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感想:『ベン・トー 5 北海道産炭火焼き秋鮭弁当285円』

2010年01月29日 21時50分57秒 | アサウラ
ベン・トー〈5〉北海道産炭火焼き秋鮭弁当285円 (集英社スーパーダッシュ文庫)ベン・トー〈5〉北海道産炭火焼き秋鮭弁当285円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 660(税込)
発売日:2010-01-22


ベン・トー最新刊。
三章立てだが、第一章は本筋とはややかけ離れている。主人公と著莪あやめの二人の”狼”を外部の目から描いた手法は、ここまで積み重ねてきたからこそできるもの。ホブヤーのダメさ加減も上手く、それが章ラストの展開へとうまく繋がっている。

二章・三章は”ダンドーと猟犬群”との戦いを軸にしながらも、主人公の恋愛を絡めて戦う理由を描いた熱い内容となった。やはり『ベン・トー』は熱くなければならない。そして、ここまで熱くなるにはバカでなければならない。自分の気持ちに真っ正直で、見栄も衒いも無く、ただひたすらに己の欲するところに従うバカさ。
王道的なストーリーではあるが、主人公がそのバカさを受け入れるまさに山場に、その感情を”セガ”に託す作者の大バカっぷりもまた語り継ぐべきうつけっぷりだろう。

それにしても、もともとそうだが、この作品、本当にライトノベル?と思うほどページに文字が詰まっている。会話が少なめで地の文が多く、改行も少ない。文章がこなれてきて読みやすくはなったが、それでも普通のライトノベルよりも読むのに時間が掛かる。あとがきによると、毎回相当量削除されているらしい。この5巻は341ページと厚めだが、それでも相当削ってのことだという。白粉の活躍の場面が少ない点などに削られた影響は感じるが、ノーカット版を読んでみたくもあり、それだけ削ってようやく読めるレベルになったのかと思わないでもない。
アクションシーンについては未だに描写に難を感じている。本書でもクライマックスの戦闘場面は盛り上がり不足に感じた。小説やコミックをアニメ化して欲しいと思うことは稀だが、この作品だけはアニメで動いているところを見てみたい。単純な文章力というより、全体的な見せる技術に未熟さがあるせいだが、それでもなおこの面白さなのだから恐れ入る。(☆☆☆☆☆☆☆)




これまでに読んだアサウラの本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

ベン・トー―サバの味噌煮290円』(☆☆☆☆)
ベン・トー〈2〉ザンギ弁当295円』(☆☆☆☆☆)
ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円』(☆☆☆☆☆☆☆☆)
ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円』(☆☆☆☆☆)


感想:『ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円』

2009年10月04日 19時29分56秒 | アサウラ
ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円 (集英社スーパーダッシュ文庫)ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 630(税込)
発売日:2009-07


アマゾンで注文して半月ほど掛かってようやく到着。シリーズ4冊目。HP同好会合宿を描く。

1作ごとに腕を上げて来たのが見て取れ、3巻はその完成度の高さに感極まったが、技術の向上と作品の出来とは必ずしも合致しないことを表したこの4巻だった。
前作に比べ、主人公の一人称が増えたが、その描写はこれまでよりも洗練され、楽しめるものとなっている。合宿中の他のキャラクターとのやり取りも絶妙で、男子高校生らしさもきっちり表現できている。

ただ最大の魅力である半額弁当を巡るバトルの部分がかなり弱まってしまった。萌えやギャグではなく、燃えこそがこのシリーズの愁眉であり、特に3巻では圧倒的だった。この4巻では描こうとしたテーマとバトルの葛藤があり、それを乗り越えたラストではなく、一方が押し切ってしまった。

以下ネタバレ反転表示。
ストーリーの展開上、「ギリー・ドゥー」真希乃とえりかが勝つ必要があった。しかし、主人公は負けてはいけなかった。あえて2つ残っていた弁当の1つをアンに取らせ、逃げ道を封じて両者の対決に持ち込んだ訳だが、どちらかの勝利とする以外の結末を作り出さなければならなかった。それが出来なかった時点で、厳しく言えば失敗作である。
確かに、今後の展開に対する伏線や、そのための敗北という意味合いがあったのかもしれない。だが、この敗北はそのように捉えられない。勝てない主人公に魅力はない。勝てなければ物語の主人公となり得ない。シリーズを通してというだけではなく、それぞれの巻でしっかりと主人公を描かなければシリーズを通しても魅力は損なわれてしまう。もちろん、主人公が敗北すること自体は必要だろう。巻を通して勝てないことがあってもいい。しかし、それは確実に勝利へと覆されなければならない。今回の敗北は、二度と逆転できない敗北だから駄目なのだ。たとえ今後二人に何度勝とうが今回の敗北とは意味が違う。
シリーズ構成という意味でやってはいけない敗北だった。戦えなかったという結末であれば、それを乗り越えるという展開が出来たが、今回は取り返せない敗北だった。今後、二人のように様々なものを背負ったキャラクターを対峙させたとき、主人公を勝たせられるか。背負ったものの大きさで強さが決まってしまうことにならないか。
書いて世に出た以上なかったことには出来ない。キャラクターに背負わせないことで回避する手はある。しかし、それは現実的とは言えないだろう。恐らく、槍水の過去、HP同好会の過去を描けば背負うものが出てきてしまう。今回の敗北がシリーズの将来に暗い影を落とすという予感がどうしても漂ってしまう。好きな作品だけに、この不安が杞憂に終わってくれればと思わざるをえない。



