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感想:『戦う司書と終章の獣』『戦う司書と絶望の魔王』『戦う司書と世界の力』

2010年01月30日 21時46分31秒 | 山形石雄
戦う司書と終章の獣 BOOK8 (集英社スーパーダッシュ文庫)戦う司書と終章の獣 BOOK8 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2008-04-25
戦う司書と絶望の魔王 BOOK9 (集英社スーパーダッシュ文庫)戦う司書と絶望の魔王 BOOK9 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 680(税込)
発売日:2009-07-24
戦う司書と世界の力 BOOK10 (集英社スーパーダッシュ文庫)戦う司書と世界の力 BOOK10 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 650(税込)
発売日:2010-01-22


シリーズ8冊目『戦う司書と終章の獣』は昨年末に読了し、感想を書きそびれていた。そして、最終巻となる10巻刊行に合わせて9巻と共に読んだ。バントーラ図書館を巡る長い一日を三冊にわたって描いているので、感想もまとめて記しておく。

シリーズ第1巻にして著者のデビュー作である『戦う司書と恋する爆弾』を読んだときは、ちょっと風変わりなファンタジーとしか思わなかった。その後も一冊ごとに波もあり、決して突出した傑作だとは思えなかった。5巻目にあたる『戦う司書と追想の魔女』でようやく物語の輪郭が見えてきたが、それはこの作品の全体像のほんのごく一部に過ぎなかった。
次々と明かされる真実と予想を裏切る急激な展開。『戦う司書と終章の獣』以降、物語は加速し、重層化した。

以下、ネタばれ。
真の敵の登場とあっけない世界の滅亡。バントーラ図書館最後の日は驚天動地の展開を見せた。『戦う司書と絶望の魔王』によりついに全ての真実が明かされる。もはや善悪を超え、物語は幾重にも折り重なり、これまで語られたものが真の姿をさらけ出す。
この物語は絶望の物語である。20世紀後半以降、絶望を知らない物語は語る価値を失っている。一方、絶望に打ちひしがれるだけでは物語の必然性はない。絶望を知り、なお生きていくために物語は存在する。
この物語は、記憶を消され人間爆弾としてハミュッツを殺すことだけを命じられたコリオ=トリスの物語である。この物語は、世界を救い世界を滅ぼすルルタ=クーザンクーナの物語である。この物語は、たった一つの目的のために生み出された道具であるハミュッツ=メセタの物語である。この物語は、菫の咎人と呼ばれたチャコリー=ココットの物語である。この物語は、エンリケ=ビスハイルの物語であり、ミレポック=ファインデルの物語であり、マットアラスト=バロリーの物語であり、ノロティ=マルチェの物語であり、ラスコール=オセロの物語であり、そしてニーニウの物語である。その望みも、生き様も、考え方もまるで異なる人々が、激しく交差するその瞬間を描くために構築された楼閣。それがバントーラ図書館だった。
『戦う司書と世界の力』におけるルルタとハミュッツの戦いは、どちらの勝利も望まない、望めない戦いだった。


しかし、『戦う司書と世界の力』はその後大きくエンターテイメントに徹することとなる。テーマ性に殉じるのではなく、王道のエンターテイメントとしてこれまで溜め込んでいたものを一気に噴き出した。そのことに対する評価には賛否があるだろう。『戦う司書と絶望の魔王』でニーニウに背負わすための描写がやや弱く、テーマ性で押し通すには最後まで支え切れなくなりそうに感じていたため、私自身はこの選択を妥当なものと感じた。ライトノベルだからと言う訳ではないが、エンターテイメントとしてスタートした作品である以上、エンターテイメントとしてこれ以上ない程の結末を用意できたことを評価したい。

結果としてテーマ性は弱まった。最終巻は厚さではなく熱さが目立った。シリーズ全体としてもブレはあったが、それでもここまでワクワクする物語を描いてくれたことに敬意を払いたい。1巻から思えば、本当によくここまでたどり着いたと感じる。
クセもあるし、面白くなるのはシリーズ後半ということもあって人に勧めにくい作品だろう。2010年のベストの作品と言ってもまだ1月だし、ライトノベルシリーズでベスト3に入ると言ってもそう多く読んでるわけではないので価値が薄い。☆評価は『戦う司書と終章の獣』『戦う司書と絶望の魔王』が☆☆☆☆☆☆☆、『戦う司書と世界の力』が☆☆☆☆☆☆☆☆。ただし、最終巻の☆8は限りなく9に近い8だと言っておく。ここ最近高評価連発だが、決して大安売りなのではなくてそれだけの作品だと言うことも記しておこう。




これまでに読んだ山形石雄の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

戦う司書と恋する爆弾』(☆☆☆☆☆)
戦う司書と雷の愚者』(☆☆)
戦う司書と黒蟻の迷宮』(☆☆☆☆)
戦う司書と神の石剣』(☆☆)
戦う司書と追想の魔女』(☆☆☆☆☆☆☆)
戦う司書と荒縄の姫君』(☆☆☆☆☆)
戦う司書と虚言者の宴』(☆☆☆☆☆)
『戦う司書と終章の獣』(☆☆☆☆☆☆☆)
『戦う司書と絶望の魔王』(☆☆☆☆☆☆☆)
『戦う司書と世界の力』(☆☆☆☆☆☆☆☆)


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