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感想:『ライトノベル★めった斬り!』

2010年01月31日 22時39分38秒 | ライトノベル
ライトノベル☆めった斬り!ライトノベル☆めった斬り!
価格:¥ 1,554(税込)
発売日:2004-12-07


以前、「ライトノベルめった斬り!」の記事で、ネット上に掲載されている本書で取り上げられている100作品については触れた。Wiki「奇想庵の100冊」でそれを参考にライトノベル・ブックガイドも作ってみた。しかし、そもそも本書を読んでいなかった。本末転倒な感じだが、今更ながら読んでみた。

2004年に書かれているだけにドッグイヤーのように変転流転するライトノベル界の情報としては古い印象も受ける。また著者二人がSF系ということでかなりの偏向が存在していることも伺える。それでもライトノベル史にとっては一里塚的な本であることは間違いないだろう。
本書は二人の対談から成り立つパートと、作品紹介のパートの二本立てとなっている。対談パートは、ライトノベル前史、ライトノベルのあけぼの、ライトノベルの確立、ライトノベルの現在の4つに分けられているが、面白いのはやはり前史からあけぼのにかけて。1961年生まれの大森望と1962年生まれの三村美衣ということで、彼らの青春時代近辺の話はさすがに熱い。
昨日たまたま見つけた作家久美沙織によるライトノベル創世期を綴ったサイトその名も「創世記」で当時の青春時代像が書かれている。まだ家庭にビデオが普及する以前の映像コンテンツへの思いや、日常における電話の位置づけなど、今とはまるで違う姿が記されている。久美も1959年生まれでほぼ同世代。簡単に所有できるようになったことにより、消費スピードが恐るべき速さとなってしまったという現在に対する指摘は興味深い。
本書での二人の知識の幅もライトノベル創世期に関してはさすがのもの。SF系をメインとしながらもコミックや児童文学まで幅広く取り上げている。一方で、確立以降はゲームへの知識不足などもあって物足りなさは否めない。

ライトノベル作品紹介では、SFのマニアックな作品を喩えで出すあたりにかなりの違和感が。例えば、『銀河英雄伝説』の項では、ジョージ・R・R・マーティンの「炎と氷の歌」を挙げるけれども、いったいどれだけの読者が理解できるのかと感じた。
二人が実際に読んで紹介していることもあり、取り上げた作品に偏りが感じられるのは仕方がないところ。それでも男女両方をここまでまとめたブックガイドは他にないだろうけれども。

ライトノベルの広がり的な方向性が書かれている。新本格などライトノベルとの境界がどんどんと曖昧になっているのは事実だろう。ただ日本のサブカルチャーの大きなウェイトをオタク系文化が占めている事実を考えればそれは必然と呼べるものだろう。
むしろ、そうしたオタク系文化におけるライトノベルの位置づけや、オタク系文化全般の歴史・方向性といった内容は、あかほりさとるや涼元悠一との関係である程度は書かれているもののもっと鋭く踏み込んで欲しかった領域である。それを書くとすれば、もう1世代か2世代若い連中ってことになるだろうが。

このライトノベルがすごい!2010」でベストテンの作品のうち、ファンタジーは「黄昏色の詠使い」「蒼穹のカルマ」のみ。「バカとテストと召喚獣」「とある魔術の禁書目録」が異世界学園もの。「化物語」「文学少女」は伝奇要素の入った学園もの。残りの「とらドラ!」「生徒会の一存」「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」「ベン・トー」はありえないという意味ではファンタジーとも呼べるが、設定上は一切非リアルには基づいていない。特に「生徒会の一存」はライトノベルに日常系を組み込んだもの。これまでライトノベルの日常系は異者(例えばガーゴイル)の存在が前提だったけれども、「生徒会の一存」にはそれはない。未だ空気系ライトノベルシリーズというものを確認していないが、それも時間の問題なのかもしれない(空気系は「あずまんが大王」「らき☆すた」「けいおん!」などに代表される日常系で、男性主人公や恋愛要素を意図的に削ぎ落としたもの)。
ライトノベルと言っても非常に多様なので一概に総括できるものではないが、他ジャンルと相互作用を起こしながら流行の傾向というものは築かれていくだろう。もちろん、そんな流行お構いなしに現れる力持った作品こそが期待されるべきものかもしれないが。