奇想庵@goo

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感想:『別冊 図書館戦争I』

2009年08月31日 18時09分51秒 | 有川浩
別冊 図書館戦争〈1〉別冊 図書館戦争〈1〉
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2008-04


「図書館戦争」シリーズ最終巻『図書館革命』で郁と堂上の二人が交際を始めて、エピローグで結婚しているその間を描いた番外編。メインストーリーは完結しているので、恋愛要素がこれまで以上に前面に出ている。こっ恥ずかしいノリではあるが、恋愛の王道という感じでもある。少女マンガっぽいとも言える。
そのためシリーズのどこに楽しみを見出していたかによってこの別冊に対する評価も変わってきそうだ。元からキャラクターメインの青春小説風に楽しんでいたので、こういう展開は私にとっては望むところ。相変わらず素直にただ楽しむ、それだけで満足できるシリーズ。残り1冊となってしまったことだけが切なかったりするのだが。

付記。
書こうと思って忘れていたこと。どうでもいい話なのだけれど。巻頭の人物紹介、中澤毬江に大学一回生とある。昔、講談社学術文庫の『生きている日本語』という本を読んで初めてこの「一回生」という言い方がほぼ関西地方に限定された方言であることを知った。急に廃れたということがなければ、今も関西では大学生の場合「一回生、二回生、……」という言い回しが一般的だろう。少なくとも、くだけた会話において「大学一年生」と言うのには違和感がある。
有川浩は高知県出身だが、著者略歴によると関西暮らしが長いようだ。図書館戦争の舞台は東京なので、一回生という表記は誤りと言える。でも、これが方言だなんて、指摘されないとまず気付かない。詳しくは分からないが戦前頃より京都大学あたりから広まった表現で、関西では一般的に普及してしまったがゆえにそれが当たり前だと思い込んでしまっている。
方言に限らず、誤った使い方で覚えている言葉などけっこう気付きにくい。出版物の場合、校正によって誤用は訂正されているはずだが、見落としが決してないわけではない。近年は関西の方言が若者言葉として全国に広まるパターンもあるが、「一回生」はそれに当たらないだろう。
なんにせよ言葉は難しい。当ブログでも相当の誤記誤用があると思われる。気にしていては書けないから、そこはもう諦めるしかないんだけれどね。

参考:NHK 気になることば


感想:『蒲生邸事件』

2009年08月30日 23時32分39秒 | 宮部みゆき
蒲生邸事件蒲生邸事件
価格:¥ 1,733(税込)
発売日:1996-09


日本SF大賞受賞作。評価の高さを聞き及んでいたので、宮部みゆきの最初の一冊に選んだのだが……。

期待が大きすぎたのかもしれない。或いは、発表当時であれば違った感想となったのかもしれない。宮部みゆきのストーリーテラーとしての力で最後まで読み切ることはできたが、残念なことにどこが面白いのか見出すことができなかった。
タイムトラベルものであり、過去への干渉が歴史によって修正されるという設定は、当時としては不明だが、現在において目新しさを感じるものではない。

その上で不満を感じたのは大きく二点。一つは主人公に感情移入できなかったこと。もちろん作品の演出上主人公にはこのような性格が必要だったのだろう。現実的な知識量であり、内面であったことも事実だ。それが理解できても主人公に対して思い入れが全くできなかった。
もう一つは「驚き」がなかったこと。設定でも、ストーリー展開でも意外性を感じることがなかった。どこかに捻りがあるのかと思いつつ読んでいたが、最後まで見られなかった。「驚き」や「センス・オブ・ワンダー」だけがSFの条件とは言わないが、私にとってこの作品はSFとは呼べないものだ。

そして、行き着いた先は、なぜ二・二六事件なのかということ。確かに歴史の転換点の一つと言える事件だが、この作品のテーマである歴史の修正という考え方、別の言い方をすれば歴史の必然性だが、それこそ一つの事件の影響力よりもじわじわと細部から湧き上がって流れというものを生み出すものだと思う。当時の時代背景が十分に伝わるものだったのか、確かに非常に丁寧には描かれていたがそれでも疑問が残ってしまった。

この作品の評価が宮部みゆきの評価にそのまま繋がるというものでもない。SFや歴史に対する見方が合わなかっただけと現段階では見なしている。劇場アニメの『ブレイブ・ストーリー』が著しく肌に合わなかったので(原作は未読)、相性が悪い可能性も考えられるが、どちらにせよもう少し他の作品を読んでから評価を定めることにしよう。


