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感想:『ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円』

2009年10月04日 19時29分56秒 | アサウラ
ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円 (集英社スーパーダッシュ文庫)ベン・トー〈4〉花火ちらし寿司305円 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 630(税込)
発売日:2009-07


アマゾンで注文して半月ほど掛かってようやく到着。シリーズ4冊目。HP同好会合宿を描く。

1作ごとに腕を上げて来たのが見て取れ、3巻はその完成度の高さに感極まったが、技術の向上と作品の出来とは必ずしも合致しないことを表したこの4巻だった。
前作に比べ、主人公の一人称が増えたが、その描写はこれまでよりも洗練され、楽しめるものとなっている。合宿中の他のキャラクターとのやり取りも絶妙で、男子高校生らしさもきっちり表現できている。

ただ最大の魅力である半額弁当を巡るバトルの部分がかなり弱まってしまった。萌えやギャグではなく、燃えこそがこのシリーズの愁眉であり、特に3巻では圧倒的だった。この4巻では描こうとしたテーマとバトルの葛藤があり、それを乗り越えたラストではなく、一方が押し切ってしまった。

以下ネタバレ反転表示。
ストーリーの展開上、「ギリー・ドゥー」真希乃とえりかが勝つ必要があった。しかし、主人公は負けてはいけなかった。あえて2つ残っていた弁当の1つをアンに取らせ、逃げ道を封じて両者の対決に持ち込んだ訳だが、どちらかの勝利とする以外の結末を作り出さなければならなかった。それが出来なかった時点で、厳しく言えば失敗作である。
確かに、今後の展開に対する伏線や、そのための敗北という意味合いがあったのかもしれない。だが、この敗北はそのように捉えられない。勝てない主人公に魅力はない。勝てなければ物語の主人公となり得ない。シリーズを通してというだけではなく、それぞれの巻でしっかりと主人公を描かなければシリーズを通しても魅力は損なわれてしまう。もちろん、主人公が敗北すること自体は必要だろう。巻を通して勝てないことがあってもいい。しかし、それは確実に勝利へと覆されなければならない。今回の敗北は、二度と逆転できない敗北だから駄目なのだ。たとえ今後二人に何度勝とうが今回の敗北とは意味が違う。
シリーズ構成という意味でやってはいけない敗北だった。戦えなかったという結末であれば、それを乗り越えるという展開が出来たが、今回は取り返せない敗北だった。今後、二人のように様々なものを背負ったキャラクターを対峙させたとき、主人公を勝たせられるか。背負ったものの大きさで強さが決まってしまうことにならないか。
書いて世に出た以上なかったことには出来ない。キャラクターに背負わせないことで回避する手はある。しかし、それは現実的とは言えないだろう。恐らく、槍水の過去、HP同好会の過去を描けば背負うものが出てきてしまう。今回の敗北がシリーズの将来に暗い影を落とすという予感がどうしても漂ってしまう。好きな作品だけに、この不安が杞憂に終わってくれればと思わざるをえない。



アニメ感想:咲-Saki-

2009年10月04日 17時50分53秒 | 2009春アニメ
最終話「全国」は、主要キャラクター露天風呂入浴シーンというサービスカット、咲と和がついに互いに名前で呼び合うという二人の友情(愛情?)の大きなステップアップ、そして全国大会をプロモーション風に描いてみせた。全国大会については、二期を見越してというよりは、二期やらないから好き勝手に煽ったって印象が強いが、見てみたい気持ちはもちろん膨れ上がっている。ただ、アニメオリジナルの出来(県予選個人戦)を見ると、原作でまず描いて、それのアニメ化が望ましいと感じる。今のペースで全国大会を描き切るにはどれだけ時間が掛かるか雲を掴むような話だけれど、いつかは……という気持ちは捨て切れない。

現時点で、2009年のTVアニメでナンバーワンの評価をしている。麻雀を知らなければ『けいおん!』が上だろうが、演出の妙味とストーリーの熱さでこちらに軍配が上がる。萌えと燃えを兼ね備えた強みである。
キャラクターの個性と麻雀の個性を上手く結び付けたことが勝因の一つだ。リアリティには拘らないが、ルールやリアルなところはちゃんと描く。原作のそんな持ち味を損なわず、更にTVアニメらしい演出を多分に含んでパワーアップした。地味な麻雀アニメを華やかでありながら熱さも決して削ぎ落とさない作品に仕立て上げた。

終盤のアニメオリジナルの部分が尻つぼみとなってしまったのは残念だ。県予選個人戦は団体戦の縮小再生産といった感じとなってしまったし、プールや温泉といったサービス重視の展開は、キャラクターの個性を深めるというよりはなぞっただけに過ぎなかった。それでも作品世界の魅力を壊さなかっただけで御の字とも言える。最後の失速を込みにしても非常に印象深い作品だったことは間違いないのだから。

咲-saki- オリジナルサウンドトラック咲-saki- オリジナルサウンドトラック
価格:¥ 3,000(税込)
発売日:2009-10-07