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感想:『虐殺器官』

2009年12月27日 18時11分48秒 | 本と雑誌
虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-06


『ハーモニー』が日本SF大賞を受賞した伊藤計劃の作品。『ハーモニー』は図書館でさわりだけ読み、その独創性に興味を持っていただけに期待が大きかったが、残念ながら期待ほどの面白さは感じなかった。
著者の刊行された作品は3作のみで、本書と『ハーモニー』とあとの一冊が『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』である。ゲームのノヴェライズではあるが、評価は高い。本書が扱うのも兵士であり戦争であり雰囲気は非常に近いものがある。

面白くなかったわけではないが、テーマ、アイディアに惹かれるものがなかった。凡庸とさえ感じてしまった。更に、一兵士の物語という割に、肉体性が欠落している印象を受けた。それは独特の雰囲気を醸してはいるが、この手の欠落はありがちなため、それが独創性にまで至っているようには思えなかった。また、文中で見られたいくつかのパロディは作品の世界観とマッチしているとは言い難く、必要なかったように思う。

欠点は多く目立ちはしたが、魅力も溢れていた。構成や描写が巧みで読みやすい。エンターテナーとしての才能が伺えた。量産できればいくつかの傑作を世に生み出しただろう。既に亡くなっていることが残念で已まない。

幸い思いのほか早く『ハーモニー』を借りることができた。冒頭のみではあるが、非常に興味深かっただけに読むのが楽しみだ。『ハーモニー』の冒頭部を読んでいなければ本書への評価も変わったかもしれないが、こればかりは詮無きことである。(☆☆☆☆)