アニメ感想:咲-Saki- 第21話「追想」

2009年08月29日 12時44分29秒 | 2009春アニメ
県予選個人戦1日目。原作よりストーリーは先行して展開している。アニメオリジナルとみなした方が良さそうだが。

1日目は東風戦20戦を行い、その成績上位者が2日目に進めるという。ちなみに県代表は3名。
東風戦ということで清澄の優希が絶好調。14戦でトップと2位以下を大きく引き離しての好成績を残した。ただし、2日目のルールについては一切明らかになっていない。初日の成績が引き継ぎなのかどうかも分からないし、どのようにして代表を選出するかも不明。ルールによって展開が大きく左右されそうだ。

1日目の結果は表示されたものの、TV画面で確認できたのは上位30人の半数ほど。さすがに2ちゃんねるではほぼ解明されているようだ。

01 片岡優希 清澄 1
02 福路美穂子 風越女子 3
03 加治木ゆみ 鶴賀学園 3
04 国広一 龍門渕 2
05 原村和 清澄 1
06 沢村智紀 龍門渕 2
07 竹井久 清澄 3
08 井上純 龍門渕 2
09 東横桃子 鶴賀学園 1
10 池田華菜 風越女子 2

11 吉留未春 風越女子 2
12 片桐詩央 天竜女学院 3
13 志波令 裾花 2 ☆
14 中山栞 西原山林 3 ☆
15 染井まこ 清澄 2
16 深堀純代 風越女子 2
17 霧原あづみ 天竜女学院 3
18 雨宮須磨子 裾花 2 ☆
19 西沢心 開智実業 3
20 蒲原智美 鶴賀学園 3 ☆

21 市川望 城山商業 3 ☆
22 文堂星夏 風越女子 1 ☆
23 □瀬川成美 杏花台 3 ☆
24 宮永咲 清澄 1
25 大海桜子 千曲東 3 ☆
26 田中舞 今宮女子 3 ☆
27 弓野奈津美 風越女子 3 ☆
28 卯月栄花 北天神 2 ☆
29 南浦数絵 平滝 1 ☆
30 押水香織 高瀬川 2 ☆

☆は2ちゃんねる参考。上位30位まで表示されたが、実は2日目に進出できる人数が30人かどうかも示されていない。主だったキャラクターの中では龍門渕透華が妹尾佳織に国士無双を振り込んだため30位以内に入れず。

一方、新キャラクターとして南入後に大暴れした南浦数絵が登場した。原作2巻60ページのモブシーンにそれらしき人物が登場し、アニメ第7話ではより明確に描かれている。特に次回予告に現れた男性が彼女と一緒にいることで、その時点から伏線が張られていたことを証明している。
団体戦と違って精神的な面で気合が乗らない咲が、どう立て直していくのか。団体戦ではのどかの喝が効いたが、同じ演出では物足りない。展開の予測しにくい状況だけに、次回がお休みというのはとても残念だ。

福路美穂子と竹井久の関係について、原作では福路は竹井が自分のことを覚えているかどうか気にしていないし、竹井は「どっかで見たことある」という認識を示している。アニメでは福路にとって竹井は非常に意識する相手であり、覚えられていなかったことにショックを受けた。竹井も全く気づいていないように描かれていた。その伏線をここで回収した。福路が右目を開いたことで竹井が思い出し、福路は勝利と共に喜びも見出す。南浦数絵の件と同様、最近のアニメでは珍しい手の込んだ演出がこの作品の魅力に大いに繋がっていることは間違いない。

咲-saki- オリジナルドラマ第1局咲-saki- オリジナルドラマ第1局
価格:¥ 2,500(税込)
発売日:2009-08-26



アニメ感想:涼宮ハルヒの憂鬱「涼宮ハルヒの溜息III」

2009年08月28日 01時43分37秒 | 2009春アニメ
「涼宮ハルヒの憂鬱」第22話。「涼宮ハルヒの溜息」3話目。1話55ページをほぼキープ。このペースを維持すると、「溜息」は残り2話となりそうだ。

内容は原作に忠実。背景は美麗。アニメだからいいが、実写だと相当痛々しそうなみくるのコスプレ。まあその痛々しさが重要と言えば重要なわけだが。
目からレーザーの描写はさすが。レーザーなのだし。