感想:『ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円』

2009年08月25日 19時36分54秒 | アサウラ
ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円 (集英社スーパーダッシュ文庫)ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2009-01-23


巻を追うごとに読みやすくなっている。特に視点移動が洗練され、主人公視点の時のみ一人称だが、限りなく三人称多視点に近付いている。複数の視点から描かれることで緊迫感も増し、盛り上げるシークエンスも格段の進歩を遂げた。

ギャグでも白粉の壊れっぷりを始め、ネタも満載で切れ味が鋭くなっている。ネタの好き嫌いは別れるかもしれないが、爆発力はなかなかのもの。キャラクターの多彩さも優秀。

半額弁当争奪というあまりにも馬鹿馬鹿しい戦い。けれども、なぜこんなにも熱くなれるのか。魂を揺さぶるそのバトルは果てしなく熱い。主人公の佐藤はよく負けるし、今回は槍水、白粉、著莪の半額弁当争奪戦での活躍はほとんどなかったにも関わらず、その戦いに引き込まれる。

ちなみに、佐藤の二つ名「変態」に異論ございません(笑)。


感想:『ベン・トー〈2〉ザンギ弁当295円』

2009年08月20日 21時26分04秒 | アサウラ
ベン・トー〈2〉ザンギ弁当295円 (集英社スーパーダッシュ文庫)ベン・トー〈2〉ザンギ弁当295円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2008-06-25


シリーズ第2巻。相変わらずの馬鹿馬鹿しさの大暴走は素晴らしい。1巻よりも全体的に向上している。

1巻では名前だけだった主人公の従姉、著莪あやめが1冊通じてメインヒロインの座を射止めている。その分、槍水仙の出番は減ったが、あやめのアクティヴさが物語に活気を与えている。
あやめはギャグ部分でも大活躍で、1巻でそれを担当した白梅梅も登場シーンが激減した。梅とあやめの力関係に対して不満に思うところがないわけではないが、今回の白梅はあやめをイジるためだけの存在といったところだろう。

1巻でも一部三人称パートが挟まれていたが、2巻ではそれが更に広まった。メインは主人公の一人称形式だが、主人公がいるシーンでも三人称パートが描かれるなど構成をよく考えていることが分かる。回想シーンを利用したギャグなど一人称特有のノリを武器にしているものの、三人称の方が合っているように思える。
文章はいまひとつで、見せ場の描き方も物足りなさが残る。予定調和ではあるが、クライマックスへのストーリーの運びは悪くない。だが、戦闘シーンは一本調子になりがちで、カタルシスを与えるような描写に至らなかった。アニメ化して上手い演出で見てみたいと感じる場面なのだが。島本和彦調のコミックもあり。

ギャグマンガ的で、熱血バトルで、学園ラブコメで、なんでもあり。バトルシーンの描写がもう少し上手ければ、カルトな傑作と呼べるかもしれない。ブレーキを踏まずにどこまで突き進むか楽しみな作品だ。


感想:『ベン・トー―サバの味噌煮290円』

2009年08月14日 21時24分20秒 | アサウラ
ベン・トー―サバの味噌煮290円 (集英社スーパーダッシュ文庫)ベン・トー―サバの味噌煮290円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2008-02


以前、『このライトノベルがすごい!2009年度版』で興味を持ち図書館で予約して借りたライトノベル。

馬鹿げたことに必死に全精力を傾ける。それを馬鹿馬鹿しいと思うか、面白いと思うか。後者を選ぶ人には楽しめる作品だろう。
その馬鹿げたこととは、スーパーの半額弁当争奪戦。夕刻、店員が半額を示すシールを貼った弁当を巡る血で血を洗う戦い。この戦いに参戦する《狼》たち。
主人公はこの壮絶な争いに出会い、叩きのめされ、やがて自らもその戦いに引き込まれていく。

たかが半額弁当。わずかな金額のためにそこまでするのかという争いだが、もはやそれはただ半額弁当のための戦いではなく、誇りを賭けた戦いとなっている。
ギャグに分類される作品だが、実はその最も馬鹿馬鹿しいであろう半額弁当を巡る戦いにギャグは少ない。むしろ本格バトルものとなりそうなところを、ヒロインの一人白粉花でバランスを取っているくらいだ。
メインヒロインは「氷結の魔女」こと槍水仙。彼女のかっこよさが序盤の物語を引っ張っている。「魔導士(ウィザード)」や「大猪」などバトルに関わるキャラクターの存在感はかなりインパクトがある。

一方、ギャグの面を担う存在が白梅梅。ツンというより激ヤバ暴走系で賛否は分かれそうだが、彼女を軸に非バトル部分で主に笑いを取っている。基本ダークな笑いが主だけれど。

3章の「ダンドーと猟犬群」がくどい。特に主人公が頭が悪い点が。ただそうした構成上の不満よりも、文章に難があるのがこの作品の欠点だろう。
特別悪いというわけではないが、こなれていなくて突っかかるという印象の文章になっている。改行の乏しさなどを含め、テンポが悪く、視覚的にも読みやすさに欠けるきらいがある。もう少し文章が練れていればもっと面白くなりそうなのに、と感じてしまう。