがある程度なので、その著書についてはさっぱり分からない。ミステリ畑の印象があるが。

50. 『太陽風交点』堀晃

徳間文庫の本書は所有。読んでいるはず。堀晃と言えば、現在本人のHPで公開されている「梅田地下オデッセイ」が読みたくて古本屋漁りをしたこともあった。




さすがに100冊は大量なので、半分に分ける。以下、パート2に続く。

以前、蔵書リストを作った。今回、それを参考にしていたが、どうも抜けが気になった。約3年前の作成なので、その後さほど増えてはないが、本の置き場所を探す時にも利用しており、少しずつ置き場所を変更しているせいかその点でも作り直しの機運は高まっている。とはいえ、一朝一夕にできるものでもないので、今年の目標程度にしておこう。


感想:『刀語』

2010年01月23日 18時37分38秒 | 本と雑誌
刀語 第十二話 炎刀・銃 (エントウ・ジュウ) (講談社BOX)刀語 第十二話 炎刀・銃 (エントウ・ジュウ) (講談社BOX)
価格:¥ 1,155(税込)
発売日:2007-12-04


毎月1冊ずつ刊行され1年で完結した『刀語』全12冊を読み終えた。

これが西尾維新の代表作かと問われると即座に「否」と言うだろう。『戯言』シリーズのアクの強さもなければ、『化物語』シリーズのキャラクター性にも欠ける。西尾維新らしい奇抜なケレン味は健在だが、ストーリー展開は王道だし、キャラクターに頼った作品とはなっていない。
演出上の仕掛けも、大規模なものは第4巻くらいで、ストレートに押し通している。チャンバラ的な剣戟の面白さも序盤こそ模索している感じだったが後半はほとんど見られなくなった。

以下、ネタばれ。
結末に関しては賛否はあるだろうが、話の展開上妥当なものだったと思う。『戯言』シリーズは話の流れに逆らった結末を持ってきたため正直がっかりした。それまで描かれてきた事柄のバランスをラストでひっくり返してしまったようなものだ。今回はそうした強引さはなく、流れに従った素直な結末と言えるだろう。派手さに欠け、カタルシスに乏しいものではあったが、つまらない小細工に走らなかった点は評価したい。

間もなくTVアニメもスタートするが、『化物語』のようなヒットは難しいだろう。質よりも量のような娯楽作品であり、ライブ感覚こそが魅力とも言える作品だからだ(TVアニメも1ヶ月1話1時間というスタイルではあるが、小説との違いを無視している感じでプラスに作用するか疑問である)。
西尾維新の代表作とは呼べないシリーズだが、このシリーズを経験したことは他のシリーズ(『戯言』以外完結していない)へいい影響が出るのではないかと期待している。シリーズを始めるのは容易でも締めるのは難しい。これを糧にキチンと締めていって欲しいものだ。




これまでに読んだ西尾維新の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』(☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女りすか』(☆☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女 りすか2』(☆☆☆☆)
クビシメロマンチスト―人間失格・零崎人識』(☆)
クビツリハイスクール―戯言遣いの弟子』(☆☆☆☆☆)
サイコロジカル〈上〉兎吊木垓輔の戯言殺し』(☆☆☆)
サイコロジカル〈下〉曳かれ者の小唄』(☆☆☆)
ヒトクイマジカル―殺戮奇術の匂宮兄妹』(☆☆)
ネコソギラジカル(上) 十三階段』(☆☆)
ネコソギラジカル(中) 赤き征裁VS.橙なる種』(☆☆)
ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い』(☆)
新本格魔法少女りすか3』(☆☆)
零崎双識の人間試験』(☆☆☆☆)
零崎軋識の人間ノック』(☆)
化物語(上)』(☆☆☆☆☆☆)
化物語(下)』(☆☆☆☆☆☆)
刀語 第一話 絶刀・鉋』(☆☆☆)
刀語 第二話 斬刀・鈍』(☆☆☆☆)
刀語 第三話 千刀・鎩』(☆☆)
刀語 第四話 薄刀・針』(☆☆☆☆☆)
刀語 第五話 賊刀・鎧』(☆☆☆)
刀語 第六話 双刀・鎚』(☆☆☆☆)
『刀語 第七話 悪刀・鐚』(☆☆☆☆☆)
『刀語 第八話 微刀・釵』(☆☆☆☆)
『刀語 第九話 王刀・鋸』(☆☆☆)
『刀語 第十話 誠刀・銓』(☆☆)
『刀語 第十一話 毒刀・鍍』(☆☆☆☆☆)
『刀語 第十二話 炎刀・銃』(☆☆☆☆)