1期で残っているのは、「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」「ライブアライブ」「射手座の日」「サムデイ イン ザ レイン」の4話。28話予定と言われていたが、ここにきて26話という噂も出始めた。通常2クール26話で、それを越えることは滅多にない。
1期は14話。2期も「溜息」が予想通り残り2話だとすると14話となる。もし26話が正しいとすれば、次回が「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」とはさすがに考えにくいので、1期の残り4話のうち2話が削られることになるだろう。「溜息」で撮影された映画である「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」と唯一のオリジナルである「サムデイ イン ザ レイン」が削られる対象となる可能性が高そうだ。

「エンドレスエイト」の暴挙によって「消失」はまさに消失した。『涼宮ハルヒの憂鬱』の原作の中でもファンの支持の高い「消失」をアニメ化しないという選択肢は考えにくいので、可能性は3期か劇場版かOVAのいずれか。例えば、2期で予定していたのに急遽劇場版の制作が決定し間を繋ぐために「エンドレスエイト」をあのようにしてしまったという予想は可能だろう。
3期をやる場合、いきなり「消失」からではシリーズ構成が厳しいし、「消失」以外の話も中途半端な印象が拭えない。一方、ファンの反発を受けてしまった後でOVAでの展開というのも難しく感じられる。そうすると続きは劇場でという告知がTVシリーズ終了に合わせる形であってもおかしくはない。劇場版で元が取れるという判断なら、今回の放送はそれの宣伝という位置付けになるだろう。
これで「消失」アニメ化がなければ、特に原作が凍結している角川の場合どれほどの利益獲得の機会を損失しているか呆れてしまう。作品の質よりもこうした話ばかりが前面に出てしまう時点で大いに問題があるが、角川の機会損失は同時にファンの愉しむ機会の損失でもあるのだから。

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)
価格:¥ 540(税込)
発売日:2003-06



感想:『狼と香辛料 (10)』

2009年08月27日 22時45分47秒 | 本と雑誌
狼と香辛料〈10〉 (電撃文庫)狼と香辛料〈10〉 (電撃文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2009-02


ウィンフィール王国が舞台。ホロのような”大いなる存在”が、ホロ以外で初めて人の姿で登場した。
人の時代となり、人によってその存在を脅かされるという構図はファンタジーではありふれたもの。食傷して飽き飽きしていると言ってもいい。これまでもそういう雰囲気は醸し出されていたが、はっきりとその構図が示されてがっかりしたのは間違いない。

齢数百歳の賢狼ホロを「若い狼」と呼ぶ”羊”。「月を狩る熊」に故郷を追われ、彼は新たな故郷を作り上げた。考えてみれば、それは自然な成り行きだろう。彼やホロの寿命から換算すれば、その出来事はそんなに昔のことではない。”熊”の凄まじさから鑑みれば、人の間にもっと伝承が残っていてもよさそうなほどだ。

物語的には大修道院と世界最強の経済同盟の問題を、運ぶ金箱の中身をどう確認するかという問題まで矮小化し、それをロレンスが解決するというなんともあっけないものだった。話のスケールが大きくなればなるほど、一行商人であるロレンスができる役割は限られてしまうせいだが、ロレンスがどんどんと役立たず化してしまっているのは間違いない。

ハスキンズがロレンスに語ったヨイツの話が強烈な引きとなっているが、そろそろ落としどころに向けて歩き始めないと、迷走している感じが強くなってくる。とっととヨイツに行って第1部完、仕切り直して第2部突入くらいやって欲しいところだが、ずるずる行きそうで怖い。


感想:『塩の街』

2009年08月27日 22時20分24秒 | 有川浩
塩の街塩の街
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-06


有川浩のデビュー作だが、文庫版を大幅改稿、続編として後日談を4編追加と手を加えられたハードカバー版。有川浩にはハードカバーがよく似合うのは確かだが。

人類滅亡の危機に瀕した世界が舞台。SFではよくある設定。その設定下での人々の姿、想い、愛を描く。
冒頭の遼一の展開は、新井素子の『ひとめあなたに……』を思い起こさせた。最初の3章は日常が突然崩壊し、生き残った人々の苛酷な様を描いている。常識が通用せず、ただ力が支配する世界を生々しく描写している。その生々しさは、人の変わり果てた姿である塩の柱の存在や、塩に変わった人の姿によって伝わる一方、生き残った人々の汚さや醜さによっても伝わってくる。

後半3章は、世界を救う愛の物語というある意味「セカイ系」的な様相を呈す。平凡な女子高生である真奈と、自衛隊のエースパイロット秋庭の恋。秋庭のためなら世界が救われなくてもいいという真奈。真奈のために危険に赴く秋庭。世界なんてたいしたものじゃないという当たり前のことを当たり前に描いた珍しい作品とも言える。
ただこれを男女の性差に落とし込んだのはナンセンスだった。もし立場が逆なら、真奈は秋庭のために命を惜しむかと言えばそんなことはないだろう。それをできる人間が、するだけの理由を持っていたから、そのついでに世界が救われただけだ。

厳しいことを言えば、後半の物語は破綻している。秋庭の行動のリスクが低すぎた。真奈が命を懸ける意味が伝わらない。読んでいる時は勢いで納得できても、ちょっと冷静になればそう感じてしまう。釣り合うように描けなかったという意味で、後半は物足りないものとなってしまった。

追加された後日談4編。
ノブオの話はもう一つの出来。まだ有川浩は5冊目だが、どうも子供の描写が上手くないように感じる。『図書館戦争』でもそうだった。真奈くらいの年齢であれば、恋愛を軸にすれば巧みなのだが。
野坂夫妻の話は手馴れた恋愛譚として楽しめた。由美の、キレイゴトだけでは済まない内面と、厳しいけれども言わざるを得ない立場とが彼女の強さと弱さを伝えている。非常時であればあるほどキレイゴトは意味をなさないという苛酷さもまた。
入江の話もまたもう一つの出来。あとがきにも書かれているように、入江をメインにすると入江らしさが薄れていく。更に言えば、入江らしさを彼の家庭環境に落とし込んでいる点もつまらなく感じた。
最後は秋庭と真奈のその後。秋庭と彼の父との関係に真奈が踏み込んでいく描写はさすがに素晴らしい。この世界の物語の終わりに相応しい内容だと思った。それだけに3年後の部分は蛇足気味に感じてしまった。

滅び行く世界での淡い想いを、世界の危機を救う熱い恋愛劇へと転換させた、その役割を担った者が入江だ。ストーリー上の必要によって成立するキャラクターだが、作中で最も印象に残る存在だった。「大の虫を生かして小の虫を殺す」の言葉を実践する人物。もっと悪役然としていても良かっただろうが、憎めなさを残すキャラクターだった。
救うべき価値があるかどうか定かではない人類。人類に対する絶望を認め、それでもなお、ほんのちょっとのいいところを探し出してまあいっかと言う能天気。それは新井素子的な世界観だけれど、その中で恋愛に意味を見出したのが有川浩と言えるかもしれない。


感想:『彩雲国物語―想いは遙かなる茶都へ』

2009年08月26日 18時44分45秒 | 彩雲国物語
想いは遙かなる茶都へ―彩雲国物語 (角川ビーンズ文庫)想いは遙かなる茶都へ―彩雲国物語 (角川ビーンズ文庫)
価格:¥ 480(税込)
発売日:2004-09-28


「彩雲国物語」4巻。舞台は茶都へ至る旅路。命を狙われる一行5人のそれぞれの姿が描かれる。

美形で危険でちょっと強引な男。朔洵。
女性は男性の内面ではなく外見に惹かれるものだが、そこにちょっと危ない雰囲気なんてあれば。
ヒロインが明らかに敵と言えるこうした男に惹かれるという展開は、他の作品にも見られるものだ。昔これにそっくりな展開を見た気がするのだが、残念ながら思い出せない。近い展開ならいくつか思い浮かぶが。
劉輝の健気さに肩入れする身としては、辛く切ない。秀麗に恋愛面での完璧さを求めるのは筋違いだし、うぶな彼女にとって朔洵は刺激が強すぎたとも言えるだろう。恋愛を物語の展開の軸に置かないこのシリーズで、どこまでその影響が及んでくるかは気になるところだ。

燕青の過去の描写などかなり強烈な内容を含む。甘いだけの世界ではない。『十二国記』などとは次元が違うが、書き手の覚悟が伝わってくるからこそ数多ある他のファンタジーと一線を劃しているのだろう。


感想:『狼と香辛料 (8)(9)』

2009年08月26日 18時23分16秒 | 本と雑誌
狼と香辛料〈8〉対立の町(上) (電撃文庫)狼と香辛料〈8〉対立の町(上) (電撃文庫)
価格:¥ 536(税込)
発売日:2008-05-10
狼と香辛料 9 (9) (電撃文庫 は 8-9)狼と香辛料 9 (9) (電撃文庫 は 8-9)
価格:¥ 578(税込)
発売日:2008-09-10


初の上下巻本。
ケルーベの町を揺るがす対立に巻き込まれたロレンス。やり手のエーブと切れ者のキーマンの狭間で活路を見い出せるか、という物語。
上巻のあとがきに、下巻はロレンスがかっこいいはずと書かれていたが、全くそう見えなかったことは残念。

この「対立の町」の物語を担っているキャラクターはエーブである。5巻レノスの町でロレンスと殺し合いを演じたエーブ。彼女とロレンスとの、しかし、ある種の信頼が成立している関係は人間関係の機微の複雑さを上手く描いている。どこまでが演技でどこまでが本音か見えないキャラクター。もう一人の”狼”。ロレンスの物語として見たとき、ホロ以上に重要な役割を演じている。
確かに印象的なキャラクターであることは間違いない。ただ魅力的なキャラクターかと問われると疑問の余地が大きくなる。
彼女は非合法すれすれではなく、明確に非合法な手を使う存在である。正直彼女を商人という枠組みで計っていいか怪しいところだ。その割には、5巻の時と比べると「甘く」見えてしまう(5巻でも宿屋の権利書の覚書を残すという甘さは見せたが)。結局最後まで彼女の人物像がぼやけたままだった。極端に言えば、彼女は助けるべき存在だったのか、と。

「狼の足の骨」というマクガフィンを創出はしたものの、それが三人にとって、そして物語の展開にとって、どれほどの価値を持つものか説得力に欠けているのが現状だ。旅を続ける名目のために、という理由は、ロレンスとホロが立ち向かうことを放棄し逃げ込んだものに過ぎない。
エーブを助けたのは「狼の足の骨」を得るためというよりロレンスが「お人好し」だったから。ロレンスが「お人好し」なのは今に始まったことではないが、それでもこれまでは商人として利益を得ようという意志との葛藤があった。今回の物語はロレンスにとって手に余る規模の商戦だったせいもあり、彼が商人として活躍する場面が全く無かった。

9章に入る前後から急に御都合主義的な印象が強くなる。クライマックスを迎えある程度は仕方が無い。それでもその強引さは不快に感じられた。このシリーズらしいオチには至ったが、そこに至る経路にらしさが感じられなかった。
5巻以降頭打ちになった感は否めない。もっと面白くなりそうなのにつまらないところにこだわって停滞している、そんな印象を受ける。エーブとホロの直接のやり取りは一度も描かれなかった。省略をほとんどしないこのシリーズで、二人のやり取りの描写は省略され、本編では相まみえることはなかった。ホロを物語の展開に絡ませられなくなってきている感じがする。強大な力を持つがゆえという面ももちろんあるが、ホロのキャラクター性と作者の思い描く造型とのずれが大きくなってきたからのようにも見える。
とてもユニークなシリーズだし、優れた作品だからこそ、この壁を乗り越えて欲しい。そんな期待があるからこそこうしてグチグチと書いてしまうわけだ。


感想:『彩雲国物語―花は紫宮に咲く』

2009年08月25日 22時53分59秒 | 彩雲国物語
彩雲国物語―花は紫宮に咲く (角川ビーンズ文庫)彩雲国物語―花は紫宮に咲く (角川ビーンズ文庫)
価格:¥ 480(税込)
発売日:2004-07


「彩雲国物語」第3巻。初の女性官吏となった秀麗が、厳しい試練にめげず立ち向かう姿を描いた。
少女小説でありながら恋愛に流れないところがこのシリーズの特徴でもある。秀麗がそういった面ではまだ子供という感じで描かれているせいだが、国王である劉輝との関係は気になるところ。というか、劉輝が可愛そうに見えるのは私だけ?

気になる点も少なくはないが、話に膨らみ、広がりがあって異国運営ファンタジーとしては及第点だろう。伏線の張り方は見え見えすぎるが、秀麗のキャラクター性ですべてカバーしている感じ。
次巻では舞台を移し新展開となりそうだが、秀麗の活躍を期待することとしよう。


感想:『SFはこれを読め!』

2009年08月25日 22時31分47秒 | 本と雑誌
SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書)SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2008-04


2008年に刊行されたSFブックガイド。初心者向けで読みやすくライト。表現にちょっと引っ掛かるところもあるが、熱い想いがうかがえて読んでみようと思わせるだけにブックガイドとしては成功と言えるだろう。
11章構成で、1章ごとに2冊のSF小説を取り上げて語り、またそのジャンルの他の作品紹介も行っている。巻末には海外・日本の短編SFやオール・タイム・ベストSFも掲載している。
昔はSFファンとしてそれなりに読んではいたが、最近はさっぱりということで、知らない作品ばかりかと思っていたが、意外にも読んだ作品も多く取り上げられていた。海外SF偏重傾向はあるものの、SFらしいSFという意味ではそれも仕方ないところか。